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今日の終わりに(8月26日)(6)

6

 「ただいまー。」

オフォーンを生命体ドクターに預けて手続きを一通り済ませ、シーナが部屋に帰って来た。

「やっと帰って来たー。」

部屋に入ってカバンを近くに投げてシーナがベットに倒れこむ。

「二日ぶりのベットさん、ただいま。」

シーナがベットの上をごろごろする。

日用品や食材を買いにスーパーに寄ったせいで時刻はもうすぐ20時だ。

「さっさとお風呂に入ってそれから。」

シーナの動きが止まった。

「あっ、来週から9月か。テスト勉強とかレポートの準備しないと。」

シーナがため息をつく。

「それに。」

シーナがしばらく黙って首を振った。

「いいんだ、いいんだ。今は考えなくていいんだ。」

シーナがお風呂のお湯を溜めに浴室に向かい、近くのカートに置かれた箱を開ける。

「今日はどの入浴剤にしようかな。」

シーナの顔にさっきまでの暗い表情はもうなかった。

「あ、買ってきたアイス早く冷凍庫に入れないと。」

シーナにとってお風呂、特にシーナの家のお風呂は竜宮城のような場所。

学校や魔道良での嫌なことも、心身の疲労も、進路への不安もお風呂がすべてを一時的に和らげてくれる。

あるいは忘れさせてくれる。

シーナは快適な入浴タイムを作ることにこれでもかというほど拘るのだ。

最高のアイス、最高の入浴剤、最高の暇つぶしコンテンツ。

吟味に吟味を重ねてその日のお風呂の過ごし方を決める。

小学生の時から一人暮らしをしているシーナにとっては浴室もリビングも同じなのだ。

「よし。」

シーナがプレートに一式揃えた。

浴槽には既に並々のお湯がスタンバイしている。

 シーナが入浴を始めて30分後、オレンジ色のお湯から、さっぱりしたオレンジの香りが浴室に広がる。

湯船の端と端にしっかりとしたプラスチック製のプレートを引っかけて、シーナがスマホを見ていた。

プレートの上にはアイスとスナックとタオルが置かれている。

シーナの左手には防水対策ばっちりのスマホが握られていた。

シーナの顔は真剣そのものだ。

「おまえが犯人だということは分かっている。」

画面の中では刑事ドラマが流れている。

「今ここで名乗り出れば、まだ同情の余地があるかもしれないぞ。」

「あなたせめて、今ここで名乗り出るなら情状酌量の余地はあるかもしれないぞが正解。」

これはどこにでもいる普通の夫婦が次々に事件を解決して行くという王道ストーリー。

「そうか名乗り出ないのか。それなら仕方ないな。」

その時だった。

スマホの画面が変わる。

電話の画面だ。

「もう。」

電話を掛けてきた人の名前を見てシーナがむくれる。

「いいところだったのに。」

シーナが電話を拒否した。

しかし間無しにまた掛かってくる。

「しつこいなあ。」

これを4回繰り返してシーナがしぶしぶ電話を掛けた。

「しーちゃん。」

コール音の1回後とても高い声が聞こえてきた。

「なんですぐに出てくれないの?」

「ごめんばたばたしてた。」

「それにビデオ通話じゃだめなの?」

「うん。」

「あっ、もしかして今お風呂に入ってるわね。だめじゃない、スマホをお風呂に持って入ったら。」

「別にいいでしょ。」

「だめよ、そうやって長湯してたら風邪ひいちゃうわ。」

「何の用事。」

シーナがうんざりした声で尋ねる。

「また話を逸らそうとして。」

「いいから何、早くしてほしいんだけど。」

電話の相手がため息をついた。

「しーちゃん、今度の4者面談の日にちなんだけど、いつだったかしら?」

さっきのため息とは打って変わって女性の声が明るくなった。

「9月の13日だよ。」

「あー、そうだったわね。ありがとう。」

「それだけ、それじゃあまたね。」

シーナが相手の返事も聞かず、電話を切る。

「もうしつこいんだから。」

シーナが刑事ドラマの続きを見始める。

「嫌なこと思い出しちゃったじゃない。」

シーナが湯船の上に浮いていたおもちゃの水鉄砲を手に取る。

「うーん。」

シーナが鏡に映る自分に向かって水鉄砲を構えた。

「くだらない。」

シーナの顔がとても冷たい。

引き金に当てた指を手前に引くと、お湯が勢いよく鏡に当たって弾けた。

浴室に刑事ドラマの音声が響いている。

「さてと。」

シーナがしばらく俯いて顔をぱっと上げる。

いつものシーナの明るい顔だった。

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