ナント王国王妃と雫(5)
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「お待たせいたしました。王妃の準備が整いましたので、ご案内いたします。警備レベル0,5、1、2の皆様はわたくしについてきてください。」
30分ぐらい雫たちが談笑していると、ようやくアナウンスがかかった。
「行ってらっしゃーい。」
私のいるテーブルからは3人の魔道士が立ち上がった。
「こちらです。」
服装からして使用人ではなく、王室専属の1警備員の女性に連れられて、40人程度の魔道士が王級の廊下を歩く。
「こちらの扉の向こうに王妃はいらっしゃいます。」
王室専属警備員と思しき女性が扉をノックした。
「王妃、本日警備をする魔道士の皆様を連れてまいりました。」
「通して。」
女性が扉を開ける。
開かれた扉の奥には、広い部屋が広がっていて、部屋の奥のソファーに腰掛け、王妃がこちらを見ていた。
(綺麗。)
息をのんだ。
きっと今着ているドレスはパーティー用のものではない。
王級にいるときから聞かざることで、周りに一目置かせるとともに、自分の意識を高めているのだろう。
「王妃、本日王妃にお仕えする警備員をご紹介させていただきます。」
「ロイ、ありがとう。みなさんの自己紹介はけっこうよ。私から挨拶だけしておくわね。」
王妃が立ち上がった。
「ごきげんよう。今日は、各地からはるばる集まってくれたことに感謝するわ。けっして平和とは言えない治安の中で舞踏会を強行するのは、国民の不安を少しでも軽くするためです。みなさんはもしかしたら危険と鉢合わせになってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。」
「はい。」
私たちは胸の前に手を持ってきて、最敬礼の姿勢を取った。
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。王妃、警備員の皆様は一度お戻りいただきますか。」
「そうね、警備レベル2のみなさんは戻っていただいてけっこうよ。ほかの魔道士さんたちはここに残って。用事があるの。それがすんだら戻ってもらうわね。」
王妃の生き生きとした顔が印象的だった。
「かしこまりました。」
警備レベル2の魔道士たちが戻った後、王妃が非公式警備員たちを集めた。
その少し後ろで私たちは待機する。
「あなたたちが非公式警備任務に当たってくれるのね。それなら、さっそくテストをしましょう。」
王妃が右手を上げると、部屋のわきに控えていた十数人の使用人が前に来る。
「お呼びでしょうか。」
「非公式警備任務に当たってくださるみなさんに、ドレスとタキシードスーツを準備して。舞踏会に出るにふさわしい装いにしなさい。」
「かしこまりました。」
使用人が、非公式警備任務をする魔道士たちを違う部屋に連れていく。
「公式警備をしてくれる魔道士のみなさんは、少し待っててね。」
「はい。」
非公式警備に当たる魔道士たちが王妃のいる部屋に戻ってきたのは、使用人に連れられてから、30分以上経ってからだった。
この間私たちは、王妃の気遣いで部屋の壁側に準備されたソファーに座り、王妃と雑談をしていた。
「帰ってこないわねえ。」
「はい。」
「着替えに手間取っているのかしら?」
「きっとそうだと思います。」
王妃が一人一人の目を見ながら話しかけ、それに私たちが答えていく。
「お待たせいたしました。」
使用人の女性が、ドレスやスーツに着替えた魔道士を連れてくる。
(なんとか着こなせているといった感じね。)
私は魔道士たちを見る。
どんな顔をしていればいいのかわからないという表情の魔道士が、ほとんどだった。
「様になっているわね。では始めましょう。」
王妃が席を立って、二人ずつペアにしていく。
「何をなさるのですか?」
赤いドレスを着た魔道士が尋ねる。
「二人一組になって、これからダンスの審査をします。非公式警備任務をするにあたって必要なダンスのスキルだって、みなさんは持っているでしょう。」
(ダンスの試験か。かわったことを考えるわね。)
魔道士たちの顔が険しかった。
当然だ。
魔道士として働く中で、ダンスを習う機会はほとんどない。
「いくわよ。」
王妃のアイズで流れ始めた音楽に合わせ、魔道士たちが踊り始める。
(あれ?)
私は部屋の入口に目をやった。
クーネルが気まずそうな顔をしてこちらを見ていた。




