ナント王国王妃と雫(6)
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王妃が声を上げたのは、突然のことだった。
「だめよ。」
部屋の空気がぴりつく。
「ダンスもろくに踊れない人を非公式の警備員として受け入れるわけにはいかないは。」
「しかし、この魔道士たちの警備の腕は今回派遣されている魔道士の中でも、群を抜いております。王妃の安全を陰から守る存在としては、なんの問題もないかと。」
クーネルが王妃の前に行く。
「私が問題視していることは、そういうことではありません。」
王妃がクーネルから目をそらさなかった。
「私が言っているのは、非公式警備員は、ただドレスやタキシードスーツに身を包み、私の背後に立っていればいいというわけではないということです。非公式警備員はその場の空気になり、自分たちが魔道士であることを悟らせないからこそ、不審者に警戒されず、不審者に近づき逮捕することができるはずです。その非公式警備員が、ダンスもろくに踊れなければ、すぐに魔道良の人間だとばれてしまうことでしょう。」
王妃が、正面に立つ非公式警備を担当するはずだった魔道士に首を振る。
「あなたがたは今日、私の非公式警備員ではありません。」
「ですが王妃、新しい警備員を雇い直すには、時間がありません。」
「オーディションをしましょう。」
「えっ。」
「これだけ魔道士がいるのです。一人や二人、しっかりホールでダンスを踊ることができ、ドレスを着こなすことのできる魔道士がいるでしょう。」
こうして王妃のオーディションが始まった。
「最初は警備レベル0,5の公式警備員のみなさんのダンスを見せてもらうわね。」
王妃とダンスの相手役をするレクニカが審査をすることになった。
レクニカは王室でダンスを教える先生らしい。
「だめ。」
しかし、王妃かレクニカ先生が踊り始めて30秒で、魔道士たちにNOを突きつけた。
当然のことだ。
繰り返すが、魔道士たちはダンスの教育を受けていない。
「驚いたわ。こんなにダンスを踊れる人がいないとは。」
王妃が次の魔道士を見る。
「次は、警備レベル1公式警備員の木漏れ日さんね。」
「はい。」
雫は名前を呼ばれ、一歩前に出た。
「ダンスの経験は?」
(どうしよう。できなくはないけど。)
「できるのね。」
「えっ。」
一瞬の雫の沈黙を突いて、王妃が話し始めた。
「さあ、踊れるなら踊って見せて。」
「はい。」
雫はカバンをおいて、部屋の中央に向かった。
雫に魔道士たちの視線が集まる。
「よろしくお願いいたします。」
雫がレクニカの手を取った。
「さあ、レッツダンス。」
レクニカのステップに合わせて、雫がくるくると回る。
(幼少期からダンスのレッスンには、怖いくらいに熱心な家だったから、この程度は踊れるけれど。)
雫は余裕たっぷりな表情でレクニカに合わせながら、音楽に合わせてステップを踏む。
「すごいわ。」
レクニカと王妃が初めて最後までダンスを見た。
「彼女に似合う舞踏会の衣装を見繕いなさい。」
「はい。」
使用人の女性がばたばたと部屋を出て行く。
「オーディションはおしまいよ。彼女を非公式警備員にしましょう。」
(あー、やってしまった。平和に警備任務を終わらせて帰るつもりだったのに。)
「こちらへおこしください。」
「はい。」
雫は感情を表に出さないように気を付けながら、使用人の女性について行った。
雫、お誕生日おめでとう。




