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ナント王国王妃来航国賓晩餐会(13)

13

私は時計を見る。

「5時55分。王妃はそろそろ会場に向かったかな。」

私は使用人が持ってきた鞄を開ける。

「あれ。」

鞄の中に白い封筒が入っていた。

「これって。」

中身を取り出すと、案の定手紙だった。

「雫へ。」

筆跡から見て王妃の文字だ。

「今日まさかあなたに会えるとは思いませんでした。さっきは強引に頼み込んだのに、聞き入れてくれてありがとう。雫が言っていた通り、ラニほど人見知りが激しくて、育て方に困った子供は初めてです。それでも、母親として大切な息子が笑顔で日々を送れるようにしたい。一方で、一国の王妃としてゆくゆくは国の中心人物になる王子をりっぱに育てたい。もしかしたら私が持つこの二つの願いは相反しているかもしれません。そうだとしたら、私はあの子に矛盾したことを望んでいるのかもしれません。私はどうしたらいいの?」

手紙はここで終わっていた。

「私より年上で、私より賢いくせに。」

私は手紙を折りたたんで鞄の中にしまった。

「面と向かって話せなかったのか。人目もあったしね。」

私は鞄の中を出し始めた。

高価なドレスに美しいヒール、きらきらと輝く装飾品を身にまとえば、もはや魔道良に雇われている魔道士とは誰も気づかない。

「こんなことになるなら、上手を連れて来ればよかったわ。いろいろ手伝ってくれただろうなぁ。」

私は一通りの着替えを済ませ、鞄にドレスと一緒に入っていたメークのセットで簡単に化粧を直し、髪の毛を自分でセットし直す。

さっきの使用人が驚くのも無理はない。

普通の人ならこんなことは1人ではできない。

私が1人でできるのは家柄が良く、こういった衣装をよく着ていたからだ。

「できた。」

私はさっきまで着ていた服や魔道良の荷物をドレスが入っていた大きな鞄に一式しまってチャックを閉めた。

「この鞄に魔法をかけて、魔道良の荷物を補完させてもらおう。」

私は鞄にGPSと同じ役割をする状況報告魔法をかけ、カバンにけして鞄にけして破壊されないように更迭魔法をかけ、最後に鞄のチャックに魔法で作った南京錠をかけた。

これは、私の魔道適性がないと開かない。

スマホや最低限の貴重品はドレスを着るときに持つような小さい籠鞄にしまった。

「ホールはどうなってるかな。」

グループメートたちから内線の連絡を受けていないから、問題ないのだろうが、一応スマホを確認した。

「やっぱりきてない。大丈夫そうね。よかった。」

私の勤務内容が突然変更になることはよくある。

グループメートたちが今日のようなことに慣れていて、私がいなくても十分に任務をこなせるのはそのためだ。

「さぁ、行きましょうか。」

鞄を持って部屋を出ると、数名の使用人の女性が控えてくれていた。

「本当にお1人でお召替えできたのですね。」

「小さい時からロイヤルブラットの家で育ちましたので、こういったことには慣れております。」

「厚かましいことをいたしました。」

「いえ、お気遣い感謝いたします。」

「王妃命令により本日お仕えさせていただきます。御用があればなんなりとお申し付けください。我々は家事や雑務だけでなく、一通りのレクリエーションの弁えもございますので、どうぞご自由にお申し付けください。」

私の前に立つのは4名の女性。

確かに家事や身の回りのお世話しかできない使用人ではなさそうだ。

どうやら宝探しの一件を知っているようだ。

「ありがとうございます。それではさっそく一つお願いしてもよろしいですか。」

「はい。」

「この鞄を盗難されない場所で管理していただきたいのです。」

「畏まりました。」

私は正面に立つ女性に鞄を渡した。

「魔道良で管理している非常に重要なものしか入っておりません。盗難されるようなことがあれば、大問題になります。今日このようなことになるとは全く思っておりませんでしたので、準備が不十分でお願いすることになりました。」

「お気になさらないでください。我々も王族の皆様の荷物を管理する者です。責任を持ってお預かりさせていただきます。」

「よろしくお願いいたします。」

私は使用人の4人に深く一礼して、さっきまで王妃がいた部屋に戻った。

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