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ノーエルへの訪問(6)

6

 「病院病院。」

「医療院な。」

「医療院、医療院。」

僕の横をチコがふわふわ、いやふらふらしながら歩いている。

「チコ真っすぐ立って、きちんと歩こうね。」

「ええ、これでいいよ。狭い道じゃないしこの方が好き。」

「隣を歩く僕の気持ちになってくれないかな。」

「やだ。」

「はー。」

半分はおふざけ、半分は本気で頼んだのだが、あっさり断られてしまった。

「仕方ないなぁ。」

「ねえ、医療院ってまだ。」

「あと10分ぐらい歩いたら着くよ。」

「まだ10分も歩くの。飛ぼうよ。その方が早いって。」

「チコ忘れたの。この地域にはナチュラルスパイラルがほとんどないから、魔道を使うには自分が体内に持ってるスパイラルを使わないといけないだろ。空を飛ぶことに自分が持ってるスパイラルを使ってしまったら、いざって時に魔道が使えなくなる。それに今日チコは治癒魔法をたくさん使わないといけないんだから。」

「疲れたよー。」

「頑張ってこれぐらいは歩けるだろ。」

「えー。」

チコがぶつぶつ言いながら、歩き続ける横を僕が歩く。

いつも最低限の会話しかしないから、2人になると何を話したらいいのかわからなくなる。

「糸奈。」

「なに。」

チコがふっと立ち止まった。

「糸奈はチコのこと嫌い。」

「何言ってるの。そんなわけないだろ。」

「でもさあ。」

チコがうつむく。

俺はしばらくチコを見て考えた。

何を言いたいんだろう。

なんでこうなった。

「チコ取り合えず歩こうか。医療院でチコの治癒魔法をたくさんの人が待ってるよ。」

「うん。」

頷いて歩き出してはくれているが、チコはうつむいたままだ。

落ち着け、なぜチコがこうなったのかを考えてもきっと僕にはわからない。

それなら本人に聞くのが一番早い。

「なんで僕がチコのことを嫌ってると思ったんだい。」

チコがゆっくり顔を上げる。

「さっきから機嫌悪いもん。」

「そんなことないよ。」

「だってさっきから怒るしさ、全然笑ってくれないもん。」

笑う。

笑うか。

「機嫌が悪いわけでもないし、チコを嫌ってるわけでもないんだ。チコも知ってるだろ。」

「何を。」

「僕の感情の流れは緩やかなんだ。」

「糸奈の感情は「川」なの。」

あーどうしようか。

他のグループメートがいたらいい感じにホローをしてくれるはずなんだけど、2人だとそれもない。

チコの顔にいつもの笑顔がなかなか戻らず、僕たちは不穏な空気のまま医療院に着いた。

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