ナント王国王妃来航国賓晩餐会(23)
23
王子が扉の前で立ち止まった。
「王子、この時間になったのです。もう大丈夫ですよ。」
「お母様いるかな?」
「きっといます。」
Neumanが優しく答える。
「誰もいなかったらどうしよう。」
「あり得ません。」
雫が首を振った。
「王妃はきっと待っています。王子が来ることを。」
「どうしてわかるの?」
「約束したからです。」
「約束?」
「はい、一瞬でも王子が晩餐会の会場に入ることができれば、それでいいと。王妃は今もきっと、王子が来ることを待っていますよ。」
王子が扉のノブに手をかけた。
「お母様。」
王子がゆっくり扉を開ける。
「あっ。」
雫は少し息をのんだ。
「お母様。」
晩餐会の広い会場にいるのは王妃だけ。
部屋の奥でこちらをじっと見つめて立っていた。
「ラニ。」
王妃が王子を見て笑顔で手を振る。
「お母様。」
「ラニ。」
王妃は動かない。
王子が走って自分のところに来ることを待っていた。
王子が真っすぐ走り王妃の元へ向かう。
「来れました。」
「ラニ。」
王妃が王子をぎゅうっと抱きしめる。
「よく来たね。頑張ったねぇ。」
「はい。」
王子の声を聞くことができたことが嬉しかったのか、王子が晩餐会の会場に入ることができたことが嬉しかったのかはわからないが、王妃が涙を流しながら、王子を抱きしめていた。
「宝探しなんて、もうどうでもいいかもしれませんね。」
雫がNeumanを見上げる。
「そうですね。宝物はお2人の笑顔ということでよいのではないでしょうか。」
Neumanの目にうっすらと涙が溜まっていた。
ラニ王子の親同然の関わり方をしているのだ。
無理もない。
「同感です。」
雫がもう一度王子と王妃を見る。
しっかりと抱きしめあって、2人とも泣いている。
「少しこのままにしておきましょう。」
2人が一通り泣いた後、王妃が王子を抱っこして雫たちを見た。
「こちらにいらっしゃいよ。」
「はい。」
雫とNeumanは速足で王妃の元へ向かう。
「頑張って会場に来れて偉かったわね。ラニ。」
「はい。」
「じゃあ、最後の宝物のパーツを探しましょう。」
「うん。」
(やるんだ。)
雫とNeumanがほぼ同時に思った。
「この会場にあるらしいんだけど、私もどこにあるかは知らないのよね。」
(王妃が言うと、お芝居なのか本当なのかわからないわね。)
王子がテーブルに集めた九つのガラス飾りを出す。
「これで、真ん中に何かあれば、歓声するかな?」
王子が王妃に聞く。
「そうね、中心になるようなもの。お花みたいだから、花の中心になるようなものかしら。」
王子が会場をぐるっと見回す。
「あれかな?」
王子が歩いていく方向には、今回の晩餐会に寄せられた祝福の花束が飾られていた。
王子が花束の中心を見つめる。
「Neumanお願い、抱っこして。」
「畏まりました。」
雫と王妃が後ろに続く。
「やっぱりこれだ。」
Neumanから降りて、王子が右手に握っているものを王妃に見せる。
「きっとそれね。くっつけてみましょう。」
「うん。」
雫とNeumanが見守る中、王子と王妃は2人でガラス飾りを作り上げた。
「そういえば、完成したガラス飾りは初めて見ました。」
雫がNeumanに話しかける。
「そうですか。」
「ええ。」
この廊下には同じものがいくつもある。
だが、王子と王妃にとっては貴重な宝物になった。
「せっかくだもの、一ついただいて帰りましょう。ラニと私の思い出が詰まった大切な宝物よ。」
「うん。」




