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外電~魔道任務任命部鏡今花〜

魔道良2205室北棟48階65室の奥でデスクトップ型パソコンの手前にノート型パソコンを置き、ノート型パソコンの左にスマートフォン、右にコーヒーの入ったカップを置いて鏡今花は仕事をしていた。

現在時刻は11時30分、昼食休憩まであと30分だ。

「鏡、この表どう思う。」

「鏡さんすみません。フリーの方に提供する任務の依頼一覧表なんですけど。」

「鏡ピンチだ。屋外式典の警備員の募集定員が埋まらない。」

「鏡、フィールドワークの仕事と依頼希望グループの数がアンバランスすぎるんだけど。」

鏡の両サイドの席と正面の席、それから鏡と背中合わせで座る後ろの席の職員が次々に鏡に声をかける。

「まとめて言うなちょっと待て。」

今花がノート型パソコンでの入力の手を止め、ブルートゥースイヤホンを外す。

「鏡さんすみません。」

今花の席へ別のデスクから職員が駆けてくる。

「悪いな俺が先だ。」

「ずるいです。私も急ぎなんですよ。」

今花がため息をついて通路に立つ職員を見る。

「見せて。」

「はい。」

「ずるいです。私の方が先に声をかけたのに。」

「おまえたちのヘルプはさっき一度した。」

今花が印刷された表をしばらく見て、職員に視線を写した。

「何に困って相談に来た。」

「これすべて50グループに名指しで来た依頼なんですけど、どう割り当ててもオーバーするんです。」

「いつものように全部持って行って、向こうに選んでもらえばいいだろう。」

「それが。」

女性職員が口ごもる。

「早く。」

「はい、選んでいただくだけの余裕もなくて。」

「今月の予定表を。」

「はい。」

女性職員が違う紙を渡す。

「事務仕事を頼むだけの時間もないのか。」

女性職員が顔を逸らす。

今花よりも若い職員だ。

「毎月仕事量は加減するようにと、特に「八星」さんが出動するような物は本人の希望してきた分量の7割に制限するようにと言っているだろう。八星さんは責任感が強いし現場が好きだから、そっちに時間を取りがちなんだ。事務的なことにも時間を割いてもらうためにもそれぐらいは何とか交渉しろ。」

「してますよー。負けちゃうんです。」

「それは「二水」の能力次第だな。」

「そんなあ。」

二水ががっくり肩を落とす。

「八星さんってすごく関わりやすいじゃん。」

「そうよ、うちに比べたらずっと。」

今花の周りに座り、今花のヘルプを待っている他の職員が口を挟む。

「そうですけど。」

「もう一人立ちした身なんだ。50グループのマネージメントは二水の仕事だろ。私ができるのはアドバイスをすることぐらいだ。実際に八星さんと交渉するのは二水なんだから、しっかりしろ。」

「わかりました。ありがとうございました。」

二水がしょんぼりして今花に背を向け数歩進んだところで、ぱっと振り返った。

「あっそうだ、鏡さんこの前ご相談した件、木漏れ日さんに伝えていただけました。」

「あー、悪い。忘れていた。」

「もう困ります。八星さんに急かされてるんですから。」

「わかった、わかった。できるだけ早く返事をしよう。」

「今月中にお願いしますよ。」

「二水くーん、今月はあと1週間ぐらいしかないし、29日から31日はお休みだよー。」

「関係ありません。」

二水が今花の右隣に座る男性職員を一度睨み歩いて行った。

さっきまでの落ち込み用とは打って変わってつかつかと歩いていく。

「一応僕上司なんだけどなあ。」

男性職員が呟く。

「上司と言うなら、私にヘルプを求めないでいただきたい。」

「上司も部下も関係なく、困ったときはお互い様だよー。」

「「山本」さん、さっき言ってたことと矛盾してますよー。」

「あれ。」

今花の正面に座る若い職員が山本にやんわり指摘をする。

今花がため息を一つついて山本のパソコンを覗き込む。

「さっき何て言ってましたっけ。」

「この表だよ。」

今花が表を凝視する。

「どこに問題があると。」

「ここだよここ。」

山本がタッチペンで細かな表の一部をつんつんと叩く。

「フリーの子たちの業務時間の平均が、上限よりオーバーしてるし、8月に入ってその傾向が強くなっている。」

「可笑しくないというか問題だと言いたいんですね。」

「そうそう。」

「それこっちの話しとも関係します。」

今花の正面に座る女性職員が会話に入る。

「どういうことだ。」

「そもそもフリーの方への依頼件数が増えて来てて、一人一人に割り振れる業務量が増えてるんです。だから、それに比例して勤務時間も長くなっているんだと。」

「なるほど、原因はそれでわかったけど、何か対策をしないといけないなあ。あんまり放置しておくと人事と協議をしないといけなくなる。」

「それは山本さんの仕事ですから、私たちには関係ありませんね。」

女性職員が満面の笑みで頷く。

「そんなあ。」

「それで、一覧表がどうしたって。」

「あー。」

今花の正面に座る女性職員が今花にタブレットを渡す。

「多いなあ。」

「ですよねえ、これ再来週の分なんですけど、フリーの魔道士さんが毎日一人一つずつこなしてくれても余るんですよ。」

「こういう時の対処方法は。」

「えっと、フリーに来てる依頼をグループに回す。」

「そうだ、向こうは大人数はいらないし、グループ依頼量を払いたくないから、フリーに依頼してきている。ならば、そこまで高額を払わなくともグループに依頼できるプランを考えろ。」

「再来週の分ですよ。グループさん受けてくれますかねえ。」

「そこは腕の見せ所だな。」

「はーい。」

今花がタブレットを返す。

「鏡。」

「わかっている。」

今花が左の席を向く。

「なんだ。」

「さっき言ったのに。」

「悪い全員で話しかけてくるから、聞いてなかった。」

今花の左隣に座るのは山本と同い年ぐらいの男性職員。

「私よりここでのキャリアが長いんだから、自分で何とかしたらどうだ。やり方だって知ってるだろ。」

「まあな。」

今花がパソコンを覗き込む。

「これ9月3日の案件じゃないか。まだ埋まってなかったのか。」

「そうなんだよ。みんな暑い外で警備をするのは嫌みたい。」

「わからなくはないが。」

今花がスマホを立ち上げて何かを検索している。

「仕方ないな。「冷時」が直接グループを回ったらどうだ。」

「やっぱりそうなるかあ。」

「まさかこれがめんどくさくて、違う方法がないか私に聞いたのか。」

「せいかーい。」

今花がため息をつく。

「ない、これが一番無難な手だ。ちょうど9月3日が1日フリーでこれまでに冷時が担当したことのあるグループが20個も空いているぞ。一件ずつ回ってきたらどうだ。それか、今年度にできたばかりの若いグループにパイプ作りを兼ねて接触するかだな。」

冷時が回転式の椅子をぐるっと回す。

「かーがーみー。」

冷時の態度を見ていた今花がぱっと視線を後ろに向ける。

「悪い待たせた。」

「なんだかんだ言って鏡って面倒見てくれるよね。」

「なんだかんだは余計だ。」

「いやいやさっきまでそんな感じだったし。」

「余計なことはいい。要件はなんだ。」

今花が椅子を180度回転させて、背中合わせで座る社員の方へ行く。

「これ見て。」

「アンバランスだな。」

今花がパソコンを見て頷く。

「なんでみんなフィールドワークって行きたがるのかしら。」

「ロマンを感じるんじゃないか。前にどこかのグループリーダーが言っていたような気がする。」

「ロマンを仕事に求められると困るんだけど。もっと現実的な仕事を取ってくれないと。」

「私に言われてもどうにもできない。」

「一応ランダムで割り当ててるけど。」

「あまり若手に遠方でのフィールドワークは任せない方がいいからな。」

「そうなのよ。若すぎると事故とか怪我とかよくして帰って来るし。」

「かと言って経験を積ませないと後が続かない。」

二人がため息をつく。

「そういえばさっき二水ちゃんに話してたお願いってなんなの。」

「あー、八星さんが木漏れ日に何か教わりたいことがあるそうで。」

「へえ。」

「木漏れ日に相談しろと言われていたんだが、すっかり忘れていた。」

「あーらら。木漏れ日さんも忙しいからね。でも変な話。八星さんの方が木漏れ日さんよりキャリアはあるはずなのに。」

「なんでも警備任務以外のノーマル月間の業務について聞きたいらしい。」

「意外、今で十分仕事はあるし、グループ全員に行き届いてるはずなのに。これ以上増やしたら回らなくなるわよ。」

「そうなんだが。」

「何がしたいのかしらね。」

今花が頷いて自分の席に戻る。

(やっと自分の仕事ができる。)

今花が机に置いていたイヤホンを付け直し、ノート型パソコンのモニターを一度ペンで叩く。

(10月分の依頼内容が固まらないなあ。)

今花がデスクトップパソコンに接続しているマウスを動かすと、画面が立ち上がり、字がびっしりの表が出てきた。

(11日にこれを入れると、午後まで潰れてしまうから。)

今花がノート型パソコンに視線を移し、今開いているウィンドーの横に違うウィンドーを開く。

グループメートのスケジュール表だ。

(週半ばだし、ここを1日仕事にしたら怒られそうだな。学生組の出席日数のこともあるし、やはりここには入れるべきではないか。二水にはあー言ったが、私もできてないかもな。)

今花が2台のパソコンとスマートフォンを器用に捜査していると、12時の鐘が鳴った。

「さて食事に行こう。いい仕事はいい休憩無くして成立しないからな。」

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