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ナント王国王妃と雫(18)

18

「本当に帰るの。」

「はい、戻ってやらないといけない仕事がありますし明日からも通常業務が

ありますので。」

「そう、ならせめてアルバートに会ってから帰ってあげて。あの子が一番あなたにお礼を

言いたがっていたから。」

「こんな遅くにご迷惑ではありませんか。」

「大丈夫。今夜私たちは晩餐会の一件の対応で徹夜しないといけないから。」

「お疲れ様です。」

部屋を出て雫が王妃を見た。

「クーネル警備担当責任者にもご挨拶を。」

「気持ちはうれしいけど、しばらく彼は寝る間も惜しんで仕事をしないといけなくなって

しまったから、あなたがお礼を言いたがっていたということは私から伝えておくわね。」

「わかりました。お願いします。」

王妃が右手を挙げると壁の陰から使用人が出てきた。

「彼女をアルバートのところまで案内してあげて。」

「かしこまりました。」

使用人が雫に会釈をして歩き出す。

「また機会があれば、お世話になるわね木漏れ日さん。」

「はい、またお目にかかれる日を楽しみにしております。」

雫が王妃に深く一礼して歩き出す。

アルバートがいたのは外の空気が吸えるバルコニーだ。

「アルバート王子、愛香宮子様をお連れいたしました。」

使用人の声に振り返ったアルバート王子が雫を見て頬を緩める。

「ありがとうございます。下がってください。」

使用人がゆっくりその場を去り、雫とアルバート王子が2人きりになった。

「お加減はいかがですか。」

「ご心配をおかけいたしました。もう大丈夫です。」

アルバート王子が雫の服装を見る。

「もう戻られるのですか。」

「はい、帰ったらまずは報告書を作成しなければなりませんわ。」

「もう少し休んで行かれては。」

雫が首を横に振った。

「そうですか。残念です。そうだ。」

アルバートが右ポケットから小さな箱を出した。

「よければお受け取りください。」

雫が箱を受け取ってアルバート王子を見た。

「中身を拝見しても。」

「もちろん。」

「失礼いたします。」

雫が箱を開ける。中には今日雫が付けていたイヤリングが入っていた。雫がぱっと

アルバート王子の顔を見る。

「池の近くに落ちていました。あの時のばたばたで落ちたのでしょう。記念に

お持ち帰りください。」

「しかし。」

「わたくしが王室から買い取りました。」

「よろしいのですか。」

「今日のお礼です。何か形にして返せるものとは思っていませんが、今はせめて

受け取っていただければ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

雫が箱をしまって、アルバート王子を見る。

「それでは。」

「あと。」

「はい。」

アルバート王子の今までとは違う声に一瞬戸惑ってから雫が応えた。

「アメリのことだけではなく、もう一つ心から感謝していることがあるんです。」

「なんですか。今日私は仕事しかしていませんから、何も感謝していただくようなことは

していません。」

「宮子さんに気づかせてもらったことがあるんです。」

「私が。」

アルバートがゆっくり頷いた。

「私は今いろいろな脅威を抱えています。いつ命を狙われてもおかしくない日々に

怯えていました。そして、今日のように私が原因でたくさんの人を不安にさせてしまう

ことに怯えていました。」

「はい。」

「ですが、宮子さんが教えてくれました。自分のせいで不安にさせてしまったり、

気づ付けてしまったりした人たちを自分の力で少しでも癒せる方法を模索すれば

いいのだと。」

「それは王子地震でたどり着いた答えですから、わたくしがしたことがあると

するのならば、それはきっかけを提供したことだけでしょう。素敵なお考えだと

思います。うまくいくことを心から願っています。」

アルバート王子が微笑みを浮かべた。

「そういってもらえて嬉しいです。それから。」

「はい。」

(まだ何かあるの。)

雫がアルバート王子をまっすぐ見つめる。

「愛香宮子さんではなく、木漏れ日雫さんとして、これからも僕と関わって

いただけませんか。」

「えっ。」

雫の目が点になる。

「僕とお付き合いしていただけないでしょうか。」

雫が瞬きしかできずに呆然と立ち尽くす。

「僕ではだめでしょうか。」

(落ち着け、落ち着け。答えは一つでしょ。)

雫がゆっくり呼吸をする。

「ご好意を寄せていただけたことを光栄にぞんじます。ですが、お気持ちにお答えする

ことはできません。」

アルバート王子が少し顔を曇らせる。

「わたくしは魔道士です。魔道士として日々を過ごすことが何よりも楽しいのです。

王室に入ってアルバート王子の隣に立って過ごす毎日よりも、魔道良で毎日せわしなく

働く日々のほうが好きなのです。ご理解いただけますか。」

「そうですね。だからこそ、宮子さんが今日も呪い魔に誰よりも早く

気づいたのでしょうね。わかりました。ですが、あきらめるつもりはありません。もし

機会があれば、いくらでもアプローチさせていただきますから。」

「それは。」

2人で少し笑ってから、雫が深く一礼した。

「では失礼いたします。」

「はい、お疲れさまでした。」

アルバートにゆっくり背を向けて雫がその場を離れ、城を出た。

「さあ帰ったら報告書書かないと。」

月明りの下を雫が飛んでいく。

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