一話 没す。
初投稿と相成ります。見切り発車で完全趣味なないようではありますがお付き合いいただけると幸いです。
バン!!
耳を裂くような大きな音に、賑わっていた場の空気は一瞬で冷めた。静止した人々とその表情。動いているのは、黒い筒状の金属塊から立ち込める白い煙とそれを持つ男の恍惚とした面だけだった。
遅れてばたりと音がたち、一人、床に伏す。新装の、まだ埃一つ積もっていない真っ白な床に赤色がさしてゆく。
不謹慎極まりないが、うっすらと残る煙という茎の先に突如赤い花が咲いたようだったと。後にあるものは語った。
"人が撃たれた“
その事実を知覚したのと同時に、静まっていた空気は再び賑わいだす。しかしそれは、先程とは異なり狂騒に満ちていた。
「××××××××××!!」
男が唾液を飛散させながら賑わいを超える大きさで叫ぶ。
まだ熱い銃身を振り、近くを見ているようでどこか遠くを見つめるその様子は、獰猛な四足獣を彷彿とさせた。
最も、そんな猛々しさとは逆に白い大地に根付く足は小刻みに且つ弱弱しく震えていた。この場合の猛々しさとは、勇敢か居直りか。
恐らくは後者だろう。
一声吠えると周りは委縮する。
腕を一振りすると、囲む輪がひとつ広がる。
その一つ一つに口元を歪ませるその様子は酷く滑稽で、道化であった。
それでも男が生殺与奪権を握っているのに変わりはなかった。
男のさじ加減一つで、次の花が咲き------そして散るかが決まる。
そのことを男も、その場の人々も感じていたのだろう。
場には、張り詰めた空気と息の詰まりからくるような変にあつい空気の二つが入り混じっていた。
(寒い……)
そして、そんな男たちとは裏腹に、▲▲▲の体は何処までも冷え切っていた。
先ほどまでは熱々の風呂にでも入っているかのようだったのに今は、身体的な意味で冷え切っていた。
(体中痛くて、……寒い。うごか、ない)
伏した体には一切の力が入らず小指すら自由に動かすことはできない。また、意識と視界は時々刻々と遠く、暗くなっていく。
不思議な話だが自分が立っているのか座っているのかも分からなくなってゆく。にもかかわらず、痛みや温度といった感覚は幻肢痛の如く存在していた。
(息が……)
次第に呼吸が浅くなる。
呼吸の回数が減っている。いや、減っていくような感覚があるだけで実際は大なり小なり呼吸をしているのかもしれない。しかし、呼吸を知覚できないということ自体がそもそもイレギュラーであった。
「……がっ……!!」
突如、激しい慟哭が▲▲▲を襲った。心臓が通常の10倍は強く拍動したのではないか、そう感じるほどのそれは、もはや激痛だった。胸は張り裂けんばかり、血は全身を駆け巡る。手、足、末端と、自分の中で熱いヘビが暴れまわっているかのようだった。
そして、
(……あ、熱……熱い!)
今度は焼けるような痛みが全身を襲った。いや、ようなというよりは、焼けているという感覚だった。
痛みの中心部を火種として、全身燃え上がる。皮膚、骨に関わらず、あらゆる箇所が融解していく。
聴覚はもはや機能していなかった。
視覚もまた光を捉えていなかった。
夜よりも暗く深い闇があり、その中にいながら俯瞰している。そんな矛盾を孕んでいた。
深淵の中、▲▲▲は自分が擦り切れていくのを感じた。
////しますか? はい/いいえ
消えゆく意識の中、そいつは問いかけてきた。
其れが声なのか文字なのか、或いは別の伝達手段なのかは分からなかった。ただ、違和感なくストンと自分の中に落ち込んできていた。
▲▲▲に抗う余力はなく、またそうする理由もなかった。
否、抗うことがこの無限に続くような苦しみを増長させることに繋がると感じていて、抗わない理由のみがそこにはあった。
“はい”を選んだかどうかは覚えていない。ただ▲▲▲の中の残滓が消え果て、同時に▲▲▲も消えた。
その日の夜、以下のことが報じられた。
『××市の××で、男が発砲。1名が重傷を負い、搬送先の病院で------死亡------』
少ないながら区切りの都合ここで切らせていただきました。では次のお話で。