ナント王国王妃と雫(11)
11
舞踏会がもうすぐ始まる。雫とアルバートは、ゲストとの会話の練習を続けた。
「あら、アルバート王子、彼女は?」
親戚の叔母に尋ねられたという設定で練習をしたとき、アルバート王子が違和感のある詰まり方をして10回ほどじじいから直しを受けた。
「あなたのような女性がアルバート王子の隣にいるなんて、実に不快だわ。」
貴族の娘にそう言われた時、雫が対応する前にアルバート王子が娘を会場から出すように命令し、じじいがアルバート王子を怒った。
「こういう時は。」
雫が話始める。
「ご指摘いただきましたこと、真摯に受け止めさせていただきます。不愉快に思われるのはわたくしの努力が足りない証拠だと心得ております。今後も一層努力
いたしますので、更なるご指導をよろしくお願いいたします。」
じじいが頷いた。
「そうです。感情的になってはいけません。舞踏会の会場なのですから、なおさらです。」
じじいが腕時計を見た。
「まもなく舞踏会が始まります。お二人とも準備を。」
「ご指導ありがとうございました。」
雫がじじいに一礼した。
「とんでもありません。わたくしはやるべきことをやっているにすぎないのです。宮子様、アルバート王子をよろしくお願いいたします。」
「はい。」
雫が頷いた。
(あれ?)
舞踏会の直前になり、雫が身だしなみを整えてから、王級の廊下に出た。
(あそこにいるのって。)
雫がシルエットに近づき、声をかける。
「緊張しますか?」
雫が声をかけたのは、廊下に立つアルバート王子だった。
「ええ、恋人ができたこともありませんし、恋人を連れて人前に出ることだって当然初めてです。」
「その初めてが私であることをお詫びします。王子が心を許したすてきな方と初めてを迎えていただきたかったです。」
雫がアルバート王子の隣に立つ。
「昔から厳しい家庭で育ちました。」
雫が隣に立つアルバート王子を見上げる。
アルバート王子は窓の向こうに広がる景色を見ていた。
「王妃と私は父親が違います。父親は私が次代の王になれるよう厳しい英才教育を施しました。」
「ええ。」
「結果的に私は王になることはできませんでしたが、私は揺るぎないこの立場を築くことができたのです。ですが、立場を築いた代わりに、命を狙われるように
なりました。」
「お気持ちお察しいたします。」
(辛いんだな。)
雫がそっとアルバート王子の右頬に触れた。
「何を?」
「せめて今日一日は肩の力を抜いてください。」
「えっ。」
「私が守ります。今日は王子のことを私が守りますから。その印です。」
雫がゆっくりアルバート王子の右頬から手を離した。
「外見的には何もないように見えますが、魔道の印を押しました。王子に何かあれば、私にすぐに伝わる仕組みです。もし、魔道を使える人間が王子の命を狙っていれば、この印が見えることで抑止力になるでしょう。」
アルバート王子が雫の顔を見た。
外から差し込んでくるオレンジの日光に照らされた、
水色のドレスを着る雫の瞳の奥に輝く光を見た。
「命を懸けてお守りします。」
雫が胸に手を当てて、最経緯の姿勢を取る。
「私は人に頼ってばかりいることが好きではありません。私にも頼ってください。」
雫が微笑んで頷いた。
「はい、機会があれば、お願いしますね。」




