ナント王国王妃来航国賓晩餐会(8)
8
改札を出るとき、ホームの中がどんどん騒がしくなっていくのが聞こえていた。改札を
出るときにすれ違う人たちはホームで起こったことを気にしていた。
「糸奈お疲れ様。」
雫が糸奈を振り返る。
「うーん、雫の判断がよかったんだよ。」
「いいえ、私は彼に気づいていなかったもの。これは糸奈の功績よ。」
「糸奈すごーい。」
チコが糸奈をぽんぽんする。
「本当だね、お疲れ様糸奈。」
「あんな名演技ができるなんて思わなかった。」
「いや、それは。」
「糸奈の特技がまた一つわかってよかったわ。」
雫がボールペンをポケットから出してくるくる回す。
「仕事の本番はこれからなのに、まさかこんなにばたばたするとは思って
いませんでした。」
Miraがスマスを見る。
「そうだね、まあ今回は警備レベル4の会場外警備だし、特に何もないだろう。
ゆっくりできてよかったね。」
「そう信じたいね。」
メーラが首をぐるぐる回す。
(会場に着く前に今のことを一応司令部に連絡しておこう。)
雫がみぎみみにスマホを当てながら、本部の魔道電波を探した。
(こちら魔道良2205室第37グループグループリーダー木漏れ日、応答願う。)
(こちらナント王国王妃来航国賓晩餐会任務司令部。)
(先ほどの件、無事解決した。)
(了解、任務の続行を望む。)
(了解。)
雫が右手を降ろす。
ホールに到着すると、17時45分からの入場を待つお客さんたちが周辺のベンチに座って
いたり、近くのカフェに入っていたりするのが見えた。
「入場時間がもうすぐですからね。」
「ええ、私たちは先に会場に入って最後の打ち合わせよ。」
社員証を翳してホールのエントランスに入ると、先に着いていたグループたちが
グループに分かれて集まってソファーに座り、談笑していた。
「意外と余裕あるな。」
レークが会場を見回している。
「そうねぇ、みんなは座って休んでいて。私はさっきのことを会場の警備責任者に
念のため伝えてくるわ。」
「はーい。」
空いているソファーを見つけ、グループたちが落ち着いたのを確認してから、雫が
歩き出そうとすると。
「木漏れ日さん。」
後ろから高いヒールの音を高らかに雫のところへ駆けてくる足音がした。




