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今日の終わりに(8月26日)(3)

3

 等間隔に置かれた街灯や足元のフットライトがプライベートガーデンを照らしている。

(湿度がかなり高いな。)

スマスが舗装された路の上をゆっくりと歩いて行く。

この時間、プライベートガーデンを散歩しようという人はあまりいないようで、今はスマス一人だけだった。

今のスマスはまるで、自然界に舞い降りた王子のようだ。

スマスが一つの花壇の前で止まる。

「やあただいま。」

スマスがゆっくり花壇に植えられた花を眺める。

「まだ眠っているのかい。」

スマスがゆっくり手を伸ばす。

人差し指でそっと触れたのは、白くて小さな蕾。

「昨日帰って来れなかったから心配していたんだよ。もしもう君の短命な命が尽きていたらってね。良かったよ、もしかして待っていてくれたのかな。」

スマスが肩に抱えていたパイプ椅子を花壇の前に建てる。

「今夜中には目覚めそうだね。ここで君が目を覚ますのを待っているよ。僕が君の一生に寄り添うことを許して。」

スマスがリュックからパソコンを出した。

「君をずっと見つめていたいんだけど、さすがに仕事を怠けたらうちのリーダーが怖いから、やらせてもらうよ。」

スマスがパソコンを膝に乗せタイピングを始める。

庭の真ん中で花壇の前に腰を落ち着けてやっているのは、読書ではなく仕事。

何とも不思議な光景だ。

「うちのリーダーは本当に優しいよ。君のことを話したら快くオーケーしてくれたんだ。彼女自身はまだ本当の愛を知らないだろうけど、愛に対して寛容なのはいいことだよね。」

スマスが何度か頷く。

「そうだ、さっきまで行っていたノーエルに着いて少し話そうか。あそこは本当に自然豊かなところでね。」

はたから見ていれば、スマスはパソコンに話しかけている人に見える。

しかし、スマスが話しかけているのはスマスの前にある白い蕾だ。

「可笑しいだろ。まさかあそこでレークがコップをひっくり返すとは思わなかったよ。あそこにMiraがいなくて本当に良かったね。」

 21時半過ぎ、スマスがふっと仕事の手を止めた。

「お目覚めかな。」

スマスが椅子から立ち上がり、花壇の前に行く。

「さあ起きて。」

スマスが花壇の前に片膝をつき、白い蕾の付いた茎にそっと右手を添える。

「いいね、月も君の目覚めを祝福しているようだよ。」

スマスの後ろにある月が白い蕾を照らした時だった。

蕾が少しずつ膨らみ始め、数分で花開いた。

「おはよう。この世界に、僕の感じることのできるこの領域に生まれてくれてありがとう。君の誕生を心から祝福するよ。」

スマスが触れているのは、さっきまでの白い蕾からは想像もできない色鮮やかな花。

花びらがうっすらと光っている。

「綺麗だね、本当に綺麗だ。」

スマスが小さな花を見つめ続ける。

「僕ばかりが君を独り占めしてはいけないね。ほらもっと周りを見てごらん。」

スマスが花の正面からどいた。

「美しいだろ。品種は違うけれど、君の友達さ。」

スマスが花の斜め前に椅子を移動させ、座り直す。

「今夜はここで過ごすよ。君の命が尽きるまで。」

スマスがスマホを取り出して花の写真を数枚撮っていた。

 ちょうど日付が26日から27日へ変わるころ、スマスが立ち上がった。

「会えて本当に嬉しかったよ。どうか安らかに眠って。」

スマスが花壇に深く頭を下げた。

頭を上げて何も言わず歩いて行く。

花壇の上には横たわる茎が一本、茎の先には黒い塊が付いていた。

(本当に美しいのだけれど、短命なのが一番辛いね。)

エントランスからエレベーターに向かい、エレベーターに乗って15階のボタンを押す。

「さあ早く帰って休もう。」

15階は一部屋しかない。

つまりスマスの家しかないのだ。

スマスが扉の近くに取り付けられた機械に手を近づける。

「お帰りなさいませ。」

指紋や脈の認証ではない。

スマスが取り付けているのは、魔道士一人一人が持つスパイラルの特徴から認証を行う機械だ。

アナウンスが流れた後、自動ドアがすーっと開き、玄関の明かりがつく。

「ただいま。」

スマスが玄関に上がると扉がすーっと閉まった。

「さて早く寝ないと明日に障るね。すっかり遅くなってしまった。」

スマスが入ったのは家の中で一番大きな部屋でソファーもテレビもテーブルもベットもすべて揃っていて、その部屋だけで充分生活できるほどの広さがある。

「無事に仕事もすべて終わったし、そろそろ休もう。」

そうこうしていたら1時過ぎになっていた。

スマスは何をするにも基本的に自分の満足の行くペースを貫く。

その結果一つ一つの作業に掛ける時間が長いのだ。

スマスがベットに入り、サイドテーブルに置いているリモコンで部屋の明かりを落とした。

(そうだまた新しい種をもらいに行かないと。)

スマスの寝つきはとてもいい。

こんな考えに思いを巡らせている間にスマスは眠りに落ちていた。

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