ノーエルへの訪問(1)
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雫が魔道良に帰ってきたのは、8月25日の6時過ぎだった。
「ただいま。」
自宅には帰らず、魔道良に来て、昨日の報告書に取り掛かる。
「あら。」
雫の机の上に、チョコレートが九つ置いてあった。
「昨日の差し入れね。」
雫が嬉しそうにその一つを手に取る。
「オレンジの包装紙だから、シーナがくれたのかな。」
パソコンを立ち上げて、雫がチョコを口に入れる。
「さすが王室警備の差し入れは違うわね。」
パソコンが起動するのを待っている間に雫はベットルームに行って、ロッカーの鍵を開ける。
「たしか前の日曜に今日の準備は粗方済ませていたはず。」
雫がロッカーから小さいスーツケースを取り出して、オフィスにがらがらと引いていき、自分の机の近くで開けた。
「着替え、下着、洗面具に外出用のパソコン、あと学習教材。うん全部入ってる。さすが私偉いわね。」
スーツケースを閉じて、雫が席についた。
「さてと、今から2時間で昨日の報告書書いて、今日が締め切りの書類の最終チェックして、あとメールも返さないといけないわね。」
雫が紅茶の入ったカップを片手にラジオを聞きながら、さくさくと報告書を書き上げていく。
「へえ。」
ラジオをかけていないと睡魔に負けて眠ってしまうことをわかっている。
それぐらい今の雫は眠い。
「ここ数日の無理が一気に祟ってきたわね。今夜中途半端に寝たのがやっぱりよくなかったか。」
報告書を書き終えると時刻は6時45分。
「あと1時間はあるわ。その間に書類を。」
そこで雫の手が止まった。
「あれ。」
雫が固まる。
(体に力が入らない。なんで。)
そのままゆっくり机に突っ伏して、雫が浅く息をした。
(あー、充電切れだ。しまった。このタイミングで力尽きるとは思ってなかった。)
雫はゆっくり立ち上がって、真ん中の布団のスペースに行く。
(あー、昨日チコが寝てたのね。残り香が。)
雫はゆっくり布団に入って速攻目を閉じた。
(しまったな。本当にしまったわ。メールいつ変えそう。)
ノーエルへの訪問が始まります。
皆さんこんにちは。ティラミスです。いつも「魔道師木漏れ日雫」を読んでいただきありがとうございます。皆様に読んでいただけることが励みとなり、気づけば半年以上連載をしています。なかなか物語が進まないこの作品に愛想をつかさず読んでいただけることは、本当にありがたいことだと思っております。
さて、魔道師木漏れ日雫は新たな物語に突入しました。雫たちが活躍するのは、大都市から、自然豊かなノーエルへと移ります。今回もとても長いです。そこで、今週は一気に1~3まで投稿しようと思います。2を13時に3を14時に投稿します。もしよろしければ、ぜひご覧ください。




