みんなの朝(6)
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「では今日のミーティングを始めます。」
雫が一同を見渡した。
「出席から取りましょうか。」
「またかよ。」
レークがぼそっと言うと雫が満面の笑みでレークを見た。
「毎日やるわよ。」
「雫が隣を見る。
「糸奈。」
「はい。」
「元気?」
「寝不足です。」
「Mira。」
「はい。」
「元気?」
「髪の毛がまとまらないですね。」
「クシー。」
「はい。」
「元気?」
「はい。」
「メーラ。」
「はーい。」
「元気?」
「だるい。」
「彩都。」
「はい。」
「元気?」
「うん。」
「シーナ。」
「はーい。」
「元気?」
「お腹すいた。」
「レーク。」
「あー。」
「元気?」
「腹がへった。」
「ちょっとおんなじこと言わないでよ。」
「うるせいな、被せてきたのはそっちだろ。」
「シーナとレーク出席を続けたいから、ちょっと黙って。そんなにお腹がすいたなら。」
雫が上手のほうを見ると、上手がぱっと動いて、二人の机にサンドイッチを置いた。
「それ食べてていいから。」
「はーい。」
二人が機嫌良さそうにサンドイッチの袋を開ける。
「レークまでいったわね。次はスマス。」
「はーい。」
「元気?」
「肌が乾燥気味なことを除けば元気だよ。」
「チコ。」
雫が隣に座るチコを見ると、チコがまだクッションに突っ伏して眠っていた。
「起きてくださーい。ミーティング始まってるわよ。」
「はーい。」
チコがふわふわと体を起こす。
「元気?」
「眠い。」
ここまで来て、彩都が雫を見た。
「雫。」
「はい。」
「元気?」
「はい。」
雫が一度頷いて話を続けた。
「今日は8月24日水曜日です。天気は一日晴れ、最高気温は35度で一日暑くなるでしょう。上手各自のスケジュールを。」
「畏まりました。」
上手が窓のところにスクリーンを出して、10人のスケジュールをまとめたパワーポイントを出した。
「本日の予定はご覧の通りです。ご自分の予定で間違っているところがあればご指摘ください。」
誰も手を挙げなかった。
「間違いないようで安心いたしました。主な予定を上げさせていただきます。今日グループの任務は1件です。18時から「国際会館MyHall」の警備任務が入っております。」
「何かあるんだっけ?」
クシーが雫を見た。
「「ナント」王国の王妃が来航するのに当たって晩餐会を開くんですって。それの警備よ。今回は会場警備じゃなくて、周辺警備ね。頼み込んでホール内警備にしたから、昨日と違って汗はかかなくてすみそうよ。」
「良かった。」
メーラがほっと一息ついた。
「最終の打ち合わせを10時からの会議でしてきます。詳しいことは17時に出発する前に伝えるわね。」
「はい。」
「学生チームは、9時、10時、11時、13時、14時、15時、16時までは授業に出れるわね。」
「そんなに出なくていいだろう。1週間に1時間授業に出れば罰則はねえんだし。」
「それは最低限のノルマであって、それでいいというわけではありません。たくさん出れるのなら、たくさん出た方がいいのです。」
「私1時間目も行ったのよ。」
「私も。」
「おまえらの勝手だろ。」
シーナとメーラとレークが睨み合っていると、スマスがレークの肩を叩いた。
「ポリス月間になったら、1週間に1時間のノルマだって達成できないときがあるだろう。その分の保険だと思えばいいさ。」
レークが溜息をついて突っ伏す。
「学校での関係はめんどくさい。」
雫がレークを見る。
「めんどくさい。」
グループルームの空気がすうっと静かになった。
静かになったというか、なんとなく全員がレークの気持ちを察したという方が合っている。
「仕方ないわね。学校まで一緒に行ってあげるわよ。」
メーラが席を立った。
「雫、ミーティングはこれで終わりでしょ?」
「ええ。」
「だったら、レークさっさと行くわよ。」
「はーっ。」
「私も一緒に行く。」
シーナも席を立ってカバンを肩に掛けた。
「今日は学校でご飯食べて来るね。16時の授業終わったら、急いで戻って着ます。」
「そうしてちょうだい。メーラとレークもね。」
「はーい。」
メーラは返事をして、レークは雫を睨む。
「あー、レーク。」
「えっ。」
メーラとシーナに挟まれたレークが雫を見る。
「ここに帰って来れば基本的に誰かいるわ。それに、ここはレークが帰って来てもいい場所よ。どうしても疲れたらいつでも戻っていらっしゃい。」
「おー。」
「行ってらっしゃい。」
グループルームに残る大人たちが手を振って学生の3人を送り出した。
扉の閉まる音がした後、Miraが雫を見た。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。」
雫がパソコンと睨めっこを始める。
「学生時代は大変だよね。こっちの仕事も普通の大人と同じクオリティーでやらないといけないし、学生として学業に臨まないといけないなんて。」
スマスがMiraを見る。
「そうですね。それにあまり学園に行けないとクラスでの自分の居場所も作れないでしょう。」
「それがレークを学校に行きたがらせない理由なのよね。」
雫がマウスを動かしながら会話に入る。
「それでも雫が学校にレークたちを行かせる理由って何?」
彩都が本から雫に視線をやる。
「多少嫌でも、面倒でも、本人がとりあえず学園に行ける間は行かせるほうがいいと思うのは寝、あそこが唯一あの子たちが同じ年齢の子供たちとかかわれる場所だからよ。どれだけグループワークに慣れて、どれだけ自分のことをセーブできるようになっても、それは自分と年齢の違う相手の関係性の時だけになりやすい。それじゃだめでしょ。同世代のことを理解して、一番付き合いが難しい同世代同士の意思疎通が取れないと、本当の意味でのコミュニケーション能力はまだ足りていないと思うわ。」
「なるほど。」
糸奈が頷く。
「さあ、私たちもそれぞれの仕事に戻りましょう。今日も忙しくなるわよ。」
「はーい。」
それぞれが自分たちのやるべき作業に取り掛かる。
学生たちはそれぞれのクラスで授業を受けている。
こうして雫たちの朝はいつも始まる。