チコのプロ意識(5)
5
ガーノーさんが部屋を出て行って、私と緑様が二人になった。
「緑様。」
私は緑様の方に姿勢を直す。
「座って。」
緑様の声は私に対しても冷たい。
「食事会へは?」
「いいわもう。」
その声は冷たくて無気力で怖い。
「いいから座って。」
「はい。」
私は言われた通りソファーに座りなおした。
「なんの話を二人でしたの?」
私が話し出す前に緑様に聞かれた。
「このまま緑様の護衛をするのは望ましくないと。」
「そう、チコはどう思ってる?」
それはさっき伝えたつもりだったのに。
「私は緑様の近くにいたいですよ。ですからさっきガーノーさんにあのようにお願いをして。」
緑様の目が鋭くなる。
「緑様?」
「それはチコの本音じゃないんでしょう。チコだって本当は私の護衛なんてやめたいんでしょう。」
「そんなことありません。最近忙しくてきちんとお話できていなかったから、よそよそしくなっていたかもしれません。それに、緑様とうまく呼吸の合わない時間が続いていたのも事実です。それでも緑様のお傍にいるのは楽しいです。嬉しいんです。だから、まだ傍にいるためにガーノーさんにお願いをして。」
あれ話が破綻してる?
緑様は浅い息を繰り返しながら私を見ている。
「ありがとう。そう考えてくれてありがとう。」
ありがとうって言っているのに、緑様の顔は全然嬉しそうじゃない。
「ねえチコ?」
「はい。」
「私たちもう仲良くできないのかしら?」
緑様の顔から感情が読み取れない。
「それは嫌です。」
私ははっきり答えた。
「私も嫌よ。ならチコ外交先にもついてきて。」
緑様が私たちのテーブルに身を乗り出して、私の両肩を掴む。
「緑様危ないです。」
「一緒にずっといれば昔みたいにうまくやれるわ私たち。魔道良では働けなくなるけど、それと同等、いいえそれ以上の学びや楽しさをあげる。約束するわ。だからね、一緒に。」
私は緑様の両手に触れてゆっくり押し戻す。
「チコ。」
「危ないですから、ソファーに座ってください。」
緑様が頷いてソファーに座りなおした。
「チコ。」
だめ、それだけはできない。
いくら緑様からのお願いでもそれはできない。
だってそれは私が絶対に譲りたくないことだから。
「すみません。」
私は深く深く頭を下げる。
「それはできません。」
「なぜ?」
「私にとって魔道良や研究所は私の大切な職場であり、そこでの日々はとても楽しいからです。だから、まだあそこをやめたくはありません。」
緑様が息をのんで俯く。
「結局そうじゃない。」
「えっ。」
「結局チコだって私のことは後回しなのよ。あなたが優先させるべきは私でしょ。どうして私を1番に選んでくれないの。私の護衛役をまだ続けたいと思うなら、どうして私の言うことを聞いてくれないの。どうして私の思い通りに動いてくれないの。」
「えっ。」
「魔道良や研究所での仕事はあくまでチコの見識を広めるためのものであって、チコの本来の仕事は、私の護衛でしょ。それなら何よりも私を優先しなさい。」
緑様の声があまりに大きくて、緑様の言葉の意味が理解し切れなくて、頭がくらくらする。
「あっ。」
しばらくして緑様が俯いたような気がする。
視界が定まらない。
本当は近くに行かないといけないんだろうけど、私は近づけない。
「ごめんなさい。結局私もチコの自由な生活を心から願えてはいないのね。」
私は何も言えない。
緑様が何を言っているのか分からない。
耳が遠い。
「もういいわ。帰って。」
「失礼します。」
自分が何を言っていて、何をしているかも分からないまま私は部屋を出て行った。
部屋を出る最後まで緑様の顔を見れなかった。




