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ノーエルへの訪問(31)

31

 (しまった、ネオンダールの神殿に長居しすぎた。)

12時50分、雫が三つ子ちゃんの家の上空に到着した。

(あと30分でノーエル局に行けばいいのよね。)

雫が着陸し、扉をノックする。

家からは生活音が少し聞こえていた。

「はーい。」

扉が開くと同時に三つ子たちがぱっと顔を出した。

「先生おそーい。」

「遅い。」

「ちょっと挨拶もまだしてないわよ。」

「シディーソフィーナリーこんにちは。どうしているの。学校は。」

「今日は昨日のことがあったからお休み。」

「へえ、なるほど。」

「先生上がって上がって。」

「あーうん、おじゃまします。」

(びっくりした。言われてみればそうなるわよね。)

3人に連れられて雫が家に上がる。

「失礼します。こんにちは。」

「おかあさん、先生来たよー。」

ナリーの声を聞いて、お母さんが台所からリビングに顔を出した。

「あらあら木漏れ日先生、こんにちは。」

「こんにちは。」

雫が一礼する。

「お忙しい時間にすみません。」

「いえいえ、この子たちのお昼も終わりましたし。先生こそお忙しいんじゃ。」

「ありがとうございます。大丈夫です。今日は昨日のお礼にと思いまして。」

「あー、今朝九道さんから連絡をいただいてわかってましたよ。わざわざお越しいただかなくてもよかったのに。」

「そういうわけにはまいりません。急なお願いでしたのに、聞き入れていただいて本当にありがとうございました。」

二人が話している間もシディーとソフィーが雫の手を握っていた。

「どうしたの。」

「先生ずるいよ。お母さんとお父さんにだけ伝えてさ。」

「私たちに教えてくれなかったなんて。」

「さっきも話してたじゃない。先生は私たちに話したら、私たちが裏庭に行くと思って。」

「今だけ大人ぶるのずるい。ナリーもさっきまでずるいって言ってたじゃない。」

「それは。」

「あんたたちうるさい。」

お母さんの一言で3人が黙った。

「すみません。」

「いいえ。」

雫が首を振ってしゃがむ。

「昨日の夜のこと誰から聞いたの。」

「お母さんから聞いたの。」

「昨日の夜中何があったって聞いてる。」

「瑠璃湖のモンスターが復活してそれを先生たちが倒したんでしょ。それで、瑠璃湖の周りにいる生命体たちを私たちの家の裏庭に連れてきたんでしょ。」

「そうよナリー。」

「どうして私たちに伝えないようにお母さんとお父さんにお願いしたの。」

「さっきナリーが言ってたように今回あなたたちに伝えないようにお願いしたのは、あなたたちの身を案じたからよ。もしあの時間にあなたたちにも伝えたら裏庭に行きたがったでしょ。」

3人がしぶしぶというように頷く。

「生命体たちからしてみれば、一時的にとはいえ自分たちの家とは違う土地に連れてこられるの。そういう時の生命体たちはいつものように優しくないことがあってね、とても神経質になっているケースが多いの。そんなところにあなたたちが行って何かあったら辛すぎるわ。それに、夜中に瑠璃湖が大変なことになってるなんて聞いたら、怖くて眠れなかったはずよ。」

優しい声で雫が説明するうちに3人の顔から怒りが消えていく。

「でもね。」

ソフィーが雫をまっすぐに見て口を開く。

「でもね先生、私たち危ないってわかってたら行かないよ。先生やお母さんに行ったらだめって言われたら行かないよ。どうして信じてくれなかったの。」

雫がしばらく答えなかった。

(たしかに。)

「ごめんなさい。他のことと並行してやっていてバタバタしていたの。そこまで気が回らなかったわ。たしかに3人は私やお母さんの言うことはちゃんと聞いてくれるものね。もし何かあったら、今度はきちんと伝えるようにするわ。」

「あんたたちもういいでしょ。先生もこんなに謝ってくれてるんだし。」

「うんわかった。」

「仕方ないなあ。」

「今日は許してあげる。」

3人がやっと笑顔になった。

(よかったー。)

「ありがとう。」

雫もほっとして少し笑った後立ち上がった。

「あの後裏庭は大丈夫ですか。」

「はい、夫と少し見て回りましたが、特に問題はなさそうです。」

「安心しました。」

「先生、先生。」

「なにシディー。」

「今日は何時までいるの。」

「もうすぐ帰るのよ。」

「えー。」

「何かして遊んでよー。」

「そうねえ。」

雫が時計を見る。

「3人とも宿題は終わってる。」

「うん。」

「3人でノーエル局から家まで帰れるわよね。」

「うん。」

「だったら、ノーエル局までそりで飛んで行く。」

「えっ。」

3人の目がキラキラと輝く。

「でも先生。」

「大丈夫ですよ、お母様。」

雫がお母さんに笑顔で頷く。

「いいの。」

「いいの。」

「いいの。」

「ええ、そりは自分たちで持って帰ってね。」

「はーい。」

「それじゃあ早く仕度をして。」

「はーい。」

シディーたちが部屋の奥へ入って行く。

「なんかやることを増やしてしまっていませんか。」

「全然大丈夫ですよ。あの子たちと遊ぶのは大好きですし、昨日のお詫びもしたかったので。」

 13時過ぎ、家の前に3人が大きなそりを引っ張ってきた。

近くの倉庫に入っていたのだ。

「忘れ物はない。」

「はーい。」

「オッケー、さあ乗って。」

「はーい。」

そりの定員は大人が4人。

二人ずつ対面で座る形になっている。

3人はまだ小さいから、進行方向に3人で横並びになって座る。

「行ってきまーす。」

「行ってらっしゃーい。」

ナリーたちがお母さんに手を振る。

雫はその間にスパイラルでそりを丸々乗せられる大きさの板を作った。

「よしこんなもんかな。」

それをそりの隣に置き、雫がソフィーたちを見る。

「まもなく離陸いたします。前を向いてお座りください。」

「はーい。」

雫が右手を少し動かし、3人の乗ったそりを板の上に乗せる。

「安全確認をいたします。そりが板にきちんと付いているかご確認ください。」

「はーい。」

端の席に座るナリーとシディーがスパイラルで作った板とそりの間を見る。

「異常ありません。」

「ありがとうございます。それでは只今より空中飛行保護魔法を展開いたします。酸素濃度の確認をお願いいたします。」

「はーい。」

雫が右手を上にあげて、一度指を鳴らす。

それを見たソフィーが左手を上げて目を閉じる。

(どんな時でも遊びを交えつつ、魔法の練習にしないとね。)

「異常ありません。」

ソフィーが満面の笑みで大きく頷いた。

「ありがとうございます。以上で安全確認を終了いたします。大変長らくお待たせいたしました。まもなく出発いたします。」

雫がお母さんに一礼してそりの前に立つ。

「離陸3秒前。」

「3,2,1。レッツゴー。」

3人のカウントダウンと元気な掛け声を聞き、雫が離陸し、そりの乗った板を浮き上がらせる。

「きゃー。」

3人の明るい声が辺りに響く。

「先生すごーい。」

「気持ちいい。」

「うん。」

「ではノーエル局に向かってゴー。」

「ゴー。」

どういう仕組みで動いているかというと、3人の乗っているそりを雫が作ったスパイラルの板に魔法で接着させ、その板に飛行魔法を作用させることで雫の後ろを飛ばしているのだ。

この方法はかなり安全で、何かあっても対応がしやすい。

(楽しそうだからいいけど、時間までに着くかしら。遅れたらMiraに怒られちゃうなあ。あと15分か。)

雫が1人で飛ぶなら余裕だが、3人をそりに乗せている分飛行速度も遅くなるし、そんなにすぐ目的地に着いてしまっては楽しくない。

「先生。」

「なに。」

ソフィーたちの声に雫が振り返り、雫は後ろ向きに飛んで行く。

「本物の飛行機もこんな感じなの。」

「それ私も気になる。」

「早く乗りたいなあ。」

3人はまだ飛行機に乗ったことがないのだ。

「本物はもっと大きいわよ、シディー。それにこのそりみたいに空は見えないわ。天井がついているから。」

「もったいないのー。こんなに気持ちいいのに。」

「先生。」

「なにナリー。」

「すべての飛行機に魔道士が乗車すれば、天井のない飛行機も実現可能かな。」

(とっても面白いわね。)

ナリーの横でシディーとソフィーが首を傾げ、シディーは既に外を見ている。

「それを考えるには現在の飛行機に対する知識と魔道士が乗車すれば実現可能という具体的な理由が必要になるわよ。なぜ魔道士がすべての飛行機に乗車すれば、飛行機から屋根を無くせるの。」

「今先生が掛けてるような空中飛行保護魔法を飛行機全体に掛けることで、酸素の確保も、温度の低下も防げるから。それに雨風や埃も埃も凌げる。飛行機の屋根が果たしている役割は魔法で代用可能。」

「なるほど。」

雫がしばらく考えて口を開いた。

「まず、ナリーの考えは合っているわ。ただ飛行機は、こういう小さなそりや空飛ぶジュータンと違って大きいから、広範囲に魔法を展開できるような魔道士を乗車させないとだめね。それにすべての飛行機に魔道士を乗車させるには、魔道士が何人必要になるかしら。」

「あー。」

ナリーが考えるモードに入る。

「先生。」

「なにソフィー。」

それを待っていたかのようにソフィーが雫に声をかける。

「私たちは何歳になったら自由に飛行魔法を使っていいの。私も早く自由に空を飛び回れるようになりたいな。」

「そうねえ。」

雫が足元を見る。

「ソフィーたちが、この高さから落下しても自力で自分の命を守れるようになったらかな。」

「ええ。」

「落ちなかったらいいんでしょ。」

「シディー、簡単に言うじゃない。誰だって失敗するように、どんな魔道士だって飛行中に落下することはあるの。そんな時でも、何とか生き残る魔道士はみんな万が一に備えた訓練を積んでる魔道士ばっかりなのよ。」

「へえ。」

「だから自分の命を自分で守れるようになるまでは、無許可で空を飛んじゃだめ。わかった。」

「はーい。」


 13時15分、雫がそりに乗った3人と一緒にノーエル局の入り口前に着陸した。

「間に合ったー。」

「あー、楽しかった。」

「先生また乗せてね。」

「ありがとうございました。」

「どういたしまして。」

しばらく考えモードに入った後、シディーとソフィーの会話に復帰したナリーも彼女なりにそりでの空の旅を満喫したようだ。

「雫。」

「Mira。」

ノーエル局の扉が開き、Miraが出てきた。

後ろからチコが覗き込む。

「あー、三つ子ちゃんだ。」

チコが3人の前まで駆けていく。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

元気たっぷりに返事をするシディー、小さな声で返事をするソフィー、お行儀よく挨拶をするナリーと3人3用の挨拶をチコに返す。

「間に合ったわよ。」

「よかったです。」

「私のスーツケース持ってきてくれた。」

「はいちゃんと持ってきましたよ。宿舎の忘れ物チェックも大丈夫そうでした。」

「ありがとう。」

雫が後ろを振り返る。

「ねえ遊ぼう。チコ退屈してたの。」

「いいの。」

「うん。」

シディーたちが雫を見る。

「あなたたちさえよければ、いいわよ。」

「やったあ。」

4人のはしゃぐ声を聞いてシーナやメーラも窓から外を覗いている。

「あなたたちも出てきたら。」

ノーエル局に入った雫が、ソファーから窓の外を見ているシーナとメーラに気づいてくすくす笑う。

「別に私は。」

「いいの。」

「ええシーナ。」

「じゃあ行ってくる。」

「ちょっと、それなら私も。」

「あーでも、相手は小学3年生だからね。怪我させちゃだめよ。」

「はーい。」

Miraと入れ違いにシーナとメーラが外に出て行く。

「やれやれ。」

「騒がしいなあ。」

チコたちとは対照的にスマスたちはソファーに座ってゆったりしている。

「レークは行かないのか。」

「俺はいい。それより今は眠い。」

「レークが行かないなんて珍しい。よほど疲れているんだね。」

「おー。」

レークがリュックを抱っこして、前屈みになる。

「レークスパイラル補給飲料飲むかい。」

「あれは絶対いらねえ。」

レークが糸奈に即答する。

「木漏れ日さん。」

「お待たせしました。」

雫が九道に頭を下げる。

九道の顔色は昨日よりずっといい。

「体は大丈夫ですか。」

「はいゆっくり休ませていただきましたので。九道さんの方こそ、寝不足なんじゃないですか。」

「私は大丈夫ですよ。それに、瑠璃湖の件が一段落ついたので、明日1日お休みをいただきましたから、ぐっすり寝かせてもらうつもりです。」

「羨ましい。」

九道がカウンター席に座り、正面に雫とMiraが座る。

「すみません、スマスたちにスペースを作ってもらって。」

「いえ空いてる場所ですから、気にしないでください。」

九道の後ろから別の職員が雫に冷たいお茶を出した。

「ありがとうございます。」

「いいえ。」

雫が出されたお茶を一気に飲み干す。

「美味しいです。外がすごく暑くって。」

「そうですよね。」

「三つ子たちをそりに乗せてここまで来たんですか。」

「ええ、一人なら炎天下の中を飛行する時間は最小限に抑えられたんだろうけど。」

「頼まれたんですね。」

「そうなのよ、可愛いから断れなくて。」

九道が2人の会話に笑みを浮かべる。

「すみません、打ち合わせを。」

Miraが慌てて九道を見る。

「はい。」

ノーエルに関係する仕事のグループ内責任者はMiraだ。

雫はMiraと九道の話し合いを聞きながら、発言をする。

特に昨夜のようなポリス業務の場合は責任者が雫になるため、雫もただ相槌を打っていればいいというわけではない。

「MSHMTを2セット新しい物に買い替えないといけません。新しい物をオーダーするように手続きを進めてください。」

「わかりました。ただ。」

「ちょっと高額ですよね。」

Miraの提案に歯切れの悪い返答をした九道の心を雫が読む。

「そうなんです。予算を降ろすのに、まずは1セット買うことを目標にした方がいいかもしれません。」

九道が顎に手を当てる。

「MSHMTはノーエルにとって貴重なスパイラルを使用しますから、住民の方々の理解を得るのも難しいですよね。」

「そうなんですよ。」

Miraも難しい顔になる。

「元々MSHMTをノーエルに置いていたのは、万が一の場合に対応するためです。あくまで保険という意味で置いていたのを、先週の魔道士が無理やり使っただけで、MSHMTがあるからしょっちゅう使うということはないのですが。」

「なかなかそれを説明するのが難しいんです。木漏れ日さん。」

「なるほど。ところで復興支援の具体的な依頼内容は決まりましたか。」

「こんな大きな事件があったんですから、遠慮せず何でも頼んでくださいね。」

「はい、今朝の会議でいくつか決まりました。もう少し具体化したものを神町さんに依頼する予定です。」

「少し内容を見せていただいてもいいですか。」

「はい。」

雫が目でMiraに了承を取ってから、書類を受け取る。

「やはり人的支援が一番ですね。瑠璃湖周辺の復旧作業や魔道院のスパイラルの再確保。」

「はい。」

「魔道院のスパイラルはノーエルの皆さんの日常生活と密接に関わっていますから、急を要しますね。」

Miraがスマホを見る。

「次にノーエルに魔道士が派遣されるのは。」

「9月の8日です。」

「1週間もあるんですか。」

雫の声が裏返る。

「もう少し早く呼べればいいのですが。」

雫がMiraのスマホを覗き込む。

「どこも手一杯だからねえ。」

「大丈夫ですよ。自分たちでやれるところまで頑張りますから。」

「こちらもできるだけ早く対応します。」

「よろしくお願いします。あの。」

「はい。」

九道が雫を見た。

「さきほどネオンダールの神殿に行ったと伺いました。」

「はい、入室を認めていただいてありがとうございました。」

「いえいえ、それは全然いいんですけど、オスハルさんが心配していることがあって。」

「なんでしょう。」

「今回の一件でネオンダールの機嫌を損ねたんじゃないかと。」

「あー。」

雫が首を振る。

「大丈夫だと思います。もし怒っていたらそれを収めようと思っていたのですが、いつも通りちゃらちゃらしてましたよ。」

「ネオンダールってちゃらちゃらしてるんですか。」

「ちゃらちゃらというか、普段通りでしたかね。」

「そうですか、よかったです。」

九道はそれ以上質問することを控えた。

 14時前、彩都とクシーが雫に声をかけた。

「雫、そろそろジュータンの準備を始めるね。」

「あーもうそんな時間か。お願いします。」

2人が頷いて、ソファーでうとうとしていたレークを連れて行く。

「また来月も来ますので。」

「皆さん一緒に。」

雫がMiraを見る。

「来月は学生組のテストの月ですので、全員は難しいかもしれませんが、雫は必ず来ます。」

「はい。」

「わかりました。またご連絡ください。」

3人が席を立って、一礼する。

「気を付けてお帰りくださいね。」

「ありがとうございます。」

 雫が外に出るとノーエル局の前の広場でチコ、シーナ、メーラが小学生10人ぐらいと遊んでいた。

その中にシディーたちもいる。

少し離れたところでは彩都たちがジュータンを拡げて荷物を乗せ始めている。

「何してたの。」

雫が子供たちの輪の方へ近づく。

Miraやスマスは彩都たちのお手伝いに向かう。

「先生。」

「こんにちは。」

「こんにちは。」

普段雫と関わらない子供たちも雫に興味津々だ。

「お姉ちゃん達と一緒に遊んでた。」

「鬼ごっこ。」

「そう。」

雫がチコたちを見る。

「すごく逃げ足が速いのよ。」

「全然捕まらない。」

「チコも逃げてたあ。」

「チコは私たちと一緒に鬼だったでしょ。いつの間に乗り換えたのよ。」

雫が笑ってシディーたちの目線にしゃがむ。

「楽しかった。」

「うん。」

「よかった。」

「先生もう帰っちゃうの。」

ナリーたちが空飛ぶジュータンを見る。

「ええ今から出発しないと向こうに着くのが夜遅くになっちゃうから。そんなに残念そうな顔をしないで。来月にはまた来るわ。わかってる。来月はテストなのよ。ちゃんと合格点を取らないと10月からが大変よー。」

3人の残念そうな顔が一気に慌てた顔になる。

「しっかり準備をしておいてね。」

「はーい。」

雫が立ち上がってチコたちを見る。

「行きましょうか。」

「うん。」

「バイバーイ。」

「バイバイ。」

子供たちに手を振ってチコたちが空飛ぶジュータンの方へ歩いていく。

その後ろに雫が続く。

「荷物乗せ終わったよ。さあ乗って。」

「はーい。」

グループメート全員の大量の荷物と、雫たちがジュータンの上に乗り込んだ。

「それでは失礼いたします。」

雫たちがジュータンの上から一礼する。

「飛行魔法空飛ぶジュータン。」

クシーがジュータンを離陸させる。

「お気をつけて。」

「先生またねえ。」

九道や三つ子たちが手を振る。

雫たちは見えなくなるまで手を振った。

 「疲れたー。」

雫がジュータンに寝転がる。

「みっともないですよ。横になるなら端に行ってください。」

「いいじゃない。」

「ならせめてシーツは掛けようよ。」

シーナが雫に薄いタオル生地のシーツを掛ける。

「お疲れ様。」

雫がシーツを持って座った。

雫を囲むようにグループメートたちが座っている。

「取りあえず魔道良に着くまでは交代で操縦しましょうね。」

「ウェーイ、私たちは関係ない。」

学生組の3人とチコが喜ぶ。

4人は空飛ぶジュータンの操縦免許を持っていないのだ。

「今度何かで返してもらいましょうね。」

ええ。」

「賛成だ。」

「何にしようかな。」

4人が嫌そうな顔をする。

一頻り笑って、雫が時計を見た。

「たぶん18時までには魔道良に着くはず。昨日の報告書が書けてない子はこの時間に書いてくれれば、今日は魔道良に着いてすぐに帰宅できるはずよ。チコ頑張ってね。」

「はーい。」

「雫。」

「なに糸奈。」

「魔道良に着いた後一度グループルームに行きたいんだけど。」

「私も。」

「俺も。」

「もちろんいいわよ。いいようにして。上手が待っててくれてるみたいだし。」

「報告書が書けてる僕はどうしたらいいのかな。」

「スマスは自分が運転するとき以外は自由に過ごして。なんなら締め切りがもう少し先の書類を作ってくれてもいいのよ。」

スマスがするっと顔をそっぽに向ける。

「あー、そうだ。一つ相談。」

スマスのそんな態度を気にもせず、雫が話を続ける。

「明日と明後日はお休みじゃない。29日は11時から定例の総合カンファレンスだから出てきてほしいんだけど、そのあと、9月に向けてのグループ会議と月間総生産をしようと思ってるの。30日に改めてするのとどっちがいい。」

「29日がいいわよ。私たちも学校あるし。」

シーナが答えた。

「ええ、30日に一度お休みを入れた方が体も休まります。」

Miraが日程表を見る。

「31日にアルミラさんのところ行くんだろ。だったら休みが1日ないと持たねえよ。」

レークが頷く。

「わかったわ。なら29日に残り物は全部かっさらうということで。」

「はーい。」

 全員スパイラル不足のため、ジュータンは行ほど早く進まないが、それでも魔道良に向かって飛んでいる。

チコたちがウトウトし始めたのは、15時半ごろだ。

「チコ書き終わったの。」

糸奈が、寝かかっているチコに気づいて雫を見る。

「ええ、なんとかね。」

雫が片手で運転しながら反対の手でチコの書いた報告書をスクロールする。

「取りあえずはこれでいいかな。あとはみんなのをまとめて私の分を付け足せば、昨日の報告書は出来上がり。」

雫がジュータンの上をぐるっと見る。

(いいなあ、この時間。)

各自がやりたいことをやりながらくつろいでいる。

大仕事を終わらせた後の達成感と心地よい疲労をグループメート全員が感じている。

空はそろそろ夕方のオレンジ色に変わってくる。

「なんかすごく長旅だった気がする。」

「たった一泊二日だったのに。」

「夜中に古代モンスターの蘇りなんかと戦ったからじゃない。」

「そうだね。」

「早く帰って休みましょう。」

雫が右手をぐっと時計回りに回すとジュータンの速度が上がった。

10人が帰りたいと切望する魔道良はもうすぐだ。

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