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ナント王国王妃と雫(17)

17

(どこだっけここ。)

目が覚めた時、見慣れない天井に違和感を感じた。私はゆっくり明るいほうを見る。

窓の向こうから光が差し込んでいた。まだ暗い。月明りや街灯の光里だ。

「起きた。」

声に反応して私が体を向けるとそこには王妃がいた。ドレスを着替えカジュアルなロング

ワンピースを着ていた。

「王妃。」

私が体を起こそうとすると、王妃が私の両肩に手を置いてそれを制する。

「だめよ、クーネルの話しだととても重症なんでしょう。無理しないの。」

「大丈夫です。」

王妃が首を振った。

「だめ、言うこと聞きなさい。」

「わかりました。」

私はベットの中でらくな姿勢になった。

「今何時ですか。」

「ちょうど日付が変わるころよ。」

「そんなに経ってたんですね。私はいったい。」

「クーネルの前で倒れたんでしょ。クーネルがこの部屋まで運んできたの。」

「王妃はなぜここに。」

「あなたが倒れたって聞いたから介抱しに来たのよ。」

「そんな、とてもお忙しいのに。」

「いいの、私がこうしたかったし、少し静かな場所にいたくてね。」

たしかに王妃の言った通り、どこも痛くないが体に力が入らない。

「クーネルから聞いたのだけど。」

「はい。」

「アメリのためにあなたの大切な力をたくさん使ってくれたそうね。」

「クーネル警備担当責任者がそのようにおっしゃっていたのですか。」

「ええ、アメリに取り付いた悪魔を祓うためにあなたが、あなたしか持っていない大切な

女神の力をあげたんじゃないかって言っていたわ。本当なの。」

(なるほど、察しがいいな。だから私に休めなんて言ったんだ。)

私はゆっくり頷いた。

「はい、悪魔をアメリ王女から離すために、私の女神としての魔力をその悪魔にあげる

ことを契約の条件にしました。」

「どうして。」

王妃が驚きを隠せないという表情で私を見る。

「王子が強く望まれたからです。」

「何を。」

「アメリ王女の保護を。」

「なんのために。あの子にとってアメリはなんでもないただの親戚にすぎないはずよ。」

「王妃にとって大切な方だから守ってほしいと言われましたよ。」

「えっ。」

王妃が黙ってうつむいた。

「そういえば、アメリ王女はどうなりましたか。」

「今は王室の警備隊の監視下の元自室で休んでいるわ。まだ目を覚ましたという知らせは

入っていないわよ。」

「そうですか。」

「この後アメリはどうなるの。」

「病状が安定し次第、魔道良によって逮捕されます。」

「アメリが悪魔と契約をして魔力を手に入れ、それで一般人たちをこんなパニックに

陥れるなんて。私も巻き込んで。」

「王妃はどこまでご存じなのですか。」

「なんのこと。」

「アメリ王女に取り付いていた悪魔と会話をした解き、その悪魔はアメリ王女は長く

生きられないと言っていました。それから、アルバート王子に思いを寄せていると。」

「両方知っているわ。アメリがアルバートに思いを寄せていることも、彼女が病に

耐えられずもう長くは生きられないということも。」

王妃が両ひざの上に置いていた手を固く握る。

「あの子はね、私の唯一の姉妹なの。母も父も一緒の唯一の妹。」

「魔道良の職員ではなく、一個人としてお尋ねしますが、王妃はアメリ王女が悪魔と

契約をして魔力を手に入れたことをご存じだったのですか。」

「いいえ、知らなかったわ。」

王妃がぱっと顔を上げ、雫を見る。

「ではなぜ今日私をアルバート王子の隣に付けたのですか。あの時は

気づきませんでしたが、何か理由がおありだったのではないですか。」

「それは。」

王妃の声がまた小さくなる。

「アルバートが多方面から命を狙われているということは事実よ。」

「はい。」

「でも、今日あなたをアルバートの隣に付けたのは、アメリのことを警戒していたから。

アメリが魔力を使えるとは知らなかったけれど、何かしらの方法でアメリがアルバートに

接近するということの察しはついていたの。最近アメリの容体が安定しなくて、その

ことに本人が一番焦りを感じていたから。アメリは昔から感情的になることがあってね、

アルバートに今のアメリを近づけることはとても危険だった。本来ならアメリを

拘束すべきだったのかもしれない。でも、それは。」

「姉の優しさができなかった。」

王妃がうつむいたまま涙を自分のワンピースに落とす。

「王妃失格だわ。たくさんの人の安全よりも妹の自由を優先してしまうなんて。」

「これでアルバート王子の安全の確保のために私をアルバート王子の隣に付けた理由は

わかりました。でもそれであれば、私をただの警備員としてアルバート王子の近くに

置いた方が、アメリ王女の感情をかき乱すことにはならなかったのではないですか。」

「ええ、そのとおりよ。アメリに気づいてほしかったの。アメリじゃアルバートの隣には

立てないという事実を。アルバートは次代の王の最有力候補の1人よ。妃として迎える

女性にはさまざまなことが求められる。それに気づいてあきらめてほしかった。

アメリに、アルバートに固執したまま苦しい日々を過ごしてほしくなかったの。

矛盾してるわよね。」

雫がしばらく黙って涙を流す王妃を見ていた。

「お辛かったのですね。誰にも相談できないまま、ずっとお1人でかっとうなさって

いたのですね。」

雫はゆっくり体を起こして、王妃と向かい合う。

「私のことを責めないの。」

「はい、今の私は一個人です。そして今の王妃もただの1人の女性です。このことを

世間に公表するおつもりですか。」

「いいえ、アメリが今回犯したことは包み隠さず話すつもりでいるわ。でも、アメリの

病気のことは公開しないつもりよ。」

「それでいいと思います。王妃は今回アメリ王女が魔力を手に入れていたことを

知りませんでした。ということは、アメリ王女が晩餐会をかき乱すようなことをすると

いう確信はなかったわけです。それなら、アメリ王女を自由な状態にしたことを

咎められることは考えにくいと思います。それに、アルバート王子にはきちんと

ボディーガードを付けていましたし。アメリ王女が悪魔と契約をした真の理由を

知っている人間はごくわずかでいいと思います。」

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