ナント王国王妃と雫(10)
10
GPS代わりにつけた魔道結晶の位置を頼りに、私は城の庭園を奥へ奥へと進んだ。
少しずつ太陽が西に傾き始めている。第1ホールのあたりがここから見えるが、人の
出入りがかっぱつになってきていた。もうすぐ舞踏会が始まるのだ。
(いた。)
私は木の木陰で立ち止まった。
アルバート王子が柵にもたれかかって少し下にある湖を眺めている。
「その服で泳ごうなんて考えないでくださいね。この時期の池は、私たちが思っている以上に冷たいですから。」
王子が振り返って私を見る。
もう、警戒心や虚栄を貼ろうという色は見受けられない。
「そんなことは考えていません。ここには、精神統一をするために来たのです。」
「精神統一?」
私が言葉を繰り返しながら、王子に近づく。
「そう、精神統一です。」
「なぜそのようなことを?」
「今日だけで私はいくつもの初めてを経験しました。それに、少し疲れたのです。」
「いけませんね。申し訳ありません。」
私はアルバート王子に頭を下げた。
私が一緒にいて、アルバート王子がストレスを感じているなんてあってはならない。
私は今日、アルバート王子にとってノーストレスな
恋人でいなければ、彼が疲れ切ってしまう。
「あなたが頭を下げることでは。」
そう言いかけて、アルバート王子が口を閉じた。
「宮子さんが気にすることではありません。」
「いいえ、気にします。私が横にいるのに、相手が私なのに王子に気を遣わせてしまっているという事実は受け入れがたいものです。」
私はアルバート王子の右手を取った。
このままではいけないと心の底から思った。
非公式警備員として与えられた役をこなすことが、私に課せられた一番の仕事だ。
「今夜の舞踏会が終わるまで、ご辛抱いただけませんか?今よりもずっとストレスがかからないように努力します。」
「もちろんです。宮子さんに謝ってほしくて愚痴をこぼしたわけではありません。むしろそこまで気にかけてくださっていることに感謝しています。」
「では一緒に頑張りましょう。」
私は王子に微笑みかけた。




