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スマスとたね(1)

1

 今日は風が強いらしい。

追い風だったから助かったけど、帰りにまだこの風向きだと嫌だなあ。

それにしても驚いた。

片道6時間くらいの長旅だからわざわざ4時起きで家を出たのに、たった2時間で着くとは。

まあ「ガーディ」はとっくに起きてるだろうから締め出される心配はないけど。

空が少しずつ明るくなっている。

せっかくのお休みで天気が良く、種を切らしてしまったならガーディの家に行けと言われているようなものだ。

天気のいい朝は空を飛ぶにはうってつけで、ガーディの家は遠すぎるくらいに遠い。

朝早くに家を出ないといけない必然性まで提供してくれるから、早起きがめんどくさいという気にすらならない。

さて今日はどんな種をもらえるだろうか。

 ガーディがいるのはロテフォニ、MYの南南西にある町で魔道科学技術を応用した農業や工業が盛んな町だ。

いたるところに畑があって、その畑の端々に建物がぽつぽつと建っている。

一般的な農業と違って魔道を農業に使用するため一定の設備と人手が必要になり、人口もそれなりに多い。

ロテフォニと対照的な地域は糸奈の実家があるソルシレースだろう。

あそこは一般的な農業の方法を取っている。

 ガーディの家が見えてきた。

ガーディの所有する敷地にはいろいろな建物があって、ガーディが住んでいる自宅は、4階建ての白い建物だ。

僕はフェザードを少し閉じて着陸態勢に入る。

極力スカイガーデンに着陸した方がいいんだろうけど、この時間なら問題ないだろう。

僕がゆっくり着陸すると同じタイミングで玄関が開いた。

「やあガーディ。」

「約束より4時間ほど早い到着だな。」

「風が良かったんだよ。起きてただろう。」

「当たり前だ、おまえみたいなオーラの持ち主が近づいてきておちおち寝ているほど衰えちゃおらん。」

「さすがいくつになっても現役で最前線だね。」

「担い手が育つまでは引退もできん。それかおまえがさっさと魔道寮をやめてうちに就職するかだな。」

「それは嫌だなあ。朝早いのは無理なんだ。」

「4時起きしたやつが何を言うか。」

「今日は特別だよ。ガーディのところに就職したら毎日強制的に早起きさせられる。」

さっきから扉を開けてずっと立ち話をしているこの男性がガーディ。

もうそろそろ80歳のはずなんだけど、全く衰えることを知らないとても元気なおじいさん。

「ところでガーディ、そろそろ中に入れてもらえないかな?」

「なぜだ。」

「なぜって普通入れてくれると思うんだけど。」

「なぜスマスをわしのプライベート空間に入れにゃならん。」

どこか一本筋の通った考え方は、相変わらずだ。

前来たときもこんなだった。

まあもう慣れてるんだけど。

「分かったよ、後で仕事手伝うから。」

「よろしい。」

ガーディが後ろに下がって僕を入れてくれた。

「お邪魔します。ガーディ朝ご飯もらっていいかい?」

「自分で作るならな。」

「仕方ないか。」

「当たり前だ。材料費も最初から払う気がないなら自分で作れ。」

「はーい。」

この大きな家で一人暮らしをしているガーディの自炊能力はかなり高い。

2階に上がって台所にはいると早速新鮮な野菜がまな板の上に乗っていた。

「ガーディちょうど朝ご飯作ろうとしてたんだ。もしかして僕の分を作ろうとしてくれてたのかな?」

「何を言うか。」

「ならこれは?」

カウンターの奥のリビングで定位置の一人掛けソファーに深く座ってガーディが僕の方を向く。

しばらくの間の後ガーディが鼻で笑った。

「二人分作ればいいのかい?」

「あー。」

「はいはい。」

ようやくガーディの照れ隠しが手に取るように分かるようになってきた。

「スマス。」

「なんだい。」

「お茶。」

「はいはい。」

早速サラダを作り始めようとしたらこれだ。

僕は手を止めてリビングに行きテーブルの上の急須から湯飲みにお茶を注いで持っていく。

「はい。」

「おー。」

ガーディが視線を向ける先にはソファーセットのテーブルがある。

どうやらここに置けということらしい。

「お待たせしました。」

お茶尾置いて台所に戻るとまた話しかけられる。

「スマス。」

「なんだい。」

「雫は元気か?」

僕は野菜を切る手を止めずガーディを見る。

「元気にしてるよ。相変わらず忙しくしてる。」

「もういくつになった?」

「28だね。次の誕生日で29。」

「おまえはいくつになる。」

「今33だよ。」

「ほおー。」

ガーディが腕を組む。

「わしが歳を取るのも無理ないな。あの可愛かった雫がなあ、28かあ。」

「僕のことにはお構いなしなのかい。」

「うるさい、付き合いの年数が違うわい。」

「それはそうだけど。」

「最近会いに来てくれんからなあ。」

「忙しいからねえ。最後に雫が来たのっていつだい?」

「来てくれたのなんて、もう3年前だ。」

「電話は?」

「8月の5日に1回、15分しかしゃべれんかった。」

「15分も話せたなら十分だと思いなよ。まだ1か月経ってないんだしさ。」

「そんなことはおまえに言われんでも分かっとる。」

「寂しいなら、魔道寮に遊びに来たらいいじゃないか。雫も大喜びだと思うよ。」

ガーディが鼻で笑う。

「誰があんなところ帰るか。」

ガーディの魔道寮嫌いは相変わらずらしい。

「はいはい。」

 冷蔵庫にあった材料をうまく使って僕が一般的な朝食を作るとガーディが満足そうに頷いた。

「テーブルまで運んでくれ。」

「手伝う気は全くないんだね。」

「材料費がどこから出とると思っとる。」

「そうでした。」

テーブルを挟んで誰かと食事をするのは一昨日ぶりだ。

「それで、今日は何しに来た。」

「もちろん花の種をもらいに来たんだよ。他にあるわけないだろ。」

「きちんと全部咲かせたのか?」

「もちろんだよ。」

「ならいつものように見せてくれ。」

「朝食が済んだらね。」

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