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魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道市職員指導室チーフ木漏れ日雫(3)

3

 「いやあ、よかったよかった。最初から断れなかったんだけど、もし断ってきたらどうしようかと思ったよ。」

水竜の前髪が軽く揺れる。

それを見ながら雫が席に座り直した。

「えっと今日は初日だから挨拶だよね。」

「そうだね、彼らにがつんと言ってやって。」

「私が言えると思う?」

「うん。」

水竜がこくりと頷く。

「あっそ。」

「ところで雫。」

「なに。」

「チーフのバッチは。」

「あっ。」

雫が口に手を当てて目をぱちぱちさせる。

「まさか無くしてないよね。」

雫が何度も首を縦に振る。

(どこにやったっけな。)

「たぶん上手に聞けばすぐ出てくると思うんだけど。」

「雫。」

「電話しましょ。」

雫が慌てて上手に電話を掛ける。

「はい一緒に聞こうね。」

雫が耳に持って行こうとしたスマホをあげはがすっと雫の手から抜いてスピーカーにする。

「ちょっと。」

「はい上手です。」

雫が取り返そうとしている間に上手が電話に出た。

「あー上手。」

「もしもーし。」

「水竜様お疲れ様です。大変ご無沙汰しております。」

「正解よく一言でわかったねえ。」

「恐れ入ります。それよりいかがなさいましたか。」

「上手、私のチーフのバッチすぐ準備できる?」

「はい貴重品ですので、取りに戻ってきていただければ、すぐにお渡しできますよ。」

(よかった。)

「上手さんすごいねえ。どうしているってわかったの?」

「さきほど雫様が一園さんとお話になっていたと伺いましたので、こういうこともあるかと。」

「さすが。じゃあこれから雫が取りに行くから、渡してあげて。」

「畏まりました。」

あげはが電話を切って雫にスマホを返す。

「はい。」

「どうも。」

「じゃああげははこれで帰っていいよね?」

「えっ、何言ってるの。ちゃんと一園さんと合流するところまでついてきてよ。」

「なんでさ。」

「ここまで付き合ってくれたわけだしせめてそこまでは付き合って。」

(いろいろ心配だしね。)

雫がウウィンクをした。

「えー。」

ため息をつくあげはの横で、雫が荷物をまとめて肩に掛ける。

「ねえあげは早く帰りたいんだけど。」

「あら奇遇ね。それは私も同じです。」

雫の後ろにあげはが続きエレベーターホールに向かう。

「一園さんには一言連絡を入れなくていいの?」

「うんこれぐらいの時間になるって予め言ってあるから平気だよ。」

「さすが。」

エレベーターで36階まで降り、雫がグループルームのカードリーダーに社員証を翳す。

「ただいま。」

「お邪魔しまーす。」

「おかえりなさいませ。」

扉の前にちょうど上手がいた。

「水竜様さきほどはお電話をありがとうございました。」

「いえいえ、どういたしまして。」

「上手。」

「はいこちらに。」

上手が近くの棚の上に置いてあった黒いケースを雫に渡す。

「ありがとう。」

雫がケースを開けると、中にはクッションに包まれた小さなバッチが入っていた。

「うん。」

雫が一度頷いてそれを手に取る。

「いつぶりだい?」

「今年度の顔合わせ以来かな。研修するときは付けてなかったし。」

「付けてもらわないと困るなあ。」

「以後気を付けます。」

雫が左胸の辺りにバッチを付けた。

小さなバッチは蝶の形で、羽の先になる部分の色がそれぞれ違う。

このバッチはポリス担当魔道市職員指導室チーフだけが身に着けられるバッチだ。

「今更だけどかっちりスーツじゃなくていい?」

「うん十分かっこいいよ。雫はわざわざ服で見た目を固めなくてもオーラが出てるから。」

「なにそれ。」

「教える立場の人間のオーラだよ。ね、上手さん。」

「コメントは差し控えさせていただきます。」

水竜と上手の会話に少し笑い雫が表情を改めた。

「行ってくるわ。上手はもう帰っていいわよ。遅くなりそうだし。」

「いえ本日はご自宅に帰られるご予定になっておりますし、お待ちしております。」

「自分で帰れるわよ。」

「いいえ、帰られる前にしていただきたい仕事もありますので。」

「なるほど、上手さんの目的は雫を家まで安全に送り届けることじゃなくて、雫がきちんと仕事をやり終えたかを見ることだね。」

「はい。」

「あげは、余計なことをわざわざ上手に言わせなくていいのに。」

上手が微笑む。

「わたくしのことは気にせず、ごゆっくり。」

「わかりました。」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

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