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ナント王国王妃と雫(8)

 8

王妃に言われた通り、弓道場に向かうことにした。

「道案内をよろしくお願いします。」

「かしこまりました。」

使用人の女性の後ろを歩きながら、王級の中を見て回る。

美しい植物、質の良い家具や雑貨が王室の豊かさを物語っていた。

「ここに来るなら着替えるべきだと思うのですが。」

「王妃が何を考えていらっしゃるかは、わたくしたちにもわかりません。」

「そうですよね。」

「ですが、木漏れ日さんは綺麗にドレスを着こなしていらっしゃいます。歩き方と言い、ドレスの支え方と言い問題ございません。その姿勢であれば、ドレスの裾が地面を擦る心配もありませんし、ご心配なく。」

「ありがとうございます。」

弓道場の入り口から中をのぞくと、アルバート王子が弓を引いていた。

(目が輝いていない。オーラも暗い。心身ともに滅入っているのね。)

「どうなさいますか?」

私がアルバート王子を見ていると、使用人の女性が尋ねてきた。

「少し任せていただけませんか?」

使用人の女性が頷いた。

「承知いたしました。後ろに下がっております。」

使用人たちが後ろに下がった後、私は入り口から弓道場に入った。

アルバートは、私が近づいていることに気づいていない。

「生が出ますね。」

声をかけると、アルバートがこちらをものすごい目力でにらんできた。

「何をしに来られたのですか?」

「王子を探しておりました。」

「私のことはほっておいてください。」

「これは王妃命令です。残念ですが、王子が私から離れることはできませんし、私も王子から離れることはできません。」

王子が小さく口を動かすのが見えた。

(舌打ちをしたいのを我慢しているのね。)

私は王子の隣に立った。

「少し私と遊びませんか?」

「なんの御冗談を。」

「冗談ではありません。どちらがより正確に、弓で的を射ぬけるかの勝負です。」

「それにあなたが勝てば、自分についてこいと。」

「そんなことは申しません。今回の舞踏会には、王子の気持ちが伴わないと円滑に進みませんから。」

「ではなぜ?」

「弓道は、王子の長年の趣味だと王妃から伺いました。ならば、私も王子とともに弓道をすることで、王子に近づけるのではないかと思った次第です。」

私はアルバート王子を見た。

「手合わせ願います。」

「お断りします。そんなかっこうでここに立っている段階で、弓道を侮辱しているようにしか思えませんが。」

(王妃はこれを狙っていたのか。なるほど、たしかにこの服装のままここにきてよかった。)

「もし、王子が舞踏会の会場で命を狙われたなら、私はこの服装で王子の命を守るために、この命を捧げます。つまり、この服装でも私は弓の一つや二つ正確に打てなければなりませんし、場合によっては、この服でナイフだって振り回しますよ。」

私が微笑むと、アルバート王子が首を振った。

「肝心の弓はどこにあるのですか?」

「弓ならここに。」

私は胸に右手を当てて、ゆっくり前に出した。

光が形を帯びて、弓になっていく。

アルバート王子が息をのんで、この光景を見ている。

「打ってみますね。」

私は構えて弓を打った。

光の弓はまっすぐ前に進んで的の中央を打ち抜いた。

「どうですか?」

アルバート王子が愕然としている。

「弓のできるものは信頼に値する。そう思っていませんでしたか?」

アルバート王子が私をじっと見る。

「それをどこで聞いたのですか?」

「王妃からお聞きしました。」

アルバートはため息をついて、弓道場をあとにしようとする。

「あの人は口が軽いから嫌いなんだ。いつだって、俺のプライベートは気にしない。」

「兄弟なんてそんなものではないですか?」

「私はそれが嫌なのです。」

「では、今回の私の警備をかたくなに拒まれているのは、王妃の命令を聞くのが嫌だからですか?」

「違います。」

「では。」

「私が女性といるところを世間に見せたくないのです。」

「それは。」

「内密にしている恋人がいるというわけではありません。ただ、そういう人間なのだと思われたくないのです。」

女と一緒にいる王子だと思われたくない。

どんな心意があるのだろう。

私はアルバートをじっと見る。

「仲睦まじいカップルを演じたくないのなら、私は隅に控え王子を立てる恋人を演じましょう。男女平等の象徴のようなカップルを演じたいのなら、それに協力いたします。私は今日、アルバート王子の恋人です。王子が望む恋人になります。」

「ですから。」

「どんな恋人でも演じる、演じます。」

ここであと一歩踏み込む方法しか思い浮かばなかった。

「私は王子の傍で王子を守りたいのです。」

「あなたになんのメリットがあるのですか。どうせ仕事の範囲でしょう。」

「当然です。これは私にとって仕事の一つにすぎません。ですが、私はこの仕事に命を懸けます。魔道力のすべてを捧げます。すべてを王子に捧げて、王子のナイトとなりましょう。」

熱量で押し切るしかないと思った。

「私が一人で私たちのシナリオを考えても、王子がそれに協力してくださらなければ、何にもなりません。王子にも一緒に考えていただいたほうが気持ちが乗って、演技がしやすいと私は考えます。王子と私の能力を持ってすれば、10分程度ですべてを決めることができるでしょう。A4用紙5枚分のシナリオと20問を超える大量の質問の回答を一緒に考えましょう。」

アルバートがため息をついた。

「頑固な人ですね。」

「お付き合いいただけますか?」

「今日だけですよ。」

アルバートがため息をついて弓道場を出て行く。

「私の自室に来てください。ストーリーを10分で組み立てます。それから、少しホールダンスの練習に付き合ってください。あとは。」

「ゲストの皆さんに実際に質問されたときのことを想定して、受け答えの練習をしておきましょう。」

「そうですね。」

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