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魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道市職員指導室チーフ木漏れ日雫(4)

4

 グループルームを出て水竜と雫がまたエレベーターホールに向かう。

「やっぱりバッチを付けるとぴしっとするね。」

「ありがとう。」

雫の胸の蝶の羽がきらりと輝く。

20時を回った魔道良の廊下は本当に静かだった。

たまにすれ違う職員に会釈をしながら、2人がエレベーターホールに入り、ボタンを押す。

「25階よね?」

「うん。」

雫が腕時計を見る。

「20時20分か。21時ぐらいには終わらせないと。」

「そうしないと雫が帰れなくなるもんね。」

「そうなのよ。」

到着したエレベーターに乗って2人が話を続ける。

「雫明日の予定は?」

「明日は授業。」

「科目は?」

「魔道と地理の関係学。」

「クラスは?」

「A。」

「あー雫がやってたのか。」

「なんのこと。」

水竜がくすくす笑いながら話す。

「自分はAクラスに入ったのに30時間もあってうんざりするって言ってる生徒がいたんだよ。」

「私の学生じゃないかもしれないじゃない。」

「魔道と地理の関係学って言ってたよ。」

「よく覚えてたわね。」

「昨日会ったからね。」

「なんで?」

「何かの書類を出しに来たんだよ。」

「あげはが対応するなんて珍しい。」

「たまたまだよ。なんで30時間も取ってるの?20時間でいいだろ。」

「確実に中身を叩き込むため。」

「なんのために。」

「あら魔道と地理の関係学はいろんな資格の試験科目よ。比較的魔道的知識が少なくて済むから、点数の稼ぎどころなの。」

「それで叩き込むために30時間も教えるの。」

「クラスに指定されている時間数はあくまで最低ラインよ。時間を増やすのは担当教員の判断に委ねられているわ。」

「そうかもしれないけど。」

25階で扉が開き、2人で廊下に出る。

「いろんな生徒がめんどくさがってることは理解してるわよ。」

「ならどうして続けるの?」

「大切だから。」

雫が26グループの入り口の前で止まった。

「続きはまた今度ね。」

あげはが頷いてインターフォンを押す。

「お疲れ様です。」

少し待った後扉が開いた。

出てきたのは一園さんだ。

「お待たせいたしました。」

「いえお疲れ様です。」

水竜が頭を下げそれに合わせて雫も会釈をする。

「一園さん、チーフ統括釵に代わり、副チーフ統括水竜よりご報告申し上げます。C班の勤務改善指導教官に木漏れ日雫が着任いたしましたので、今後C班の勤務改善指導は木漏れ日に一任いたします。」

「よろしくお願いいたします。」

雫が姿勢を正し一園に深く一礼する。

「こちらこそよろしくお願いします。詳細はすべて木漏れ日チーフにお任せします。」

「畏まりました。それでは今後、適宜ご報告をいたします。本日は勤務改善指導に当たり、わたくしよりC班の皆様にご挨拶をさせていただきたく存じます。その後の詳細なスケジュールや指導内容、罰則については改めてご連絡をいたします。」

「わかりました。」

(なんだろう。さっきも思ったけど、一園さんってもっと覇気のある人じゃなかったっけ。)

雫が違和感の正体を考えていることをよそに、一園が扉の方に目をやる。

「C班を中で待たせてあります。」

「わかりました。」

「ではわたくしはこれで。」

タイミングを見逃さず、あげはが口を開く。

「それではチーフ頑張ってください。」

「はい。」

あげはが背中を向けるまで雫は頭を下げた。

(あげはにこんなに深く頭を下げるのは少し嫌だけど、仕方ない。向こうの方が上司なわけだし。)

あげはの足音が遠くなってから雫が顔を上げると、一園と目が合った。

(一園さんを放っておかない方がいいような気がする。もっとエネルギッシュな人なのに、どうしてこんなに。)

「一園さん。」

「はい。」

「これから行う挨拶ですが、同席していただけませんか?」

一園が表情を変える。

(動揺してる。)

「なぜですかな。」

「C班の指導教官にはなりましたが、わたくしとC班の皆さんとの間には何の関係性も構築で着ておりません。初対面の相手に高圧的な態度を取られたとき、C班の皆さんが信頼を寄せる一園さんが近くにいた方が、皆さんにとっていいかと思いました。」

「彼らにとって私は信頼を寄せるような人ではない。」

「えっ。」

雫が目を見開いた。

(あー、少し見えた。)

「お願いします。」

雫がもう一度頭を下げて顔を上げる。

少し表情が付いていた。

「既にご存じかもしれませんが、勤務改善指導の教官をするのは初めてで、わたくしも自信がないのです。昔からお世話になっている一園さんが近くにいてくださった方が、わたくしも安心できるのですが。」

少し恥じらいを含んだ雫の表情に一園の顔が綻んだ。

優しく深い愛情を持ったおじいさんの顔だ。

(戻ってきてる。)

「いいのですかな。」

「はい、わたくしがお願いしているのです。」

「わかりました。」

「ありがとうございます。」

 (さて。)

雫が一瞬考えに集中した。

(教官だし、初対面だし、勤務改善の教官なわけだし、さすがにいつもみたいに優しい顔で初回の挨拶をするわけにはいかないか。でもどうして彼らはそもそもMSHMTを使ったのか、あんなにも雑な仕事をしたのか、彼らの根底にある感情はなんだろうか。これぐらいはこの時間に理解しないとね。)

「それでは入りますよ。」

「はい。」

雫がぱっと目を開け、表情を改める。

いつもの優しい顔ではない。

引き締まっていて付け入る隙が全くないそんな顔だ。

「失礼します。」

雫が一園の後ろに続いて部屋に入るとC班の社員が嫌そうに雫を見た。

雫が1人1人の目を見る。

(そう。)

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