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ナント王国王妃と雫(15)

15

「アルバート王子。」

「はい。」

「なくはないのです。」

「何がです。」

「アメリ王女を救う方法です。」

「ならば。」

「ですが。」

雫が少し大きな声でアルバート王子の言葉を遮った。

「一歩間違えれば今よりもアメリ王女を苦しめることになるかもしれません。生きていて

苦痛を味わうのと。」

「生きたアメリ王女を取り戻してください。」

アルバート王子が雫をまっすぐに見て言った。

「わかりました。」

「何をするのですか。」

ほっそりとした背の高い男性魔道士が雫に尋ねた。雫はエンドレスリングで覆われた

魔獣に近づきながら答える。

「リンクビーナシアです。」

「あなたは何者ですか。」

雫がエンドレスリングの前で振り返った。

「私は聖なる女神ステファシーのまつえであり、ロイヤルブラットの一つ木漏れ日家の

件俗です。」

魔道士たちがざわめいた。

「ステファシーのまつえい。」

「はい。」

「だからリンクビーナシアを。」

「はい。」

「説得に行くのですか。」

「ええ。」

「うまくいく見込みは。」

「9割です。時間がありません。行ってきます。王子のことをお守りください。」

魔道士たちが強く頷く。

「アメリをお願いします。」

「ご命令たしかに応接借りました。」

雫が深く王子に一礼してから、エンドレスリングに触れる。

「私を通して。」

小さな声でつぶやくと雫が触っているリングの部分が開き、雫を通した。

「宮子さんがしようとしているリンクビーナシアとは何ですか。」

「宮子さんだからこそできる魔道です。悪魔と対話をしアメリ王女を開放するよう

説得しようとしているのです。」

「そんなことが、宮子さんにも危険が伴うのでは。」

「もちろんです。それも承知で宮子さんは行きました。」

アルバート王子がリングの中で魔獣に触れる雫を見つめていた。

「偉大なるステファシーの力を持って。天の魔法リンクビーナシア。」

雫がそう唱えて、魔獣にもたれかかるようにしてしゃがみこんだ。

「宮子さん。」

アルバート王子がリングに近づこうとしてほかの魔道士に止められる。

「大丈夫です。あれで正常なのですよ。」

「無事に飛べたかな。」

雫が目を覚ますと、そこは真っ暗な世界だった。どちらが上で、どちらが下かすら

わからない。

「あっいたいた。」

雫が立ち上がって辺りをぐるっと見回すと、雫の正面に背の低い女の子がいた。

「こんばんは。」

雫が笑顔を浮かべて女の子に近づく。

「ごめんなさいね。こんなことをしてしまって。お名前は。」

「リビ。」

「それはリビ族のことでしょう。あなたの名前が知りたいわ。」

「名前なんてない。」

「嘘ね、リビ族の悪魔には一人一人に固有の名前があるでしょう。」

女の子がじーっと雫を睨む。

「疑ってる。というより、怪しんでるか。いいわ信頼してもらえるように教えてあげる。

「マーニェ」は元気。」

女の子が雫に向ける視線が変わった。

「知ってるの。」

「ええ知ってるわ。仲良しよ。」

女の子が雫に近づいた。

「「メギ」。」

「メギね。よろしくメギ。」

悪魔族の中には、悪魔族の長と仲のいい人間には悪魔族の長と同じぐらいの敬意を持って

接しなければならないという決まりを持った一族もいる。

「あなたを拘束してしまってごめんなさい。動けなくて窮屈よね。」

「うん。」

「どうして私がここに来たかわかる。」

「アメリのこと。」

「そう、アメリのこと。今メギがアメリを吸収しようとしてるの。わかってる。」

「もちろん。」

「どうして。アメリはそんなに優秀な魔道士ではないわよ。」

「アメリには美味しい感情が揃ってる。」

「妬み。」

「それだけじゃないよ。自分に対する不の感情も他人に対する不の感情も片思いをして

いる感情も自分の死に対する恐怖もアメリは持ってる。」

「自分の死。」

想定外のメギの言葉に雫が聞き返す。

「そうよ、知らなかったの。アメリは重い病気にかかっていて、もう先が長くないと

言われてるの。だから、寿命を半分売ってでも、残された短い時間片思いしてる例の

王子様に愛されたいと思ってる。だから、私のところにきたのよ。」

「知っていたらでいいけれど、このことを、アメリの病気のことをアルバート王子は

ご存じなの。」

「いいえ知らないわ。最後の最後まで同情はされたくないそうよ。」

(引きこもりがちな王子がほかの王族のことに詳しくなくてもおかしくはないか。)

雫がふうっと息を吐いた。

(感情を乱されるな。今優先すべきことは。)

「美味しい感情が山ほどアメリにはあるということね。」

「ええ。」

「だからアメリは返せない。」

「ええ。」

雫が顎に手を当てて、考える。

(これを出せばメギは必ず私の話しに乗ってくれる。でも。)

雫の脳にアルバート王子と王妃の顔が浮かんだ。

(会って1日も経たない人のためにね。)

雫がメギを見る。

「なら私からは契約の相談を持ち掛けさせてもらうわね。」

「契約。」

「そう、契約。」

「なに。」

「私はね、ステファシーのまつえいよ。」

メギの目つきが鋭くなる。

「女神の魔力に興味はない。」

「どれだけくれるの。」

「そうねえ、あなたの体を満たすぐらいの魔力ならあげられるわ。その代わり、これ以上

アメリに干渉するのはやめて。」

「魔力を引き取れってこと。」

雫が首を振る。

「いいえ、アメリがあなたに捧げた寿命は返さなくていいし、メギがアメリに与えた

魔力も回収しなくていいわ。今あなたが取り込んでいるアメリの解放と、今後アメリを

自分の中に取り込んだり、肉体、精神、思考の支配をしないでほしいの。」

「わかった。」

メギがあっさりとおーけーを出した。

(よかった。)

雫がメギに近づいていく。

「メギ、右手を出してくれる。」

「うん。」

メギが右手を雫のほうへ差し出した。

「触るわね。」

雫がメギの右手を取って目を閉じる。

「聖なる女神の癒しの輪の中へ。」

雫が包んだ両手から暖かい光が現れ、メギを包んでいく。

「これが女神の魔力。」

「そうよ。もっとも私はまつえだけど。」

しばらくの間二人は何も言わなかった。雫の掌からあふれる光がメギを包んでいく。雫は

目を閉じて深く呼吸をしていた。

「さあこれでおしまいね。」

メギがゆっくり目を開ける。雫が両手をそっと離した。

「ありがとう。アメリの感情をくらうよりずっと有意義なものを手に入れられたわ。」

「満足してもらえたようでよかったわ。」

「またね。」

「ええ、さようなら。」

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