ノーエルへの訪問(10)
10
昼食後の13時、強い日差しに照り付けられる大地の上でレークと私が瓦礫を運んでいた。
魔法で作った糸で数本の瓦礫を束にして運ぶ作業をさっきから繰り返している。
無造作に積み上げられた瓦礫の山から数本の瓦礫を束にして持ち上げ、それを50mぐらい離れたところにある整理された瓦礫の山まで持って行く。
「重い。」
「はっ。重量軽減魔法をかけてるからそれだけ持っても1kgぐらいしかないはずだぞ。」
「女の子にとっての1kgは重いのよ。」
「あーそうかよ。」
「あと何往復すればいいのよ。」
私は嘆きながら丸太の束を積み上げられた丸太の束の上に乗せる。
「まだまだあるぞー。」
魔道院の小窓から顔を出したオーバルさんが私たちに声をかける。
「オーバルさん。」
「なあ、いい日光浴になっただろう。」
「日光浴どころじゃありませんよ。」
私がぶつぶつ言う横でレークはてきぱきと作業をする。
「レークのくせに。」
「どういう意味だよ。」
私はそっぽを向いて瓦礫の方へ向かう。
まあ、レークが文句を言わずに作業をする理由はわかる。
この瓦礫の山は近くの住宅街から取り合えず運ばれてきたものだ。
まだまだ残っていることは見てわかる。
瑠璃湖に先週モンスターが現れるまで、あそこには普通の人たちの普通の生活があったのだ。
それがきっと先週の一件であっという間に終わってしまった。
この暑さに文句を言っている私たちよりもずっと辛い思いをしている人たちがいるのだ。
レークはそれをわかっていて何も言わずにもくもくと作業をしている。
そんなことは私だってわかってる。
私だっておんなじだ。
「おい。」
「えっ。」
レークに呼ばれて私が振り返るとレークの手から水系統のスパイラルが飛んできた。
私の周りに飛び散って蒸発していく。
この数秒間私の周りの外気温が一気に10度ほど下がった。
「ありがとう。」
素直にお礼を言っておく。
「私何も返せないわよ。」
レークがすっとそっぽを向いて歩いて行った。
「いつもこれぐらい優しかったらいいのに。」
「うるさいなあ。」
私はにやにやしながら瓦礫の山の方へ戻った。
「ねえ競争しましょう。」
「どっちが多く瓦礫を運べたかだな。」
「ええ。」
「負けた方が帰り2人分の荷物を持つってことでいいだろ。」
「ええいいわよ。私負けないから。」
調子が出てきた気がする。
雫に言われたことがある。
単純な作業にも楽しいことを見出したり、作ったりしてモチベーションを上げれば自ずとやる気は湧いてくるし仕事のクオリティーも上がると。
「よーいどん。」
こうして17時過ぎぐらいまで炎天下の中レークと2人で瓦礫の整理に当たった。
空き地にあった瓦礫を一通りまとめた後、私たちは実際に住宅があったところまで行ってまだそこに残されていた瓦礫をまとめて持って行くという作業をした。
おかげで途中から往復距離は50mぐらいになったけれどもまあそれはいい。
「ご苦労さん。」
オーバルさんに報告へ行くと、美味しそうなアイスを二つずつ私とレークにくれた。
「よろしいんですか。」
「あー、午後の仕事は完全に勤務対象外だろうからな。」
「でも。」
一応した謙遜でレークが私の手に接近する。
「あげるわけないでしょ。」
「謙遜するぐらいなら俺がもらってやるよ。」
「何言ってんの。食べないなんて言ってないから。」
オーバルさんのところで汗が引くのを待ってから、私とレークは宿舎に戻った。
「結局今回の勝負は。」
「引き分けってことでいいでしょ。私嫌よ。2人分の荷物を持つなんて。」
「そうくると思ってたよ。」
2人で西日がきつく差し込む草原を帰って行く。
辺りを見れば、悲惨にもつぶれた住宅の跡地が目についた。
「ねえ。」
「なんだよ。」
「おかしくない。」
「何がだ。」
「こんなに大きな被害が出たのに、私たちは知らなかった。ミーティングの感じだと雫やMiraも知らなかったんじゃない。」
「そうだな。まあ俺たちが知ったってどうにもできねえだろ。」
「今野生の勘は働かないの。」
「はっ。」
レークが立ち止まる。
私がレークの数歩後ろで立ち止まっていたからだろう。
私は風に心を研ぎ澄ませる。
「毒使いだからわかる何かがあるんじゃねえの。俺には野生の勘なんてたいしたものはねえよ。」
「さあね。でも。」
私は風の流れに僅かだが確実に存在し、少ないがとても濃い邪悪なスパイラルを感じた。
「何もなかったらいいけど。」
「大丈夫だろ。何かあったら俺たちでなんとかすればいい。ほら行くぞ。さっさと帰って涼しい部屋でぐうたらする。」
「はいはい。」
私は気がかりなことを抱えたままレークの後ろに続いた。




