チコのプロ意識(6)
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チコは車で自宅に帰ってきてから数時間、部屋に籠りっぱなしで誰とも会おうとしなかった。
部屋には稲穂さえ通さず、カギをかけて一切を閉ざした。
稲穂はそんなチコを気にしながら、現在荷解き中だ。
(緑王女とガーノーさんとお話になった後、車の中でも何も言わないし、何を聞いても答えてくれないし。)
稲穂も大体の事情は聞いているが、それはガーノーから聞いたのであってチコから聞いたわけではなかった。
(緑王女の護衛役一時解任。トニー様がたいそうご立腹になるわね。下手をしたら魔道良を無理やりやめさせてでもチコ様を緑王女の護衛役に復帰させかねない。でも今一番辛いのはチコ様だろうし。)
稲穂が洗濯物を仕分けていると扉がノックされた。
「どうぞ。」
稲穂の声からしばらくして扉を開けたのはチコの母親だった。
「奥様。」
慌てて稲穂が立ち上がる。
チコの母親は一人で訪ねてきていた。
(奥様がお一人で来られるなんて。そもそもここに?)
「いかがなさいましたか?」
「チコのことを聞きました。もう少し詳しく聞きたいと思って。」
(トニー様が帰ってきてから奥様に報告するはずなのに。)
「トニーの話を聞く前にあなたから聞きたいの。」
(こんなに真っすぐにこちらを見られることなんてあんまりないのに。)
「畏まりました。それでは奥様のお部屋に。」
チコの母親が首を横に振る。
「ここで聞きます。私があなたと会っていたと外に知られれば、トニーがひどく疑うでしょうし。」
「畏まりました。」
稲穂がチコの母親を室内に通し、王城で何があったのかをすべて報告した。
「そうですか、報告ありがとうございます。」
この部屋は作業部屋だから立派な椅子やソファーはない。
チコの母親はパイプ椅子に座っていた。
稲穂は真正面に立っている。
「チコの様子はどうですか?帰ってから部屋にずっと籠っていると聞きましたが。」
「はい。あそこまで気持ちの沈んでいらっしゃるチコ様を見たのはずいぶん久しぶりでした。」
「そう。」
チコの母親が長いため息をついて目を閉じる。
「本来であればもっと早くどちらかに絞らせておくべきだったのかもしれないわね。」
稲穂は何も答えない。
(何か言うべきなんだろうけど、答えられない。)
「稲穂。」
「はい。」
「お願いがあります。」
「何なりとお申し付けくださいませ。」
「チコのやりたいようにやらせてあげて。」
稲穂が目を見開いた。
「それは?」
「今わたくし、わたくしたちチコリータ本家には力がありません。だからこそ緑王女に気に入られているチコに王家とのパイプという意味でもこのまま護衛役から外れられては困るのです。」
「はい。」
「トニーだってそれを分かっているからチコにきつく当たるのですよ。私もトニーも本来ならチコにこんなことを強要するべきではないし、チコだってやりたいことをやりたいようにやってそれで自立できるなら一番いいと思います。けれど今の私たちではそうはいきません。」
稲穂がyっくり頷く。
「だから私やトニーはチコにひどく当たるかもしれない。けれどお願い稲穂、あなただけはチコの見方でいてあげて。あの子が本当に望むことを支えてあげて。お願い、最後まで諦めないでいてあげて。」
チコの母親が立ち上がり深く深く頭を下げた。
チコが緑に頭を下げた時のように。
「奥様、頭を上げてください。」
稲穂が慌ててチコの母親を座らせる。
「稲穂。」
チコの母親の目が、オーラが、表情が、声のトーンが、すべてがその必死さを稲穂に突きつける。
稲穂が少し息をのんでから、立ち上がった。
数歩後ろに下がり姿勢を正す。
「ご命令確かに承りました。責任を持ちこの身に代えてでもチコ様の望む道を最後の最後まで諦めずお支えすると約束いたします。」
「ありがとうございます。」
チコの母親が力なく微笑んだ。
(これはつまり、自分たちが多少強引な手にでるかもしれないが、私にはその真意を理解しておいてほしいということ。母親としての本心を理解しておいてほしいということ。とうとうそこまで来ているのね。)




