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ナント王国王妃と雫(3)

3

 「おはようございます。」

その日私はいつも通り、常勤シフトの出社時間に合わせて出勤し、デスクについた。

「木漏れ日さん、おはよう。」

「課長おはようございます。」

「相変わらずひどい目ね。」

「昨日残業だったことをご存じでしょう。」

「まあね。」

花鳥画私の机の上に、茶封筒を置く。

「任務ですか。」

「まあ、そんなところよ。」

「拝見してもよろしいですか。」

「もちろん。」

「失礼いたします。」

私は封筒を開けて、内容を頭に入れていく。

「やりたがる人がいなくてね。」

「ここに務めている魔道士のみなさんは、あまりこういうことは好みませんものね。」

「そうなの、任せていい?木漏れ日さんならこういうところにも慣れてるだろうし、警備任務だってばかにできないわ。いい勉強だと思いなさい。」

「かしこまりました。任務慎んでお受けいたします。」

よろしくね。」

「はい。」

課長が持ってきたのは、2週間後にナント王国王妃が応急で開く舞踏会での警備任務だ。

人手が足りないと、ここまで応援要請が回ってくるのだが、舞踏会のようなきらきらとした場所にあまり縁のないうちの職員たちは行きたがらない。

「木漏れ日、あの警備任務受けたんだって?」

「ええ。」

「よくやるなあ。さすがお嬢様。」

「お嬢様じゃないわよ。それに、課長がいい勉強になるって言ってたわ。」

「また課長の口車に乗せられてるよ。」

「そんなことないわよ。」

ほかの職員からしてみれば、警備任務でしかも会場が舞踏会となるとこんな感じだ。

「まあせいぜい空気に飲まれないようにな。」

「はーい。」

 警備任務前日、数日前にもらった詳細な情報を確認しながら、私は会場に向かう。

(華やかだなあ。)

舞踏会の会場の間取りやゲストの一覧表を見ていると、子供の時の舞踏会の映像がいくつもよみがえってくる。

毎日のようにダンスのレッスンに励んだこと、自分のために作られたドレスを初めて着た日、舞踏会の会場で緊張していたら、親戚のお兄様に手を差し伸べてもらえた時、始めてお父様と踊った日。すべてがいい思い出ではないが、それでも今の私を作る大切な要素の一つだ。

(今回の私の任務は、警備レベル1公式警備員ね。スーツタイプの警備服を着て、王妃の近くに立っていればいいから、そんなに難しくはなさそうね。)

腕時計を見る。

(あと3時間ぐらいか。少し寝ようっと。)

私を乗せた急行列車は、勢いよく山の中をぬけていく。

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