ナント王国王妃と雫(16)
16
アルバート王子たちがリングから離れたところで魔獣と雫を見ていた。
「無事に帰ってきてください。」
アルバート王子がひっしに祈っていた。
「王子。」
魔道士の一人がリングの中を見て、アルバート王子に声をかけた。
「あっ。」
リングの中にいた紫の魔獣がすうっと光に変わって消えていき、アメリの姿が見えた。
隣で雫が目を覚まし、アメリを支える。
「解除。」
雫の声でエンドレスリングが消滅し、雫がアメリをお姫様抱っこしてアルバート王子の
ほうへ歩いてくる。
「無事化。」
「はい、問題ありません。すぐに王女を応急手当しないと。」
雫がアルバート王子の前に行く。
「アメリ。」
アルバート王子がアメリの頬に触れた。
「よかった。暖かい。無事でよかった。」
「アメリ王女をこちらへ。」
「お願いします。」
アメリ王女を数名の魔道士に預け、雫が改めてアルバート王子を見る。
「本当にありがとうございました。」
「お礼を言っていただくようなことは何もしておりません。さあ、私たちも王急に
戻りましょう。」
21時半、アルバートを自室まで送り届け、雫が廊下で待機していた。
(今回の騒動のせいで、この後どう動いたらいいのかがわからないんだけど。早く
着替えたいな。)
外ではいろいろな服を着た人たちが行きかっていた。消防士、医師、警察官、
魔道士たち、そしてようやく安全が確保されたことで晩餐会に来ていたゲストたちが
帰って行く。みんな疲れ切った顔をしていた。
「魔道士木漏れ日雫。」
「はい。」
呼ばれて雫が振り返ると、クーネルがいた。
「クーネル警備担当責任者お疲れ様です。」
雫が深く一礼した。クーネルが雫をじっと見つめる。
「もういい。少し休め。」
「えっ。」
「現場に居合わせた魔道士から話は聞いている。いいから少し休め。」
言葉はつんけんしているが、言い方がとても優しかった。
(この人は本当に真っすぐなことが好きなんだろうなあ。こういう人がいい隊長に
なれるんだろうなあ。)
クーネルの言葉で肩の力が抜けたのか雫の瞼がすうっと閉じて、ゆっくり倒れていく。
クーネルが雫を支えて、そのまま抱き上げた。
「すぐに休息室へ運ぼう。」




