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そして、僕/私になる。  作者: なつの
13/19

十二話 チョーの筋書き。

待っていただいた方には大変お待たせしました。

「潰された、だと?」

「なっ!?」


思わず上ずった声の松木、声が漏れ出たマヤリカ。

それ以外の面々も息をのむ。

チョーは上々の反応だと僅かに頷くと続ける。


「具体的な被害を上げますと、まだ臨時の報告の段階ですから正確な数字ではありませんが…まず建物の損壊。外からの陽動射撃による破損と、マスターキーによる扉、バリケードの破壊ですね。おお、つい最近開発された高分子素材のバリケードの方の被害は幾分か少ないようで。図らずも運用とデータが取れたのは不幸中の幸いですかねぇ」


マスターキー。高威力の火器でセキュリティーロック諸共破壊して扉を開閉することからついた名だ。この存在自体はかなり昔からあって、年々たちが悪くなっている。

立ちふさがるSP諸共扉に大穴開ける、『即席ドア』なんてネーミングに反して凶悪な代物だ。

それがせめて人に向けていられないことを松木は願った。


「続けましょう。ええと、卸売り予定の薬品ですがこちらが痛いですな。今回から卸す予定の新薬を含め在庫の7割が持っていかれてますな」

「7割…全部持っていかれなかったことから鑑みると奇襲、ぺスターが一挙に来たというわけではないようですね」

「ですね、スイさん。しかし残り3割で今月の運営を賄うのは絶望的でしょう。追加の納入は可能でしょうか?」

「幸いデータはこちらにあるから製造自体は出来なくもありませんね。しかし追加の材料費、製造所の稼働。やることは尽きませんわ」

「それは向こうに持ってもらいましょう。この時世、何も特別なことでもない。提携として契約を交わしている以上絞らせてもらいましょう」


淡々と進む話の中、マティックが松木を目で制し異を唱える。


「待ってください、それだと向こうが立ち行かなくなってしまう。そうなると我々は同志を失くしてしまう」

「マティック君。先ほども言ったでしょう。こんな日常参事のことに一々手を伸ばしていては大事をなすことは出来ませんよ。大局を見ていただきたい」

「大局をみていないのはあなたの方では?切って捨てるのはとても簡単なことだ。ここで互いに支えることでより強固な関係を築け、成長を図れるというものでは?」

「数字に基づかない感情論とはマティック君らしくもない。やらかしたのはあっちで、此方は取り決めに従い権利を実行する。いたって当然のことだと思いますけどねぇ?」

「スイさんはどうお考えですか?」

「私は製薬しか能がありません。口を出すつもりはありません」

「では、相手方の人員で採用できるものは人事部で掬い上げるというのでどうでしょう?全員は不可能ですが折衷案としては上々だと思うのですがぁ」

「チョーさん、そんな簡単に言われては困ります。されど、うむむ……。人を思えばこの上ない提案ですな。可能な限り調整致しましょう」

「感謝します」


譲歩されてしまった。

先に譲られてしまった以上、確固たるものなしに交渉は望めない。

その上、はじめのチョーの搾取するものという立場から庇護するものと言い換えられた以上下手な反駁は民意の否定にもとられかねない。

マティックはここいらが打ち止めか、と思いつつより良い解決策を思案した。


「あとは我々の身の振り方ですかなぁ。先の襲撃もあり改めて予算案を作成する必要があるのですが……」


一同の視線がコレッタに集まると、コレッタはやれやれといった面持ちで立ち上がる。


「しっかりとした経理・請求書を作成してもらえるのなら検討させていただきますよ」


ひらひらと手を揺らす。

なかなかジャックポットを迎えないコレッタの、財布のひもが緩む(最も彼一人の資金では毛頭ないのだが)。

大きな関門の一つを抜けたわけだが、


「待ってくれ。現場も見ずに結論を出すのには早計じゃないか。それにチョーさん、議会の進行はマヤリカさんで議決は松木代表代理の認可の下、決をとるはずだ」


さも当然と進むチョーの流れにマティックが異を唱える。

苦し紛れではあったが、線引きすべき所は譲れないと目を見開く。


「ええ、勿論。理解しております。しかし1から10まで全てを松木さんに委ねるというのは負担が大きいというもの。こちらから満願成就までの指針を示して其の上で判断を仰ぐ、というのが修正もききますし有効かな、と思った次第ですよ。へへ……」


とってつけたようにご指摘は感謝いたします、と付け足す。

マティックは心の中で狸が、と悪態をついた。


「チョーさん、まだ肝心なことを聞いていない。今回の襲撃で死傷者はどのくらいなのか。進行してきたぺスターたちの行方はどうなっているのか、だ」

「そうですね。人的資源の被害は、現状死者4名、重症が23名、軽症者が……まだ正確に把握できていないようですな。まあ、重症者含め数が増えても損失は1割未満。補填が効く範疇だったのは不幸中の幸いというやつですな」

「ぺスターの残党は……」

「ライフラインの外、向こうも被害の把握、復旧に手いっぱいで満足な捜索が出来なかったようです。」

「てことは、俺たちのところに攻めてきたのも陽動か…」


くそ、とマティックは歯を食いしばる。

多くの面々が焦りをうかべていないのは老練のみではなく被害が直接自分体でないためだろう。

事後処理、という二次被害は当然起こるのだが普段の業務の延長、提携組織とはいえ親しい他人の傷で済んだことに安堵しているように見えるのは斜に構えすぎだろうか。

いや、よく見ると福沢はやや表情が固まっているように見受けられた。


「それよりも、ですがぁ」


再びチョーが一石を投じる。


「今回のぺスターの動きですが、マティックさんは如何お考えですか?」

「……はぁ。どうやらチョーさんも同じことを考えているようですね。お答えします。一言でいうと手筈が整いすぎていますね。本部であるこちらの襲撃はお粗末。しかし、解放までは早く、その間に提携先は強襲をうけ的確に新薬含む薬品を牛耳って逃げおおせた。まるでーー」

「――お膳立てされていたかのようですねぇ」


ここまで出揃っていたら、考えられることは多くなかった。

座す面々が同じ考えに至り口を結ぶ。

松木は苦虫を嚙み潰したような面持ちで口を開く。


「ユダ、内通者が潜んでいるか……」


チョーがここまで予定通りと言わんばかりにコッと口を開き舌を鳴らした。


可能な限り書き溜めあげていく予定です。

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