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魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道市職員指導室チーフ木漏れ日雫(2)


  2

 「報告は以上になります。」

「わかりました。お疲れさまでした。9月からはポリス月間なんですね。来月もよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

カウンターの奥に座るMEMCの職員さんに会釈をして私は後ろを振り返った。

(機嫌の悪そうな顔。)

入り口近くのソファーに座る水竜が疲れ切った顔をしている。

報告に30分かかったせいだ。

「お待たせ。」

私が水竜に声をかけながら近づくと水竜がスマートフォンから顔を上げた。

「長いよ。どれだけ待ったと思ってるの。」

「仕方ないわ。緊急事態の報告なんだから。しかもイレギュラー種の古代モンスターの蘇り世。」

「昨日田野村チーフが直接指揮を執ったんだろ。だったら、MEMCでも詳細なデータは取れてるよね。時間の無駄だと思うなあ。こういうところから勤務内容を改善して行くべきじゃないかなあ。」

「それはそうかもしれないけど。そもそも待ってるって言ってくれたのは水竜よ。」

「それもそうか、失礼。」

水竜がスマートフォンをしまい、ソファーから立ち上がる。

「行こうか。」

「はーい。」

水竜とMEMCを出てエレベーターホールに向かう。

「ねえ、階段で上がらない?50階でしょ。」

「嫌だ、5階も階段で上がったら足が棒になる。」

「いやいや5階上がるだけだし、そんなわけないでしょ。」

「雫は体力があるけど、みんながみんなそうだと思わない方がいい。」

「水竜だってそれなりに。」

私が言いかける横で水竜がエレベーターのボタンを押す。

すぐに近くのエレベーターのランプが点灯した。

「行くよ。」

「はいはい。」

水竜の後ろに続いてエレベーターに乗る。

「階段の上り下りがしたいなら、雫が1人の時にして。」

「わかりました。」

エレベーターの中は私と水竜の2人だけだった。

「MEMC来る前にノーエル担当局寄ったの。」

「うん、Miraと一緒に挨拶だけして私はこっちに来たの。」

そういえばMiraから連絡が来ているかもしれない。

私はポケットに入れているスマートフォンを立ち上げた。

思った通り、ロック画面にMiraからのメッセージが表示されている。

5分ほど前に来ていた連絡で、無事報告を終えて帰るらしい。

よかった。

これでまだ魔道良に残っているのは私だけだ。

「早く帰りたいな。」

思わず口から漏れてしまった。

「へえ今から大切な仕事だって言うのにそんなことが言えるなんてさすがだねえ。度胸が違うよ。一応雫より「あげは」の方が上司なんだけど。雫のやる気がないって釵さんに報告しておかないと。」

「あー、もう。」

私は首を横に振る。

「つい不意を突いて言葉が出ただけじゃない。昨日から泊りの任務で帰ってきたらこれでしょ。月曜日から毎日バタバタで帰れてないし。」

「雫。」

つい溜まっていたものが出てしまった。

水竜の声のトーンが変わる。

今は水竜と2人だから、少し気が緩んでしまった。

「ごめんなさい。八つ当たりしちゃったわ。今のは忘れて。」

「それはもったいないな。珍しく雫が見せてくれたネガティブな感情だからね。しっかり覚えて奥ヨ。」

水竜が私を見て優しいというか余裕のある笑顔を浮かべている。

「もう。」

「お疲れ様。」

ちょっと恥ずかしいけど悪くないから、私は小さく頷いた。

「毎日忙しいんだね。」

水竜が優しい声で労いながら頭を撫でてくれた。

「うん。」

水竜とは付き合いが長い。たまにしか会わないけれど、いつもあげはは私をリラックスさせてくれる。

ふーっと一息ついていると水竜が頭を撫でる手を止めた。

私がふっと水竜の顔を見上げた時だった。

「いった。」

私の頭の表面を電気がぞわーっと流れたような感じがした。

「ちょっと。」

「目覚めた?」

「もう。」

「本物の電気じゃないし、そんなに怒らないでよ。」

さっきまでの優しい顔から完全に私をからかう顔に変わっている。

「もういい。」

私は水竜と対角線の位置に歩いて行く。

「怒らないでよ。元気なさそうにしてたから、やってあげたのに。」

「怒ってない。」

ちょうどエレベーターが50階に着いて、私は水竜より先にエレベーターを降りて歩いていく。

「どこの部屋かわかってるの。」

「18の扉から入ればいいんでしょ。」

投げやりに答えると水竜が後ろで頷いたような気がした。

「失礼します。」

私が扉を大きく開けてつかつかと中に入って行く。

思った通り中には誰もいなかった。

「ねえ、待ってくれてたの。」

私は後ろを振り返る。

「そうだね、待ってたよ。雫が帰ってきてMEMCに来るまで。」

「ありがとう。」

ここは素直にお礼を言っておいた方がいいと思った。

「安心して、17時からはずっとゲームしてたから。」

「おい。」

 魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道士職員指導室、ここはポリス業務のある魔道良にならすべてにある部署だ。

この部署には日勤シフトしかなく、一般的な勤務時間と一緒だ。

ポリス担当魔道市職員指導室は、ポリス業務を行う魔道士の育成、指導、技能向上、知識の周知などを専門に行う。

ポリス業務につくことを希望する魔道士への講習会、研修、実践研修の他、今回のような任務の重大なミスに対する指導からこまごまとしたイージーミスへのアドバイス、ポリス業務に当たる魔道士に対して適切に行う技能向上訓練や研究会の企画立案までテリトリーとする内容は多岐にわたる。

とにかく、ポリス業務を行う魔道士に関連する多くのことを任されている部署なのだ。

そのため与えられている権限も多い。

「取りあえずそこに座ったら。パソコンとお茶を持って来る。」

「ついでにお菓子も。」

「ええ。」

「あとお茶はいいわ。」

私はカバンからさっき買ったペットを出す。

「おお、めちゃめちゃ甘いやつじゃん。」

「飲んだことあるの?」

「うん、今の雫には美味しいと思うよ。そうだ、半分あげはにもちょうだい。」

「ええ、まあいいけど。」

「やった。」

水竜が食器棚の方へ歩いて行く。

この部署のオフィスは50階の左半分の部屋20室すべてで、担当する仕事内容によってある程度のスペースを分けて使っている。

また20室と19室は普通の部屋になっていて、20室をチーフ統括、19室を副チーフ統括、つまり水竜が使っている。

そして今私がいる18室の辺りが非常勤チーフのデスクの置かれている場所。

人数は少ないが私に限らず、いろいろな仕事を兼務している社員で、チーフになっている社員もいる。

「はいどうぞ。」

「どうも。」

水竜が前に持ってきたカップ二つに私はペットの紅茶をちょうど半分ずつになるように入れる。

「お菓子は?」

「それはパソコンと一緒に持って来るよ。」

「美味しいのね。」

「はいはい。」

水竜が部屋の扉の方へ向かう。

「行ってきまーす。」

「行ってらっしゃーい。」

扉が閉まり、部屋がしんとする。

「あれ。」

水竜が持ってきたカップをぼーっと見つめていてふっと気が付いた。

「魔法が掛かってたんだ。」

水竜が持ってきた藍色のカップとスプーン、ソーサーから、うっすらと七色の霧が放出されている。

私はカップにゆっくり指を近づける。

「ふーん手の込んだ魔法なこと。」

 「ただいまあ。」

「おかえり。」

水竜がノート型パソコンの入ったカバンを肩に掛け、紙袋を肘に掛けて帰って来た。

「お、気づいたね。」

「ええ。」

「何魔法でしょう。正解したらこのお菓子を雫にあげよう。」

私の正面に椅子を持ってきて水竜が座りながらテーブルに荷物を置く。

「私が間違えると思ってるなら、そうはいかないわよ。」

「もちろんさ、ただの簡単なクイズだよ。」

あげはが微笑んで見せる。

「わかったわ、お答えしましょう。5重カモフラージュの6重魔法でしょ。」

「もっと具体的にどうぞ。」

水竜が興味津々という顔でこちらを見ている。

「オーケー。」

私は自分のカップに触れる。

「まず私のカップに視機能のリラックス促進魔法が掛けられている。次に。」

私はカップに触れている指をソーサーに乗ったスプーンに移動させる。

「このスプーンに聴覚のリラックス促進魔法を掛けている。それで。」

私はスプーンからソーサーに指を滑らせる。

「このソーサーに空気中のナチュラルスパイラル量を調整する魔法を掛けている。それから。」

私は水竜の前に置かれたソーサーに手を伸ばし、カップに触れる。

「あげはのカップに電磁波をスパイラルで認識できるようにする魔法を掛けてる。それで。」

私は水竜のソーサーに乗ったスプーンに触れる。

「このスプーンに長距離からの視覚疎外魔法を掛けていて、最後に。」

私は水竜のソーサーに触れた。

「このソーサーに長距離からの聴覚疎外魔法を掛けている。そして。」

私は自分のカップに手を戻して少し持ち上げて見せた。

「これら六つの魔法は点でバラバラに見えるけど、水竜が掛けたかった魔法がこの中に一つだけあるんでしょ。」

「それは?」

「長距離からの聴覚疎外魔法。でもそれだけ掛けるとばれた時、相手に不信感を与えてしまう。なぜこんな手の込んだ魔法を使っているのかと。だから他の五つの魔法をカモフラージュにした。何がしたいの。」

私が話し終えると水竜が嬉しそうに微笑んだ。

「いいねえ、本当にいいよ。相変わらず素晴らしいね。」

「どうも。」

水竜が頷く。

「どこで誰が何を聞いているかわからないからね。」

「過敏になり過ぎよ。この部屋には私たちしかいないじゃない。それに今からする話しだってそんなに秘密度が高い物じゃないし。」

「ふふ。」

水竜が少し笑って、紙袋からバームクーヘンを出す。

「今の笑いはなに?」

「気にしないでそれよりも、はい約束通りおやつをどうぞ。」

「おー、やったあ。」

無理やり話を変えられたような気はしたが、それよりもあげはの持ってきたバームクーヘンが、私のお気に入りであることに喜んでしまった。

まあ問い詰めても答えてくれないだろうから、今の含み笑いはもう放っておこう。

それよりバームクーヘンだ。

「よく私のお気に入り覚えてたわね。」

「忘れるわけないでしょ。さあ召し上がれ。」

喜ぶ私を見ながら水竜がカップの紅茶を飲む。

「甘いなあ。」

「そんなに甘いの?」

私も紅茶を飲む。

「ほんとだ、めっちゃ甘い。」

 2人でゆっくり紅茶を飲むこと10分ほど、水竜がパソコンを開いた。

「ゆっくりできたかな。」

「十分よ、ありがとう。」

水竜があえて休憩時間をくれていることはお茶をし始めてからわかっていた。

「そろそろ本題に入りましょう。そうしないとC班の子たちの帰る時間が21時を回ってしまうわ。」

「そうだね。」

時刻はそろそろ20時を回ろうとしている。

水竜がパソコンのモニターをこちらに見せる。

「はい、釵さんからのビデオーメッセージ。」

「私に。」

「そうだよ、この時間まで残業する気はなかったみたいだけど雫に伝言を残して帰ったの。」

ちょっと嬉しかった。

釵さんのことはあまり嫌いではない。

「再生するよ。」

「うん。」

水竜が再生マークを押す。

「ごきげんよう雫。」

釵さんが手を振っている。

「今回の任務大変だったわねえ。たいして心配していなかったけれど、あなたたちが無事でよかったわ。さて雫。」

釵さんが表情を改める。

改めると言ってもかなりゆったりした表情だけど。

「魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道市職員指導室チーフ統括釵瑠璃からの命令です。魔道良2205室第26グループC班の勤務改善指導教官になりなさい。これは田野村チーフ、一園グループリーダーと私満場一致の決定事項です。なんの心配もしていませんよ。だって雫なんだもの。期待しているわ。」

ビデオがそこで止まった。

「とのことだよ。」

「全く具体的なことに踏み込まれていなかったと思うけど。」

「まあね。」

「じゃあチーフ統括の代わりに副チーフ統括が教えてください。」

「雫は全部知ってるでしょ。」

「いやいやいや。」

「仕方ないなあ。聞きたいことは。」

「罰則の決定、本当に私でいいの。」

「うん、雫に任せるよ。だって教官なんだから。教官が罰則を決めるのは至って自然なことだと思うけどな。」

水竜が自分の分のバームクーヘンをちぎって口に入れる。

「でも私指導教官はほとんど経験ないわよ。いつも新人研修ばっかりで。」

「そうだねえ、でも雫はチーフなんだし星も九つなんだから、できないわけじゃないよね。誰だって初めては緊張するし、慣れないものだよー。」

「でも。」

私の歯切れの悪さに珍しく水竜がため息をつく。

「何が心配なのさ?」

「何って、ほとんどイメージがないのよ。どんな業種でも最初はサブとかアシスタントとして経験を積んで、ざっくりとしたイメージを掴まないと無理に決まってるじゃない。」

「いや、雫がノーエルでやってることとほとんど一緒だから、初めてじゃないと思うよー。」

私はあげはを睨む。

「ねえ。」

「なに。」

「ちゃんと私の話し聞いて。」

「ひどいなあ、しっかり聞いてるよ。」

あげはがパソコンを操作して、もう一度モニターを見せる。

「これは?」

「勤務改善指導の大まかな流れだよ。」

私はモニターに映し出された表を覚えていく。

「こんなの見せられなくても覚えてるでしょ。これに沿ってやっていけばいいんだよ。こんなこと聞きたかった?」

わかった。

ほとんど教える気がないのだ。

私は深く深呼吸をする。

一度冷静になろう。

「わかったわ。私がやるしかないのね。」

「さっきから再三そう言ってるよ。」

「わかったわ。」

私はゆっくり席を立ち、私を見上げる水竜をきちんと見る。

「魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道士職員指導室チーフ木漏れ日雫、魔道良2205室ポリス業務部ポリス業務向上課ポリス担当魔道市職員指導室チーフ統括釵瑠璃様からのご命令承りました。これより魔道良2205室第26グループC班の勤務改善指導教官に着任いたします。」

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