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スマスとたね(4)

4

 朝食を終えスマスがパソコンを立ち上げた。

「洗い物してる間に咲かせた花を見せるから、確認しておいてくれるかい?」

「おー。」

ティアルの目つきが変わる。

ずっと楽しみにしていたらしい。

「前25個持って帰ったろ。いくつ咲かせた。」

「25個全部咲かせたよ。」

「ほー、24個は咲かせるだろうと思っていたが、1個どうしようもなく難しいのがあったはずだぞ。」

「難しかったよ。一番手間暇をかけたね。咲いたのだって一昨日の夜だよ。」

「何日かかった。」

「1週間、それも極力急いで1週間だから、普通にやったら1か月くらいかかるんじゃないかな。」

「また花のペースじゃなくおまえの都合に花を付き合わせたのか。」

「仕方ないじゃないか。9月に入ったらポリス月間に入っちゃうからね。そうなったらますます育てにくくなる。」

スマスが二人分のお皿を洗いながらガーディと会話をする。

「なら来月はあんまり育てられんか。」

「そうだね、凝ったものは難しいかもしれないね。まあ、この前くれた種の難易度だったら何とか咲かせるさ。」

「いくつほしい。」

「15個くらいがいいなあ。」

ガーディがスマスの置いたパソコンを見る。

画面にはスマスが咲かせた花の写真が映っている。

色鮮やかな花びらに個性的なフォルム、周りがうっすら光っているものもある。

「改良の余地はありそうだったか。」

「いろいろあると思うよ。」

洗い物を終えたスマスがテーブルに戻ってくる。

「続きはラボでしよう。」

 スマスとガーディが自宅からラボに移動し、作業台を挟んで向かい合う。

「じゃあ、いつも通り乾燥からだね。」

スマスがもう一度パソコンを開いて写真を見せる。

スクリーンには紫の花びらが10層に連なる花が映っている。

「これはねえ、なかなか綺麗だったよ。4日で咲いたし、スパイラルの供給のタイミングも規則的でやりやすかったね。」

スマスとガーディは、研究と改良を重ねに重ね、スパイラル成分の単純化や誤差に対する対応の幅の拡張、スパイラル供給の速さや量の詳細な調査を行い、スマスがこの研究に協力し始めた当初よりはるかに使いやすい種ができるようになっていた。

実際の花の種にスパイラルを供給し、変化を起こさせるプログラムを組み込んだものを「ユニークフラワー」と呼び、大量生産も可能になった。

今のスマスの仕事であり趣味は、時々出てくる規格外の種を受け取り咲かせて感想を述べることだ。

ガーディが写真をじーっと見ている。

「やはり写真では詳細な色までは分かりにくいな。スマス、おまえやっぱりうちに住み込め。」

スマスの顔が険しくなる。

「無茶言わないでよ。それで前倒れただろ。もうあんなの懲り懲りだ。」

「ならせめて五つはこっちで世話しろ。」

「そのために通わないといけないじゃないか。」

スマスが首を振って次の写真に移る。

「次はこれ。6日で咲いたよ。欠点はあまり日持ちしなかったことだね。」

「こいつは、実の品種もあまり日持ちせん。」

「それを何とかしたいんだろ。それならまだ改良の必要があるね。」

「何日咲いとった。」

スマスが指を折って数える。

「4日かな。」

「4日も咲いたんなら十分だ。」

「実だけなら何日なんだい?」

「2日咲き続けたらいい方だ。」

「そうなのか。それなら2倍だね。でもたしか目標は10日だろ。やっぱりまだ手を加える必要があるじゃないか。」

ガーディがため息をつく。

「道のりはまだ遠いな。」

「そうだね、まあこうして時々付き合うからさ。」

 それから昼食までの間、スマスが今月育てた花の報告と今後の研究課題について話し合い、昼食後2時間くらいガーディの仕事を手伝ってスマスの帰る時間になった。

「じゃあまた来るよ。」

ガーディの敷地の入り口でスマスがガーディを振り返る。

「研究を欠かすなよ。」

「分かってるさ。ガーディも元気で。」

「分かっとる。」

スマスのカバンの中には、さっきガーディからもらった新しい種が20個入っている。

「それじゃあ行くよ。」

スマスはぱーっと舞い上がり元来た道を行く。

ガーディはスマスのフェザードが見えなくなるまで見送っていた。


 やっぱりガーディは優秀な研究者だ。

また研究が進んでいた。

どんどん新しい技術を生み出している。

僕がもらっていた種の種類も初めてもらった時からずいぶん変わった。

それでもやっぱり出荷できない種はあって、それを育てるのは僕の仕事であり、趣味だ。

3年前から飽きることなくずっと続けているこの栽培は、僕の社会への当てつけであり、ささやかな抵抗。

雫がくれたこの有意義な時間は、僕が僕であることを僕自身で決めたことを証明するための時間。

さあ帰ろう。

明日になったらまたありのままの僕を迎え入れてくれるみんなに会える。

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