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ノーエルへの訪問(2)

 雫が充電切れで眠った後、一番最初に出勤したのは上手だった。

「おはようございます。」

上手が部屋の奥に入り、オフィスの光景を見てため息をつく。

「眠ったというより、充電が切れたという感じですね。まったく。」

上手が雫の席の椅子をしまって、パソコンを覗き込む。

「まさに仕事の真っ最中といったところですね。報告書は仕上がったようなので、みなさんのものと繋げて先方に送るのはやっておきましょう。それから、メールの返信が全くできていないのですか。やりかけて力尽きたという感じですね。それは雫様でないと終わらせようがありませんから、頑張っていただきましょう。それから、今日が締め切りの提出物は最大限お手伝いさせていただきます。」

上手が自分のパソコンを立ち上げて、仕事を始める。

「泊り任務の前なのですから、少しは下限をしてください。そもそも稼働労働なんですよ。」

眠っている雫にぶつぶつ文句をいいながらも、上手の手元はよどみなく、流れる川のごとく動いていく。

 それからグループメートたちが次々に出勤し雫の状態を見て、全員がため息をついた。

「雫大丈夫。」

チコが雫のお布団に潜り込んで雫の頭をなでた。

「どうしたの。」

シーナとメーラは目を点にして雫の元に駆けて行った。

「もしかしたらこうなるかもしれないとは思っていましたが。」

Miraがため息をついて雫を見下ろした。

「それで雫どうするの。」

「おいていくわけにはいかないだろ。」

クシーと彩都がMiraを見る。

「そうです。」

Miraが上手を見る。

「充電切れですよね。」

「おそらく。」

「なら無理やり起こそうにも起きません。」

「だったら、車いすに乗せて空飛ぶジュータンまで運んだら?」

スマスがMiraを見た。

「それでいいんじゃないか。雫軽いから車いす押すの俺がやるよ。」

レークがトランクを引いて雫の前に来る。

「目立つけどねえ。」

メーラが雫の机の上の書類をまとめる。

「仕方ありませんね。雫にはノーエルにお仕事もありますし、雫がいないとネオンダールの神殿を通ることもできませんし。」

Miraが雫の髪を整えた。

「しゃあねえ、もう時間もないことだし、そうするしかねえだろ。」

スマスとレークで雫を車いすに移し、スカイガーデンまで車いすを押していくことになった。

「上手さん。」

「はい彩都さん。」

「雫の仕事を何割ぐらい肩代わりしてもらえますか。」

「半分弱といったところです。雫様のお仕事の3割程度をメールの対応がしめているのですが、それがここ数日文溜まっておりますので。」

「そうですか。」

「できる限り肩代わりさせていただきます。」

「お願いします。」

「お気をつけていってらっしゃいませ。」

7時45分、グループルームをMiraたちが出て行った。

「泊まり勤務だから、明日の夕方までは戻ってこないし、やれるところまでやっておこう。」

上手は昨日、比較的早く帰宅し、久しぶりに熟睡できている。

そのため、雫と違って元気いっぱいだった。

 「やっぱり見られてる。」

クシーたちがスカイガーデンに着くと、他のグループから視線を感じた。

「雫どうしたの。」

「大丈夫。」

「はい。」

「雫が眠った状態で車いすに乗って来るなんて何事かと思うでしょ。」

「ノーエルには連れていきたいのですが、起きてくれなくて。」

「あーそう。」

「はい。」

今回の任務はノーエルに行き、子供たちに魔道を教えたり、高齢者の生活のお手伝いをしたり、スパイラルを供給したり、病院のお手伝いをしたりといった内容だ。

本来であれば、100人前後の魔道士たちで行くのだが、今回はスケジュールの都合上雫たちのグループだけで出向くことになった。

「空飛ぶジュータンの準備ができたよ。」

「はーい。」

クシーの声のする方には畳10畳分ぐらいの大きなジュータンが敷かれていた。

「先に荷物を置きましょうか。」

Miraたちが10人分のスーツケースをジュータンの上に乗せ、最後に雫を寝かせた。

「みんな乗った。」

「はーい。」

クシーが後ろを振り返る。

荷物をジュータンの端の外側に固定し、グループメートたちはジュータンの中央に間隔をおいて座る。

「行くよ。」

「はーい。」

クシーがフライトアドバイザーの挙げた旗の合図で魔法を唱えた。

「飛行魔法空飛ぶジュータン。」

ジュータンがふわふわと舞い上がり、どんどん上昇していく。

「防御魔法、シールド。」

彩都が空気抵抗や塵からの防御シールドを貼り、メーラがジュータン周辺の温度を維持するシールドを貼った。

「ここからノーエルまでこの風向きだとあと2時間ぐらいだと思うよ。だいたい10時ぐらいに着くはず。」

ジュータンを操縦するクシーが後ろにいるグループメートたちに伝えた。

「わかりました。先方にそう連絡しておきますね。」

Miraが答える。

「クシー、私たちは何してたらいいの?」

「ゆっくりしてて。空飛ぶジュータンの運転は僕がするし、シールドはメーラと彩都が貼ってくれるから。」

「なら溜まった仕事をやらせてもらおうかな。」

「あー、有意義に時間を使って。」

 空を飛ぶこと1時間、クシーが後ろを振り返ってくすくす笑う。

「どうしましたか。」

「いや、当たり前と言えば当たり前だけど、いい光景だなと思ってね。」

ジュータンの上で、メーラが疲れた顔をしながら、シールドを右手で貼って、左手でスマホを触っている。

彩都は左手でシールドをいじりながら、右手に文庫本を持っている。

Mira、スマス、糸奈はパソコンを開いて仕事をしていて、チコ、シーナ、雫は二度寝中で、レークが鉛筆を走らせていた。

「レーク何やってるの。」

「宿題だよ。宿題。」

「珍しいな。」

「雅にやってこいって釘指されたからな。苦手な科目だからって放置するなってさ。」

「へえ、それを素直に聞き入れてやってるなんて偉いじゃないか。」

「うるせいし。」

「ねえ誰かシールド貼るの代わってくれない。疲れたんだけど。」

「僕がやるよ。」

「ありがとう。」

パソコンの電源を切って糸奈がメーラと席を変わった。

「それにしても雫よく寝てるわね。」

「よっぽど疲れてたんだろう。」

「上手さんの言っていた通り、仕事のしすぎですね。」

 9時45分、チコが寝返りを打って、チコの手が雫の顔を直撃した。

「何。」

雫がゆっくり目を開けて体を起こす。

「えっ。」

起ききって慌てて辺りを見回す雫にMiraが笑顔で手を振った。

「雫、おはようございます。気分はどうですか。」

「おはようMira、ここは。」

「空飛ぶジュータンの上です。」

「今何時。」

「9時45分ぐらいです。」

雫が辺りを見回す。

「みんないる。」

「当然だろ。」

スマスが雫にペットを渡した。

「何か飲んでおいた方がいいよ。」

「ありがとう。」

雫が目をぱちぱちさせる。

「惚けた顔ねえ。まだ状況が呑み込めないの。」

メーラがにこにこしながら雫を見る。

「そうねえ、充電切れで倒れた後は、頭の回転がものすごく悪いのよ。それに。」

雫が伸びをする。

「昨日の筋肉痛が。」

「あーそうだ。昨日のあれってなんだったの。」

クシーが雫を振り返る。

「昨日のあれ。あれは王子様の遊び相手をしてたのよ。そうそう、Miraありがとうね。お芝居に付き合ってくれて。」

「いえ、あれであっていましたか。」

「完ぺきだった。」

「それはよかったです。それにしてもあの衣装よく似合っていましたね。」

「やめて恥ずかしいから。」

「私だったら絶対に着ないわ。」

メーラがスマホを雫に見せる。

「かってに撮らないのー。」

「どこにも漏らさないし大丈夫だって。」

「最初雫を見た時、どこかの裕福なお家のお嬢様だと思ってね、自然と声をかけにいく体制になってたよ。」

「スマス、仕事中に女性を口説こうとしないの。」

「あの衣装はどこから出てきたんだい。」

彩都がメーラのスマホで雫の写真を見ながら、尋ねる。

「彩都わざわざ見なくていいわよー。あれはね、王妃様が準備してくれたの。」

「へえ。」

グループメートたちの笑いをこらえようとしている顔を見ながら雫が言った。

「みんなも昨日はありがとう。私がいなくても問題なく動いてくれたみたいでよかったわ。」

「雫が急にいなくなるのはいつものことだし、もう慣れてるのよ。」

「そうね。」

「少しご挨拶はしましたが、王妃はお元気でしたか。」

「ええ、相変わらずの我がままっぷりで安心したわ。」

「昨日は王妃のところに泊ったんだろ。」

「ええ、帰してくれなくてね。」

「へえ。」

グループメートたちがにこにこしながら、雫を見ている。

雫が頭をかいた。

「何。」

「仲がいいなあと思って。」

「当然でしょ。」

「ねえ雫。」

「何。」

Miraが雫の服を見る。

「その服は。」

「えっ。」

「いえ、いつもの魔道良に着てくる系統の服ではないなと思いまして。」

「あー、着替えるの忘れてたわ。王妃から昨日もらった服なのよ。家に帰らずに魔道良に行って、このまま仕事をしてたの。一段落ついてから、着替えてこようと思ってたの。」

「そのままでも全然可笑しくないと思うけどな。」

スマスが雫を見る。

「この服であの三つ子と魔術の練習をするとなるとね。」

「たまにはいいんじゃないの。」

あまりこういう会話には入ってこない糸奈の発言に雫がふっと糸奈を見る。

「どういうこと。」

「たまにはおしゃれなお姉さんの一面も見せてあげないと。今のままだと雫ってものすごく元気に遊んでくれる先生でしかないだろ。」

「それでいいの。」

「女の子なら、おしゃれなお姉さんを見るのも嫌いじゃないだろう。」

「そうなの。」

雫が首をかしげてから、ため息をつく。

「一度宿舎に行って、着替えてから学習引に行ったらいいのではないですか。」

「それだと時間がもったいないわ。仕方ないわね。」

雫が自分の肩に触れて、服の皺を直した。

「そうそう、Miraごめんなさい。今日の流れをあまり理解してないから、ミーティングを。」

「そうですね。雫を空飛ぶジュータンまで運ぶのに時間を使ってしまって、他のみなさんにも説明をきちんとできていませんでしたから、よければ今から説明をしてもいいですか。」

「ええ。」

雫がシーナとチコの肩に触れた。

「2人とも起きてえ。」

「なに。」

シーナはゆっくり体を起こして目をこする。

「あ。雫おはよう。」

「おはよう。」

「起きれたんだ。」

「ええ。」

雫がチコの両肩に手を置く。

「チコ、チコってば。」

チコがうっすら目を開けてぱっと跳ね起きると雫に抱き着いた。

「雫ー。」

「なになに。」

「起きないかと思ったよー。」

「心配かけてごめんね。今からノーエルでの動き方についてミーティングをするから、このまま起きてようね。」

「うん。」

チコが雫の膝に乗って前を向いた。

「チコこの姿勢のまま行くの。」

「うん。」

「わかったわ。」

雫が姿勢を直した。

全員が円形に座ってお互いの顔を見ている。

「今回の任務の中心はMiraよ。Miraが指揮を執ってね。」

「わかりました。それでは。」

Miraが一度咳払いをして話始める。

「もうすぐノーエルに到着します。いつも通りの班分けをして、今日1日それぞれの活動に取り組んでください。班分けの確認をしますね。まず、雫とクシーは学習韻へ。メーラとレークは魔道院へ。スマスとシーナは老人院へ。チコと糸奈は医療院へ。最後に私と彩都で魔道良ノーエル局へ行きます。みなさん現地で何をするかは決まっていますか。」

「私はいつもの三つ子ちゃんの指導よ。」

「僕も魔道に関する座学をすることになってる。」

「俺はスパイラルの壷に水と火のスパイラルを入れてくればいいんだろ。」

「私は毒関係のスパイラルを入れてくるわ。」

「僕は老人院で今も若々しく快活で美しいマダムたちとたくさんお話してくるよ。」

「私もそんなところかな。」

「俺は医療物資の在庫確認と新しい薬剤の情報提供をしてくる。」

「ねえねえ、私は何したらいいの。」

「チコは、けがをしてる人たちのベットを回って治癒魔法を使って。」

糸奈がチコを見る。

「わかった。頑張るね。」

「彩都と私はノーエル局に行って最近の状況を聞いたり、事務的な手続きの説明をしたりしてきます。」

「本部のノーエル担当局から、何かあるの。」

「はい、何点か言伝られています。」

「ふうん。」

雫がペットを鞄にしまって空を見上げた。

「向こうの今日の天気は。」

「いいみたいですよ。雨マークはついていませんでした。」

「そう。」

「この後の予定ですが、だいたい10時ぐらいにノーエルへ着いた後、いつも通りの儀式を終えてから、各自別行動になります。18時から遅くても20時には宿舎に戻ってきてもらって、明日の午前中いっぱい活動をした後、魔道良に帰ります。」

雫がふっと手首を上げた。

「そうそう、27日と28日はお休みだから、これが終われば、取り合えず一息つけるわよ。頑張りましょうね。」

「はーい。」

チコが元気よく手を挙げて、雫がふっとそれを交わす。

「他に連絡事項のある人は。」

「あのさあ。」

シーナがゆっくり手を挙げた。

「なあに。」

「個人的なことで悪いんだけど、言い忘れたらいけないから。9月中のどこかで担任が魔道良訪問したいって。」

「あー。」

「みんなにさしさわりのない日を聞きたいから、手の空いてるときに連絡ください。」

「わかったわ。」

魔道良訪問は家庭訪問のように魔道良所属の魔道士専門学校の生徒が普段魔道良でどういった活動をどんな環境でどんな人たちとやっているのかを担任が見に来る行事で、1学期に一度のペースで行われている。

「メーラはないの。」

「うちは10月がいいって。」

「そう。」

雫がレークを見た。

「レーク。」

「なんだよ。」

「今日は学校行った。」

「行けるわけねえだろ。」

「昨日聞き忘れてたけど、あの後大丈夫だった。」

「あー、あいつは体調を崩して帰ったってことになっててよ、ホームルームとかは他の教師がやってたぞ。」

「そう。」

グループメートたちが暖かい眼差しでレークを見る。

「なんだよ。」

「いやいやべつに。」

クシーが前を見た。

「そろそろ着くよ。」

「それではみなさん、よろしくお願いします。」

「はい。」

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