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今日の終わりに(8月26日)(8)

8

 「もしもーし、ママ。」

廊下を歩きながらメーラがスマホを耳に当てた。

「なんだ「にい」か。」

メーラが片手でカバンの中からカードキーを取り出す。

「えっ、そうだよ今帰り。」

扉が開いて、メーラが中に入る。

「うん、うん。」

電気を付けてメーラがソファーに座った。

「また帰るよ。」

メーラがカバンからペットを取り出す。

「えっ、今月末は無理かな。・・・違うよ、違う、デートじゃないって。」

メーラが笑いながら首を振る。

「29日はグループミーティング、31日は鉱山に魔道石取りに行くの。」

男性の声がスマホから漏れた。

「にい煩い。」

メーラがスマホを耳から離してスピーカーモードにする。

「魔道石買いに行くんじゃなくて、取りに行く!」

「そうだよ。」

「どこへ?」

「えっと時々行くところなんだけど、なんて言ったかな。アルミラさんのいるところ。」

「アルミラ!」

「うん。」

「アルミラ「バレン」か!」

「かな?」

にいが黙った。

「あんな遠いところ、どうやって行くんだ。」

「どうするんだろう。この前行ったときは珍獣に乗って言った気が。」

「へえ。」

にいの声が小さくなっている。

「どうしたの?」

「いやいろいろぶっ飛んでるなと思って。」

「そう。」

メーラがスマホをテーブルに置いて台所に向かった。

「6年でやっぱり大きくなるんだなあ。まだ中1なのに、一人暮らししてるし。」

「何ヨ今更。」

メーラが冷蔵庫からお茶の入ったペットを持って戻ってくる。

「いや悪い。ついな。お土産を楽しみにしてるよ。いい鉱石を持って帰って来てくれ。」

「何言ってんの。」

「えっ。」

「私が使うために取りに行くに決まってるでしょ。」

「せっかくバレン家の鉱山に行くなら、お土産に鉱石の一つや二つ持って帰って来てくれたっていいだろう。うちは宝石屋のわけだし。」

「お土産に持って帰るのと、個人的に使うために持って帰るのとは違うのよ。雫はその辺きちんとしてるから無理。」

にいがため息をつく。

「バレン家の鉱山ってそんなにすごいところなの?時々行ってるけど、そんな話雫から聞いたことないわよ。」

にいの声に熱が籠る。

「すごいどころの話しじゃないぞ。宝石、特に魔道石に携わるやつなら誰だって1回は聞いたことがあるはずだ。バレン家が代々所有・管理しているあそこの鉱山は、取れる魔道石の質がすごく高いんだ。」

「へえ。」

「メーラ優しくて頼れる兄の頼みだ。」

「断る。」

メーラがカバンからインスタント麺と総菜の入ったパックを取り出しながら答える。

「最後まで聞けって。」

「仕方ないわねえ。」

メーラのカバンからおにぎりも出てきた。

「持って帰って来た魔道石を見せてくれ。」

「あのさあ。」

メーラがため息をつく。

「この春から家の手伝い始めたからって宝石屋気取りはやめてよ。腹が立つから。」

「いやいやいや、俺は元々魔道石マニアだ。」

「私が雫のグループに入ってから私が持ってる魔道石は、ほとんどあそこの鉱山で取って帰って来てた物だから、今までだって何回も見てるわよ。」

メーラが手を合わせる。

「いただきます。」

「おっ、メーラこれから晩飯か?」

「そうだからそろそろ終わって言い。っていうか、私が話したかったのはにいじゃなくてママなんだけど。」

「あー悪い悪い。ママメーラから電話。」

「言われなくても聞こえてたわよ。」

電話から聞こえてくる声が、男性から女性の物へ変わる。

「こんばんは。」

「こんばんは、ママ。」

「どうした?」

メーラのママの声は、メーラに反して少し低かった。

「特別用事があったわけじゃないんだけど、ほら、昨日も一昨日も電話できなかったから。」

「そういうことか。ありがとう。」

ママの話し方には感情が付随していない。

「昨日と今日ノーエルに行ってたの。」

「知っている。この前教えてくれていたからな。」

ママの話し方に臆することなく、メーラが弾んだ声で会話を続ける。

「なかなか忙しかったのよ。すごく強い生命体と戦ったの。なんだと思う?」

「レッドネックだろ。」

「なんで知ってるの!テレビでやってた。」

「いいえこの情報は規制されている。古代モンスターが蘇ったということしか世間には公表されていない。」

「相変わらずすごい情報網ね。」

メーラが買ってきたコロッケを口に入れる。

「メーラ食べるか話すかどっちかにしたらいい。別に今晩は忙しくないから、いくらでも話を聴こう。」

メーラが嬉しそうに頷く。

「分かった、じゃあまた後で掛け直すね。」

「待っている。」

電話を切ってメーラが嬉しそうに食事を続けた。

 食事と長めの入浴を済ませ、メーラが母親に電話を掛け直したのは19時半だった。

「お待たせママ。」

今度はビデオ通話にしている。

画面にはメーラの母親が映っていた。

髪の色はメーラと全く同じで、目つきはメーラの2倍きつい。

「構わない。もうお風呂は終わらせたか?」

「うん、気持ちよかったよ。」

「そうか。」

「ねえママ。」

「なんだ。」

「みんな元気?」

「あー、変わりない。」

「パパは?」

「大丈夫だ。安静にしている分には安定している。今月は入院もしていないしな。」

「良かった。」

メーラの頬が緩む。

「メーラの方こそ大丈夫か。」

「うん大丈夫だよ。うちのリーダーはいろいろ言ってくるけど優しいから。」

「そうか、それなら良かった。次はいつ帰って来れる?」

「それさっきお兄ちゃんにも言われた。まだしばらく無理かなあ。9月に入ったらポリス月間だし。何かあったっけ?」

「いや何もない。気にしなくていい。」

メーラが母親の顔を見つめる。

「あっ!そっか9月って。」

「気にしなくていい。家庭行事よりも仕事を優先しなさい。」

「でも。」

「大丈夫。メーラは末っ子だし、皆事情を知っている。もしメーラを悪く言う者がいれば、私が許さない。安心して任務に励みなさい。」

「ありがとう。また連絡するね。」

「あー、楽しみに待っている。」

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」

母親の声は最後まで変わらなかった。

電話を切ってメーラが小さなため息をつく。

「忘れてたわ。雫に相談すれば、休ましてくれるだろうけど、休んだらママに怒られそうね。」

メーラがソファーの隣の引き出しを開け、白い封筒を取り出す。

「うんいいや。ママも仕事に集中しなさいって言ってるし、今回は行かないでおこう。」

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