ナント王国王妃来航国賓晩餐会(12)
12
私はゆっくり息をはいて、王妃の隣に座った。
「どうします?」
「どうしましょう?」
王妃が笑顔で首を振る。
「ノーアイデアですか?」
「はい。」
「私をここに呼んでおいてですか?」
「ええ。」
2人の間に沈黙が続く。
「子供は大人の感情の変化に鋭いですよ。私たちが困っていたら、それをすぐに悟ります。」
「わかってるわよ。」
私は時計を見る。
「5時45分ですか。王子はこっそり晩餐会に参加するんですよね?」
「ええ。」
「それでしたら、18時ちょうどから出席する必要はありませんね?」
「ええ。」
「わかりました。」
こうなったらもう仕方ない。
私は席を立って王妃を見る。
「晩餐会に出席するにふさわしい一通りのものを私たちに準備していただけますか。」
「私たち。」
王妃が繰り返す。
「はい。」
私はNeumanと王子を順番に見た。
「ええもちろん。」
王妃が後ろを振り返ると、使用人の女性たちがばたばたと準備を始めた。
「どこかで一瞬でも晩餐会のホールに入ることができれば、上出来だと思ってくださいね。」
「ありがとう。持つべきものは友ね。」
王妃が私の右手を取って激しく振った。
「もう振り回されるのにも慣れました。」
私は王妃に微笑みかけてから王子の方へ歩いて行った。
「今夜一緒に探検に行きませんか?宝物を探しに。」
王子が何も言わずにじーっと私を見つめる。
「王子、ご一緒しますよ。」
私は王子に微笑みかけてから振り返った。
Neumanが微笑みを浮かべてこちらを見ている。
だが、その瞳の奥には警戒の色が伺える。
まだ私に気を許していないのだろう。
「少しお時間よろしいですか?」
「はい。」
私はNeumanを連れて空いている部屋に案内してもらった。
「しばらくここをお借りしてもよろしいですか。」
「はい。」
「ありがとうございます。時間の短縮のために、準備ができましたら、ここに一通りのものを持ってきてもらってもいいですか?」
「ここでよろしいのですか?」
「はい。」
「畏まりました。」
「よろしくお願いいたします。」
使用人の女性が出て行った後、私はNeumanを見た。
しんとした部屋の中でNeumanが先に口を開いた。
「なぜ王子が人見知りで、それを王妃が気にかけ、あなたに王子の人見知りを直すように頼んだとわかったのですか。」
「王子のお顔と精神状態を観察していれば、王子が人見知りでいらっしゃることはわかります。王妃が私に王子の人見知りを直すように頼んできたことは、7年間お付き合いさせていただいているからわかったことです。」
Neumanが驚いたように私を見る。
「少しでかまいません。今夜一晩共に王子の傍に着く私を信頼していただけませんか。」
「私はあなたのことを。」
私はNeumanに首を振った。
「信頼していないでしょう。わかりますよ。」
Neumanが黙った。
「申し訳ありません。」
「当然のことです。謝るようなことではありません。」
Neumanが奥の窓の方へ歩きながら話してくれた。
「わたくしは王子のお傍にずっとお仕えしてまいりました。王子の人見知りが激しいことはわたくしもよく弁えております。」
「王子の人見知りはいつからですか?」
「小さい時からずっとです。あのように王妃とお話することもままなりません。」
「王妃以外のご家族とは仲がよろしいのですか?」
「いいえ。」
Neumanの話しが止まった。
「失礼いたしました。王族の皆様の関係性について立ち入るつもりはございません。」
「あなたは気にしないのですか。」
「人には踏み込むべき領域と、踏み込んでもいい領域と、踏み込むべきでない領域と、踏み込んではいけない領域があると心得ております。今回の場合は私が踏み込んではいけない領域と思います。」
Neumanが私に背中を向けたまま頷いた。
「王妃があなたを信頼している理由がなんとなくわかってきました。この時間を作ったのも私があなたの人となりを知る時間を作るためでしょう。」
「はい。」
「聡明な方ですね。」
「とんでもありません。」
あまりゆっくりと話し込む時間はないと私もNeumanも分かっている。
「今回、王妃は王子が晩餐会の会場に一瞬でも入ることができればそれでいいとおっしゃいました。」
「はい。」
「はっきり申し上げて、今の王子が晩餐会の会場に長居することは不可能でしょう。」
「なぜですか?」
「人混みがあまり得意ではないとお見受けいたしましたが。」
「そうです。なぜそうだと。」
「さきほどのお部屋には王子が面識を持った使用人や警備員しかいないはずなのに、王子はあんなに小さくなっておられました。そんな王子が顔も名前も知らない人ごみの中に行ったら、フリーズしてしまうでしょう。」
Neumanが窓から外を見たまま頷く。
私は近くにある赤いソファーに腰を掛ける。
「ですから、今回はゲームをしませんか?」
「ゲームですか?」
「はい。」
私は部屋の引き出しの上に置かれた紙と鉛筆を取って、Neumanの隣に行き、窓の手前の小さなスペースに紙を置いた。
「宝の地図を書きます。」
「宝の地図ですか?」
「はい。」
私はこのホールの構図といくつかのマークを書いた。
「簡単に言えば、スタンプラリーのようなものです。ホールの中をあちこち歩く中でいろんなアイテムを集めて行き、最終的にそれらが一つになるか、それらを使って大きな一つのものを手に入れます。ゲーム感覚で歩き回ってそのコースの中に晩餐会の会場を組み込めばいい。急なことですが、申し合わせはできますね。」
「わかりました。」
初めてNeumanが笑ってくれた。
「初めてNeumanさんの笑顔を見ました。」
「わたくしのですか?」
「はい。」
「わたくしの笑顔など。」
「大切ですよ。少なくとも今から4時間ぐらいは、私はNeumanさんの妻役を、Neumanさんは私の夫役を演じなければなりません。」
「たしかに。」
「演じる準備はできていますか?」
「いえ全く。こういったことには不慣れなもので。ぜひご教授ください。」
「わかりました。」
私は微笑んでNeumanの左手を取った。
「王子のことを一番よく知っているのはNeumanさんです。頼らせてくださいね。」
「はい。」
使用人の女性がスリーノックをした。
「どうぞ。」
私が答えると大きなカバンを持った女性が入ってきた。
「ここに晩餐会用の衣装やアクセサリーを入れております。お召替えをお手伝いいたしましょうか?」
「いいえ、私1人でかまいません。準備が整いましたら、王妃が先ほどいらっしゃったお部屋に伺えばよろしいですか?」
「はい。」
「わかりました。」
女性からカバンを預かって、私はNeumanを見た。
「本当に宝探しでいいですか?」
「はい、王子は楽しまれると思います。」
「でしたら、早急に準備を始めなければなりません。お手伝いいただけますか?」
「はい。」
私のお願いをNeumanは快く受けてくれた。
「大切なことは王子の興味を引くことです。ホール内の間取りは頭に入っていますか?」
「はい、宝探しの案をいただけただけで十分です。あとは任せていただけませんか?」
驚いた。
Neumanが乗り気になっている。
「はい、よろしくお願いします。」
私が頷くと、Neumanが一礼して部屋を出た。
ナント王国王妃来航国賓晩餐会
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私はゆっくり息をはいて、王妃の隣に座った。
「どうします?」
「どうしましょう?」
王妃が笑顔で首を振る。
「ノーアイデアですか?」
「はい。」
「私をここに呼んでおいてですか?」
「ええ。」
2人の間に沈黙が続く。
「子供は大人の感情の変化に鋭いですよ。私たちが困っていたら、それをすぐに悟ります。」
「わかってるわよ。」
私は時計を見る。
「5時45分ですか。王子はこっそり晩餐会に参加するんですよね?」
「ええ。」
「それでしたら、18時ちょうどから出席する必要はありませんね?」
「ええ。」
「わかりました。」
こうなったらもう仕方ない。
私は席を立って王妃を見る。
「晩餐会に出席するにふさわしい一通りのものを私たちに準備していただけますか。」
「私たち。」
王妃が繰り返す。
「はい。」
私はNeumanと王子を順番に見た。
「ええもちろん。」
王妃が後ろを振り返ると、使用人の女性たちがばたばたと準備を始めた。
「どこかで一瞬でも晩餐会のホールに入ることができれば、上出来だと思ってくださいね。」
「ありがとう。持つべきものは友ね。」
王妃が私の右手を取って激しく振った。
「もう振り回されるのにも慣れました。」
私は王妃に微笑みかけてから王子の方へ歩いて行った。
「今夜一緒に探検に行きませんか?宝物を探しに。」
王子が何も言わずにじーっと私を見つめる。
「王子、ご一緒しますよ。」
私は王子に微笑みかけてから振り返った。
Neumanが微笑みを浮かべてこちらを見ている。
だが、その瞳の奥には警戒の色が伺える。
まだ私に気を許していないのだろう。
「少しお時間よろしいですか?」
「はい。」
私はNeumanを連れて空いている部屋に案内してもらった。
「しばらくここをお借りしてもよろしいですか。」
「はい。」
「ありがとうございます。時間の短縮のために、準備ができましたら、ここに一通りのものを持ってきてもらってもいいですか?」
「ここでよろしいのですか?」
「はい。」
「畏まりました。」
「よろしくお願いいたします。」
使用人の女性が出て行った後、私はNeumanを見た。
しんとした部屋の中でNeumanが先に口を開いた。
「なぜ王子が人見知りで、それを王妃が気にかけ、あなたに王子の人見知りを直すように頼んだとわかったのですか。」
「王子のお顔と精神状態を観察していれば、王子が人見知りでいらっしゃることはわかります。王妃が私に王子の人見知りを直すように頼んできたことは、7年間お付き合いさせていただいているからわかったことです。」
Neumanが驚いたように私を見る。
「少しでかまいません。今夜一晩共に王子の傍に着く私を信頼していただけませんか。」
「私はあなたのことを。」
私はNeumanに首を振った。
「信頼していないでしょう。わかりますよ。」
Neumanが黙った。
「申し訳ありません。」
「当然のことです。謝るようなことではありません。」
Neumanが奥の窓の方へ歩きながら話してくれた。
「わたくしは王子のお傍にずっとお仕えしてまいりました。王子の人見知りが激しいことはわたくしもよく弁えております。」
「王子の人見知りはいつからですか?」
「小さい時からずっとです。あのように王妃とお話することもままなりません。」
「王妃以外のご家族とは仲がよろしいのですか?」
「いいえ。」
Neumanの話しが止まった。
「失礼いたしました。王族の皆様の関係性について立ち入るつもりはございません。」
「あなたは気にしないのですか。」
「人には踏み込むべき領域と、踏み込んでもいい領域と、踏み込むべきでない領域と、踏み込んではいけない領域があると心得ております。今回の場合は私が踏み込んではいけない領域と思います。」
Neumanが私に背中を向けたまま頷いた。
「王妃があなたを信頼している理由がなんとなくわかってきました。この時間を作ったのも私があなたの人となりを知る時間を作るためでしょう。」
「はい。」
「聡明な方ですね。」
「とんでもありません。」
あまりゆっくりと話し込む時間はないと私もNeumanも分かっている。
「今回、王妃は王子が晩餐会の会場に一瞬でも入ることができればそれでいいとおっしゃいました。」
「はい。」
「はっきり申し上げて、今の王子が晩餐会の会場に長居することは不可能でしょう。」
「なぜですか?」
「人混みがあまり得意ではないとお見受けいたしましたが。」
「そうです。なぜそうだと。」
「さきほどのお部屋には王子が面識を持った使用人や警備員しかいないはずなのに、王子はあんなに小さくなっておられました。そんな王子が顔も名前も知らない人ごみの中に行ったら、フリーズしてしまうでしょう。」
Neumanが窓から外を見たまま頷く。
私は近くにある赤いソファーに腰を掛ける。
「ですから、今回はゲームをしませんか?」
「ゲームですか?」
「はい。」
私は部屋の引き出しの上に置かれた紙と鉛筆を取って、Neumanの隣に行き、窓の手前の小さなスペースに紙を置いた。
「宝の地図を書きます。」
「宝の地図ですか?」
「はい。」
私はこのホールの構図といくつかのマークを書いた。
「簡単に言えば、スタンプラリーのようなものです。ホールの中をあちこち歩く中でいろんなアイテムを集めて行き、最終的にそれらが一つになるか、それらを使って大きな一つのものを手に入れます。ゲーム感覚で歩き回ってそのコースの中に晩餐会の会場を組み込めばいい。急なことですが、申し合わせはできますね。」
「わかりました。」
初めてNeumanが笑ってくれた。
「初めてNeumanさんの笑顔を見ました。」
「わたくしのですか?」
「はい。」
「わたくしの笑顔など。」
「大切ですよ。少なくとも今から4時間ぐらいは、私はNeumanさんの妻役を、Neumanさんは私の夫役を演じなければなりません。」
「たしかに。」
「演じる準備はできていますか?」
「いえ全く。こういったことには不慣れなもので。ぜひご教授ください。」
「わかりました。」
私は微笑んでNeumanの左手を取った。
「王子のことを一番よく知っているのはNeumanさんです。頼らせてくださいね。」
「はい。」
使用人の女性がスリーノックをした。
「どうぞ。」
私が答えると大きなカバンを持った女性が入ってきた。
「ここに晩餐会用の衣装やアクセサリーを入れております。お召替えをお手伝いいたしましょうか?」
「いいえ、私1人でかまいません。準備が整いましたら、王妃が先ほどいらっしゃったお部屋に伺えばよろしいですか?」
「はい。」
「わかりました。」
女性からカバンを預かって、私はNeumanを見た。
「本当に宝探しでいいですか?」
「はい、王子は楽しまれると思います。」
「でしたら、早急に準備を始めなければなりません。お手伝いいただけますか?」
「はい。」
私のお願いをNeumanは快く受けてくれた。
「大切なことは王子の興味を引くことです。ホール内の間取りは頭に入っていますか?」
「はい、宝探しの案をいただけただけで十分です。あとは任せていただけませんか?」
驚いた。
Neumanが乗り気になっている。
「はい、よろしくお願いします。」
私が頷くと、Neumanが一礼して部屋を出た。




