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そして、僕/私になる。  作者: なつの
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二話 故に少女あり。

見ていただきありがとうございます。亀ペースですが気ままにお付き合いください。

ここはどこだろう。

首をちくちくと刺す違和感に頭をあげる。

白い天井、鈍色のレールとそこから垂れ下がる白いカーテン。やや高いノイズに似たものを感じ、耳を澄ます。ポッポッと電子音が聞こえ、同時に自身の腕から半透明の管が伸びていることに気づいた。

 

あ、点滴だ。いや、……点滴?

 

単一な音だけが静かに響く空間。清潔感漂う何処か特徴的なこの嫌なにおいを僕は知っていた。加えて今更だが、僕はベッドの上に寝ていた。

それらが、ここは何処だろうという僕の疑問に答えを出した。

そう、病院だ。

最も、肝心のどうして?は不明だが…


「……よい、…しょっ!」


鉛の体を持ち上げる。比喩などではなく本当に重い。

力みに力んでようやく末端が動く程だ。そして、やっとのことで体を持ち上げたところで点滴が終了の音を鳴らした。

目をやると、左腕中ほどに繋がった管がほんのり赤みを帯び始めていた。


コンコン


「わっ!」

「失礼するよ、こんにちは…て、何でくの字型にベッドからはみだしているのかな?」


カーテン片手に白衣の男性が問う。


あなたのせいだ、と思った。

いきなり入ってきてびっくりさせて。ぼそっと、いもむし?て言ったのも聞き逃してないぞ。

そう心の中で抗議する。

そんな僕の表情を見て男性はふっ、と顔を弛緩させた。


「ああ、ごめんごめん。驚かせちゃったのか」


立てる、と差し伸べられた手に甘える。

む。ひょろそうに見えて意外とがっしりしている。あれているわけではないが一回り大きく包み込むその手は成人男性らしい力強さを感じさせる。

男性は第一印象は優男、といった感じだ。少し赤色の混じったような赤色の、きれいに整えられた髪の下に柔和な笑顔をうかべている。白衣を着ているし医者なのだろうが着られている感が否めない。

しかし、それは頼りないとは結び付かずさっきの手の力強さもあってか、何と言ったらいいか、大人といった感じだった。

我ながら矛盾しているようだけど。


見た目はひょろいけど。


二度、毒づいた。


そして男性は僕の毒づきなど意に介さず、椅子を引っ張り対面に座る。

そのまま流れるようにタブレットを取り出すと話を続ける。


「じゃあ、ちょっとお話しようか」


無言を肯定と受け取ってか、男性は手をグーパーとしてそのまま組むと明るく話した。


「まずは自己紹介かな。僕は松木一久。ここで医師事務作業補助者を務めている。ま、殆ど雑用に近いものだけどね」


はぁ、はい。


「君は?」


「僕は▲▲▲……------


途端、思考が途切れる。晴天の霹靂。

少しして異常に気が付く。


(名前、僕は今なんて言った?ぼくの、名前…)

思い出せない。頭に霧がかかったようで、すぐ先程まであったものが見えなくなるような、答えのない答えを探すような感覚に襲われる。


(名前、あれ?なんだっけ。さっきはなんて言おうとして。そもそも僕は何で、あれ。あれ?!変、なにがどうして。え。え?え!!?)


本当に唐突に、いきなり堰を切ったように混乱が流れ出した。


「っ……はぁ…!はぁ……はぁ……」

「ストップ過呼吸を起こしかけてる!落ち着いて!僕が見える?見えてる?見えて、ないね。大丈夫ここに僕はいる。ここにいるよ、よし声は聞こえてそうだね。そのまま、大丈夫。僕が言うようにして」

「……っ……はぁ…」


大丈夫、そう言われて反射的に頷く。


「よしいいかい、まず息を2秒止めて。いくよ、はい。いち、にー。いいよ上手、じゃあ次は息を吐いて、はいせーの。ほら頑張って、吐いて吐いてー」

「はー……っ、はー」

「よし、じゃあ3秒息吸ってーー。いち、にーさーん。はい今度は6秒吐いてー。いち、にーさーんしー……」


どれだけ経っただろうか。数分のような、永久のような、感覚的には途方もない時間を体験したようだった。

もっと恐ろしかったのは、あの地獄のような感覚がどうにも初めてでないように思えて仕方ないことだった。

既視感、とでも言ったらいいのだろうか。


「もう、大丈夫かな?」

「…はぁ、はい」


しばらくして、ようやく落ち着く。

目の前の一久さんの肩からも力が抜け、ふーと息をついた。


「…わ!」

「ああごめん!いきなり近づかれて嫌だったよね」


思わず息をのんだ。それは、一久さんの顔がすぐ近くまで来ていたからではなく、


(いや、少しはびっくりしたけど)


それよりも、だ。近づいた一久さんの顔、瞳に映るかげ。


(僕……ぼくは。いや、ぼくじゃなくて)


首を刺す違和感の正体、肩まで伸びた髪の毛。

そして、どこかあどけなさを残した双眸の少女。

名前は、……思い出せない。だが、目の前の少女--自分をどこかひどく拒絶していた。

されどその理由は全く解せず頭の中は‘‘分からない’’で埋め尽くされていた。


(わた、し。ぼくじゃなくて…ううん。ぼくはわたし……私が、ぼく)


「ぼ……わ、私は……」


少女は気づかない。少女の口から小さく漏れ出たその言葉に一人、喜色とも悲観とも言い難い表情をしたものがいたことを。

少女は、自分を知覚した。


まだまだ不透明な部分が多く読みにくいかもしれませんがゆっくりしっかりと描いていく所存です。では次のお話でもご縁のあらんことを。

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