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ナント王国王妃来航国賓晩餐会(2)

          2

 ポリス月間に与えられるような突発的な任務ではなく、ノーマル月間に行うような事前の準備がしっかりできている任務では、任務当日までに何度も何度も入念に会議を行う。

こういった任務で求められることは、いかにスムーズにトラブルなく任務を遂行することができるかということだ。

ノーマル月間に行う任務はたくさんのグループが協力して行うため、必ず1人から数名の責任者を決めなければならない。

そうしなければ収集がつかないのだ。

その責任者の中心的なホストにつくのが「魔道任務任命部」の職員と一般職員の人間、あとは現場で働く魔道師だ。

今回の任務の責任者、通称ホストは、魔道任務任命部の職員「鏡今花(かがみきょうか)」と、「一般広報部」の「紫菫(むらさきすみれ)」そして「会場内および来賓護衛部長」に任命されている魔道良2205室第15グループグループリーダーの「Thomas(とーます)」、そして「会場外警備責任者」に任命された魔道良2205室第20グループの「レイ」だ。

雫の正面にこの4人がずらりと座っている。

ほかにもそれぞれの現場を統括することになっている職員はいるが、会議で主に話を進めるのはこの4人だ。

あとはナント王国にある魔道良5505室所属で「王族護衛任務隊隊長」になった「Gholl(ぐーる)」が正面に座っている。

さっき雫に遅刻の原因について聞いていたのは今花で雫は今花の正面に座っている。

今花がハンドマイクのスイッチを入れた。

「いよいよナント王妃来航を歓迎する国賓晩餐会が今日の18時に迫った。まずはこれまでの2か月間多忙業務の合間を縫ってこの会議に出席しその卓越した知識や経験をもとにさまざまな指摘をし的を得た助言を施してくれたことに感謝する。今回の会議は10時45分までに終わらせるものとする。今までに決めてきた情報の中で細かい修正点が昨夜出てきたためそれの確認を行う。その後それぞれの役割分担について確認する。」

今花の話し方はいつもたんたんとしていて男勝りなものだ。

これは魔道任務任命部というクレーム対応をすることの多い部署に長く在籍していたからこそ身についた話術と言ってもおかしくない。

「まずは今回の任務の概要について簡単に確認する。後ろのスクリーンを見てほしい。」

今花がスライドショーを始めた。

「今回の任務は、本日2029年8月24日水曜日の18時から21時の予定で開催されるナント王国王妃来航を歓迎する国賓晩餐会の護衛任務だ。会場は国際会館MYHall。ナント王国王妃に出席していただき、そのほか著名なゲストや国会議員、閣僚幹部などが出席する予定だ。今回の任務では王族および会場内警備の班と会場外周辺警備班の2班に別れる。」

雫はスライドショーそっちのけで机に設置されているタブレットに自分の社内IDを入れて雫のグループの役割を確認していた。

(うちは周辺警備だね。警備レベル4だしそんなに忙しくないでしょう。)

警備レベルは警備担当者と警備対象者の距離を表す数字だ。

数字が小さければ小さいほど、警備担当者は警備対象者への近接的な攻撃に警戒をする必要がある。

一方警備レベルの数字が大きくなれば大きくなるほど、警備担当者は警備対象者ではなく会場全体を巻き込んだ大掛かりな攻撃や突然会場に入ってくる襲撃者に対する対応、会場の外で起きる問題に対応することが求められる。

雫のグループに与えられた役割は警備レベル4。

これは晩餐会の会場となるホールではなくホールのロビーの警備に当たるレベルだ。

意識しなければならないことは不審者の侵入を未然に防ぐということだ。

だがありがたいことに不審者が入ってくることなんてほとんどない。

警備レベルが5以上になると会場の外の警備に当たることになる。

この季節の熱い屋外で汗をかきながら警備をすることは体に堪える。

(頼み込んだ甲斐があったわね。)

雫たちは昨日違う都市の魔道良から応援要請を受けて、シンポジウム会場の外で炎天下の12時から15時まで屋外警備をした。

屋外警備が2日続くなんてたまったものではない。

雫はこの予定表を受け取ってすぐに今花のところに駆け込んだ。

「2日続けて屋外警備任務を行うことは不可能です!気温と季節を考慮してください。」

なんとかひっしに頼み込み物々交渉の末勝ち取った涼しいロビーでの警備だった。

「それでは最後に。」

今花の声に我に返った雫はモニターを見上げた。

話しはさらさらと進んでいたようで会議はあと少しで終わるというところまできていた。

「今回のユニフォームの変更点についてご連絡いたします。」

今花の目配せで菫とGhoolがマイクを握った。

「先週お配りしたテキストデータに記載した通り、当初の予定では警備に当たるみなさんには規定に乗っ取った警備服を着用していただく予定でした。」

「しかし、このことを王妃にお伝えしたところ「パーティーの雰囲気が台無しになるから、変更しろ。」とお達しが出されました。そこで今からスクリーンに映しますようにご変更ください。」

Ghoolがマウスを操作した。

「警備レベル0~2までの会場内および王族方の警備に当たるみなさんは、女性のほうがドレスタイプの警備服、男性のほうはタキシードタイプの警備服を着用いただき、警備レベル3以降の皆様はノーマルスーツタイプの警備服を着用ください。ご協力よろしくお願いいたします。」

(現場と来賓客の意識のずれなんてしょっちゅうある話だけど、今回は十分想定できた話しかもしれないわね。王妃の顔が目に浮かぶもの。)

Ghoolが話し終えると早速手が挙がった。

「どうぞ。」

今花が挙手をした男性職員に視線を向ける。

「警備に特化しないそれらの警備服では実際に問題が発生したとき、支障をきたします。」

「肯定する。しかしこれは、ナント王国王妃の命令だ。何人たりとも逆らうことはできない。」

「それが魔道良任務任命部の意向なのですね。」

「はい。」

「心得ました。」

しぶしぶといった顔で男性職員が席についた。

「ほかに指摘がなければこれで今日の会議は終了とする。」

これ以上は誰も手を挙げなかった。

「それでは今夜の任務の成功を祈り会議を終了する。」

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