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外電~魔道士の空の玄関口スカイガーデン〜

魔道良2205室は四つの建物から成り立っている。

北棟、東棟、南棟、西棟である。

どの建物も超高層ビルで、最上階は魔道士が離着陸をする場所、スカイガーデンになっている。

北棟と南棟のスカイガーデンが着陸専用、東棟と西棟のスカイガーデンが離陸専用である。

スカイガーデンのある最上階は、待機スペースと言われる室内の部分と実際に離着陸を行う屋外の部分に分けられる。

厳密に言うと、その屋外の部分がスカイガーデンである。

待機スペースには、エレベーターや非常階段、ソファーやテーブルがあり、そこから外に出ると様々なラインやサークルの書かれたスカイガーデンがある。

「どうぞ離陸してください。」

「お疲れ様です。」

スカイガーデンで暑くても寒くても、朝でも夜でも、晴れていても大雨でも、24時間365日魔道士が離着陸をする限りずっと指揮を執るのがフライトアドバイザーと呼ばれる人たち。

フライトアドバイザーは飛び入りで入ってくる離着陸の依頼を受けたり、タイムテーブルに挙がってくる離着陸の指揮をしたりしながら、スカイガーデンが円滑に機能するように誘導する。

そのタイムテーブルを作っているのは、離陸カウンターと着陸カウンター、それからイレギュラーケースカウンターである。

カウンターが三つと言っても、離陸カウンターと着陸カウンターと呼ばれる場所は実際には存在せず、職員もいない。

これら二つは人工知能で、職員がいるのはイレギュラーケースカウンターのみなのである。

離陸カウンターと着陸カウンターが、オンライン上で行われる申請を受けたり、電話から本人の音声を聞いて申請を受けたりし、スカイガーデンのタイムテーブルを作っていき、もし人工知能が処理できない事態が発生したら、イレギュラーケースカウンターが主導でタイムテーブルを組むのである。

また人工知能に一時的なエラーが発生した際もイレギュラーケースカウンターが仕事をこなす。

これらの部所の機能が上手に噛み合って初めて、スカイガーデンは機能するのである。

 「おはようございます。」

魔道良のスカイガーデンの下のフロアーはすべてスカイガーデン部のオフィスになっていて、フライトアドバイザーの控室やミーティングスペース、イレギュラーカウンターのデスクがある。

イレギュラーケースカウンターの職員は各棟に四人ずつ常駐し、離陸カウンターと着陸カウンターを見守りつつ、定期的にフライトアドバイザーと連絡を取る。

たとえば今出勤してきた男性は南棟でイレギュラーケースカウンターの業務を行う「若葉草」だ。

イレギュラーケースカウンターの職員は五人一グループとなり、24時間を6時間ごとに分けて、交代勤務を行う。

シフトのサイクルは四勤一休である。

研修生がいるときや何かあった時のことを考えてデスクは各棟に25個ずつある。

8月26日金曜日、草は18時24時のシフトの初日だ。

「若葉昨日休めたか。」

「はい、取り合えず寝だめしてきました。」

草は席に着き、パソコンを立ち上げる。

まだ勤務開始時刻まで少し時間があるので、現在のカウンターの様子を見る。

「この時間なのにえらく込み合ってますね。」

「そうなんだよ。やっぱり金曜日だしな。あとポリスが少し活発だ。」

「なるほど。」

草の隣に座るのは、草と同じシフトの先輩。

困ったときはいつも頼りにしている。

「ほらまた新しい着陸申請が入った。」

「えっとー。」

草が担当するのは南棟で基本的には南棟の着陸カウンターを管理する。

着陸カウンターが出した新しい着陸申請が受理され、タイムテーブルに追加される。

「あっ、雫さんですね。」

「ノーエルから帰って来たのか。」

雫はここでも有名人だ。

 18時を回り草が自分の席からカバンを持って移動する。

自分のデスクとは別に、長机に椅子が等間隔に置かれた場所がある。

手前に小さなデスクトップサイズのモニター、その奥にそれよりもっと大きく、手前のモニターよりも多くの情報を羅列した巨大モニターがある。

巨大モニターは四人で見るのだ。

この業務はさすがにブルーライト軽減眼鏡を掛けていないとやっていられない。

休憩も1時間に10分の間隔で取ることができるし、よほど忙しくなければ四人中一人でもちゃんとモニターを見ていればいいので、そこは譲り合いだ。

こんなに神経をすり減らすような仕事だから、マメに休憩を取らないとやっていられない。

(今夜は雨も降らなさそうだし、風も言うほど強くない。飛行機の緊急飛行もなさそうだし、着陸カウンターの調子もいい。今夜は穏やかに過ぎてくれそうだな。)

 「こちら着陸カウンターです。シフト交代しました。」

「了解です。」

イレギュラーケースカウンターの職員が交代したことを把握したのは南棟のスカイガーデンで絶賛指揮棒を振っている女性職員「蒲公英野音」だ。

「えっと次は。」

野音が診ている目線の先には、スマホか空か指揮棒がある。

着陸専用である南棟のスカイガーデンで働く野音は、着陸カウンターが作るタイムテーブルを見ながら、実際に着陸する魔道士たちを誘導する仕事をこなす。

あくまで着陸カウンターは、スカイガーデンのスペースと魔道士側から出された申請情報を照合し、スペース配分として着陸希望者がオーバーしないかを見ているだけで、実際にどのあたりに着陸させるか、15分という持ち時間できちんとスカイガーデンから出て行ってくれるかということには野音が気を配らなければならない。

着陸専用のスカイガーデンはまだ、着陸カウンターが作ったタイムテーブルが比較的忠実に守られるので楽な方で、離陸専用の東棟と西棟のスカイガーデンのフライトアドバイザーはもっとバタバタしている。

飛び込みの離陸申請があるからだ。

突破的な着陸は基本的にない。

必ず帰ってくるという作業があるからだ。

それに、緊急事態と認められない飛び込みの着陸申請は認められていない。

しかし、飛び込みの離陸申請はいくらでもある。

ポリスが緊急事態でいきなり集団離陸をしないといけなくなったり、フリーの魔道士がふらっと離陸をしたりする。

だからこそ、事前に出された離陸申請のタイムテーブルを進めつつ、飛び込みや緊急の離陸申請にも対応しなければならない。

だから、着陸用スカイガーデンのフライトアドバイザーよりも離陸専用のスカイガーデンで働くフライトアドバイザーの方が圧倒的に数が多い。

 (いいなあお姉ちゃんは着陸用のスカイガーデン勤務で。)

東棟のスカイガーデンで辺りを見ながら歩いているのは「蒲公英肖野」、蒲公英野音の1歳違いの妹だ。

肖野はタイムテーブルの離陸申請を出している魔道士たちに対応している。

離陸の場合も一人以上、五人以上、十人以上、二十人以上で使うスペースが変わってくる。

それに、15分という枠の中で準備もしてもらわないといけない。

もし早く枠が空き、次の枠のグループや個人が大気スペースにいてくれたら、前倒しで準備を始めさせるほどだ。

「準備できました。」

「はい。」

十人以上の集団離陸の準備ができた魔道士のグループに声をかけられて肖野が近くに駆けていく。

「本日はノンフェリーゼの方へ向かうということでお間違いありませんか。」

「はい。」

「畏まりました。」

肖野がスマホを操作する。

このまま上昇して、飛行機とぶつからないか、他の離陸魔道士や着陸をするために南や北のスカイガーデンに向かっている魔道士とブッキングしないかを確認し、離陸の合図を出す。

離陸カウンターは、こうした細かなタイミングの微調整まではできないのだ。

そのため、フライトアドバイザーはその時々の瞬時の状況把握が求められやすい。

(今なら行けそう。)

肖野がスマホから魔道士たちに視線を戻す。

「それではカウントダウンを始めます。5、4、3、2、1。」

魔道士たちがタイミングよく離陸する。

「お気をつけて行ってらっしゃいませー。」

肖野がすぐに違う魔道士の方へ歩いて行く。

(さて次次。)

 野音の勤務する南棟のスカイガーデンでもバタバタとした動きがあった。

「緊急のスペースを5分だけ使わせなさい。」

「はい。」

はきはきとした声で指示を出すのは、この時間南棟のスカイガーデンのフライトアドバイザー全員を指揮する「梔子小路」である。

魔道良2205室内でも大ベテランのフライトアドバイザーだ。

小道は今非常に怒っている。

なぜかと言うと、着陸してきた魔道士たちの腕が悪く着陸ポイントから大きく逸れるような着陸が続いたせいで、数的には問題のない着陸件数なのに余分なスペースが取られてしまい、着陸できない魔道士たちが出てきたからだ。

「あと5分で0時から1児のアウトサイドが空くからそこに次の団体を入れなさい。個人は今から5分の間緊急エリアを一時的に開放するからそこに着陸させて。」

「はい。」

離陸の時は、ポイントをしっかり準備しやすいが、着陸はフライトアドバイザーの腕よりも着陸をする魔道士の腕の良さの方が求められる。

そのため、あまりに着陸が下手だと露骨に嫌がられたりする。

(着陸が下手なら運転するな。)

小道がスマホを見る。

「あら次は団体か。」

小道が見上げる先には雫たちのジュータンが映っている。

(雫ちゃんは着陸上手だからなあ。)

「野音、雫ちゃんところの誘導してあげな。」

「はい。」

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