平和なひととき(1)
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「そういえばチコしかいないの?」
「そうだよ。みんなは学校とか会議だって。」
「そう。」
雫の席に上手が麦茶を持ってきた。
「遅くなりました。アイスですが。」
「ありがとう。」
「お昼はいかがなさいますか?」
「そうねぇ、スマスと面談をしながらいただくわ。」
「畏まりました。」
「上手さん、今日は何を作ってくれるの?」
「冷やし中華などはいかがですか?」
「賛成!」
雫の隣に座るチコが、ぴょーんと席を立った。
「畏まりました。」
「チコ。」
「えへえ。」
チコがふわふわと席に座り直してパソコンを操作する。
「雫様?」
「なに?」
「雫様のスーツタイプの警備服はございますか?」
「ええ、ロッカーに入っているわ。あー!」
雫の声が高くなった。
「アイロンがけですね。」
「どうしてわかったの?」
「お顔に書いてありました。クリーニングに急ぎで回しますので持ってきてください。」
「はーい。」
雫は仮眠室に向かう。
(たしかあったはず。)
仮眠室の扉を開けるとベッドがあるスペースの隣に少し大きめのロッカーが置かれたスペースがある。
雫は自分の名前のシールが貼られたロッカーの前で止まり魔法でカギを作った。
(なかったら、どうしよう。)
カギを開けてゆっくりしゃがむ。
(たしか、紙袋に畳んで入れていたはず。)
しばらくがさごそとロッカーの中を探して雫が立ち上がった。
(あった。)
紙袋を持って雫がお仕事用のスペースに戻ってくる。
「この中にスーツの上下とブラウスが入っているわ。」
「たしかにお預かりいたしました。魔道良のクリーニングに出しても構いませんか?」
「ええ、お願い。」
上手が内線の電話の方へ向かう。
雫は席に座ってスマホを見る。
(スマスとの面談まで20分か。何しようかな。」
雫がパソコンを操作して自分を含めた10人分のデスクワークの進捗状況を確認する。
「学生組が少し遅れているわね。学業と仕事のバランスって本当に難しい。」
雫が違う画面を開きメールを確認する。
「一晩見なかっただけでどうしてこんなに増えるのかしら?」
雫の見るモニターには未読のメールが上から下までびっしりと続いていた。
「上手に優先順位を付けてもらわないと切りがないわね。」
雫が席を立って伸びをしながら窓の方へ向かった。
「今日はいい天気ねえ。会場内の警備任務だから天気は関係ないけど、それでも天気がいいのは気持ちいいことだわ。」
雫が外を見ている窓の上に時計が掛けられている。
時刻は12時前だ。




