ナント王国王妃来航国賓晩餐会(24)
24
こうして王子の宝探しは無事に終わり、雫たちは急ぎ足で帰り支度をすることになった。
(疲れた。)
さっき着替えに使った部屋に使用人から大きな鞄を預かって、雫はようやく1人になれた。
(まずは着替えよう。報告と状況確認は後でいいわ。)
雫は南京錠を開け、鞄からスーツタイプの警備服を出す。
(それにしても、これって警備任務なのかしら?チャイルドシッターとしての要素の方が強かった気がする。)
手早く着替え、装飾品を外し、鞄から貴重品を出して、スマホを確認する。
何通もメールや不在着信が入っていた。
(王妃が勤務内容の変更は許可をもらってくれているから、始末書は書かなくていいけど、これを報告書に事細かに書くのは少し。)
雫がため息をついた。
(仕方ないわね。)
大きいカバンに衣装をしまい、自分の革の鞄を持って、雫は廊下に出た。
「こちらに衣装を一式しまってあります。お返しいたします。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
使用人の女性が雫から鞄を預かる。
「今日はありがとうございました。みなさんがてきぱきと動いてくださったから、ここまでスムーズにいろいろなことができました。ナント王国王室の使用人のみなさんは本当に優秀でいらっしゃいますね。」
「とんでもありません。我々はなすべき仕事をしたにすぎません。」
「立派なことだと思います。」
使用人の女性が違う部屋を見た。
「王妃がここを出る前にお会いしたいとおっしゃっておりました。今しばらくお待ちください。」
「わかりました。」
(できるだけさっさと帰りたいけど、さすがに今会わずに帰ったら、次会った時どやされそうだもんなぁ。)
それからすぐに、雫は部屋へ呼び出された。
「お待たせ。」
「いえ、晩餐会お疲れ様でございました。」
「疲れたわ。でも、ラニとこんなにお話できたのだから、すてきだったわよ。」
王妃にもたれかかって、王子がすやすや眠っていた。
「もうおやすみに?」
「ええ、疲れたみたい。」
「そうですか。」
「帰りの飛行機で今日のことをいっぱい聞かせてもらうの。」
「とても素敵なお話になっていますよ。」
雫がソファーの後ろに立つNeumanを見た。
「今日は本当にありがとう。警備員としての仕事ではないことをたくさんさせたでしょう。対価は別に支払うわ。願いはある?なんでも叶えてあげる。」
私は苦笑いを浮かべて首を振った。
「とんでもありません。これも立派なわたくしの仕事と心得ております。」
「それじゃつまらないわ。」
「お気遣い感謝いたします。それでは、何を望ませていただくか少し考えさせていただきますね。」
「前もそう言って逃げられた気がするわね。今度こそあなたの願いを聞かせてね。」
「はい。」
雫が頷くと、王妃がにこにこしながら、立ち上がった。
「さぁ、帰りましょう。」
「では、わたくしはこれで失礼いたします。」
(ここからが勝負だ。今日は絶対に帰る。例年通りにはさせない。)
雫が会釈をしてから、扉に向かって歩き出した。
「待って。」
「えっ。」
雫の腕を王妃がすかさず掴む。
「一緒にホテルに行くに決まってるでしょ。」
「えっ。」
「毎回のことじゃない。任務が終わった日の夜は、私と一緒にホテルに泊まって、朝まで一緒に過ごすでしょう。」
「そうしたいのはやまやまなのですが、明日から泊りの遠方任務がありまして、今日の報告書も書き上げないといけませんし、明日の準備もしなければなりません。」
「あら、私だって今、泊りの遠方任務の最中よ。」
「それは。」
「これは王妃命令よ。さぁいきましょう。」
(やっぱりこうなるのかぁ。)
王妃に腕を握られたまま、私はエントランスに向かう。
「雫。」
声がした方を見ると、チコたちが今から帰りますというふうに立っていた。
「お疲れ様。」
王妃がチコに話しかけて、歩く方向を変え、グループメートたちの方へ雫を連れていく。
「お疲れさま。滞りなく任務は終わった?」
雫が王妃を一瞬見てから、グループメートたちを見る。
「何もなかったよ。」
シーナが答える。
「よかった。今から帰り?」
「うん。」
「雫は?」
チコが雫の袖を持つ。
「私は。」
「雫ちゃんにはね、今から私についてきてもらうの。」
王妃がチコの頭に手を置いて、微笑みかける。
「えー。」
チコがぷーっと顔を膨らませる。
「あなたは雫ちゃんのことが好きなの?」
「だーいすき。」
「チコ、それ以上は王妃に失礼に当たります。」
Miraがチコの頬に手を当てた。
「ナント王国王妃、ご挨拶が遅れましたこと、心よりお詫び申し上げます。わたくしたちは魔道良2205室木漏れ日雫がグループリーダーを務める第37グループのグループメートです。王妃にご挨拶申し上げます。」
「ご丁寧にありがとう。気を遣わないでちょうだいね。私はナント王国王妃よ。いつも雫を借りてしまってごめんなさいね。あんまり雫が仕事をできてしまうから、つい甘えてしまって。」
「いくらでもこき使ってください。」
スマスが微笑みを浮かべて王妃を見る。
「あなた方は私のことがあまり好きではないと思っていたのだけれど。」
「とんでもありません。もっともっと雫をこき使ってください。」
クシーが会話を続ける。
「あなたのグループメートは面白い人たちがいっぱいね。」
「それぞれが個性の塊ですから。」
雫がグループメートの顔を一通り見てから、王妃を見た。
「そろそろまいりましょう。」
「ええそうね。それではみなさん、またどこかでお会いしましょう。ごきげんよう。」
グループメートたちが王妃に深く一礼する。
それを見てから、王妃が雫を連れて歩き出した。
「あっ、雫、明日の集合時間は8時ですからね。必ず荷物をまとめておいてください。」
「はーい。」
雫がMiraの方へ声を飛ばした。




