第4天 仲間
執筆途中です。
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いつもより雲が多い平日の午後、公園の東屋の下にあるテーブルを人間の少年たちが囲んでいた。二人は真剣な表情でテーブルを睨み、周りの幾人かはテーブルに腰掛けたり真剣な片方を覗き込んで笑みを浮かべてたりした。
フーはその隙間を縫い、背を伸ばしてテーブルを覗き込む。そこには長方形の小さな紙が規則的に並べられ、その紙には様々な絵と小さな文字が書かれていた。カードゲームだ。
少年は右手側に積まれたカードの山から一枚引き、それを見てにんまりと笑った。
「フッ、悪いな。この勝負はもらったぜ! ゾルディア・ドラゴン召喚!」
少年がテーブルにカードを叩きつけ、周りから歓声が沸く。フーは何もわからないが、周りに釣られて歓声を上げた。得意げな顔の向かいにいる少年は顔を歪めて文句を吐いた。
「ずっりーよ、そんなレアカード持ってんなんて! 俺に勝ち目なんて……あ」
愚痴りながらも山札からカードを引いた少年は、それを見て手を止めた。騒いでいた周りも静まり、少年の手札を覗こうとする。少年は引いたカードを静かにテーブルに置いて言った。
「嘆きの天使。自身のカード一枚を生餌にして、フィールド上のカード一枚を捨てることができる」
少年は自身のカードと先程テーブルに叩きつけられたきらびやかなカードを乱雑としたカードの山に捨てた。周りのため息をかき消すように向かいに少年が悲鳴を上げる。
「俺の星七ドラゴンー!」
どういう展開が起きているのか理解できていないフーは、キョトンとしたままテーブルを覗き続けていた。
人間の少年たちが騒ぐ中、東屋の外は閑散としていた。砂場には小さな子どもが二人だけ、ブランコは風に揺れるだけで誰も座っていない。ジャングルジムには呑気に身体を預ける化身たちの姿しかなかった。
それは数十分前に小さな争いがあったからだ。
東屋の下には少年たちよりも前に少女たちがいた。テーブルの上にはいくつものシロツメクサが置かれ、少女たちはそれらを編んでいる。そこに少年たちがやって来た。
「なんでお前らがここ使ってんだよ」
騒がしく現れた少年たちに一瞥だけし、少女たちはそっぽを向いた。
「誰が使おうと勝手じゃない。ここはあんたたちだけの場所じゃないんだから」
一人は周りに同意を求め、皆で声を揃えて首を傾げた。小鳥ように高い声に少年は苛立つ。
「草なんかいじりたいなら、草むしりでもしてろ。ブース!」
「はあ?」
少女は立ち上がり、少年と睨み合った。ケンカの始まりだ。双方言い合うも少女がまくし立て、少年は後退る。いつしか何も言い返せなくなった少年は「バカ」や「ブス」しか言えなくなっていた。
二人が言い合っていると、もう一人の少女が目を吊り上げている少女の袖を引っ張った。
「もう他のところに行こ?」
その言葉に促されて、舌を出しながら少女たちは去っていった。
フーがやって来たのは、ちょうど少女たちが公園を出ていく時だった。頬を膨らましている少女を横目に公園へ入っていき、東屋を覗くと少年たちがカードを取り出しているところだった。フーは何も気にしていなかったが、状況を理解したケンは苦笑した。
ケンは東屋には近づかず、ジャングルジムにたむろする化身たちと共にいた。そのことはフーも認識しており、カードゲームを見飽きた頃にそちらへ行こうと思っていた。
第一ゲームが終わり、少年たちがカードを再びシャッフルし始めた時、フーは丸めていた体を伸ばし、ケンたちの方へ行こうかと思案した。
その時だった。どこからか視線を感じる。振り向くが、どこにも人影が見当たらない。ジャングルジムの方へと視線を向けるが、誰一人こちらを見ていない。フーはぐるりと公園を見渡す。どこからの、誰の視線なのか。数少ない遊具に、点々と植えられた木々、一つ一つに視線を移していった。
すると、ある木の後ろに小さな人影が見えた。フーはその人影にそーっと近づいていき、木の裏を覗き込んだ。
「そこで何してるの?」
化身たちと談笑していたケンだったが、周りが急に騒がしくなり、東屋で何か起こったと思い視線を向けた。しかしそこは変わらず静かで、その代わりフーの姿が忽然と消えていた。どこに行ったかと辺りを見渡すと、騒ぎの元凶はフーだった。
フーは走り回り、目の前の少年を追いかけ回している。追いかけられている少年は、泣きべそをかきながら逃げ回っていた。どういう状況なのか理解できなかったが、ケンは二人の間に割って入った。
「フー、友達を泣かすなんて、悪い子がすることだぞ」
首根っこを掴まれたフーは、宙に浮きながら頬を膨らませた。
「ちがうよ! あたしはこの子と友達になろうとしてただけだもん」
その言葉にケンは視線を少年の方へ移した。木の影に隠れる少年は、フーと同じくらいの背丈で、目元を長めの前髪で隠している。ケンの視線に気づいた少年はびくりと体を震わせた。それを見たケンは思い出したように、少年に訊ねた。
「もしかして……君がレイ?」
その言葉に少年は再び体を震わせる。そしてなぜ知っているのかと問うように、口をパクパクさせた。
立ち尽くすケンの隙をついて、フーはケンの手から逃れた。走り出したフーを再び捕まえようとするが、その手は既のところで空を切る。走り出したフーを見た少年は再び逃げ出そうとしたが、その足を止めた。いや、止めさせられた。
少年の目の前には人がおり、そこに飛び込む形をなった。ゆっくりと見上げると、そこにはミナがいた。
「あ、ミナちゃん!」
フーの嬉しげな声と反して少年の顔は青くなるが、ミナは構わず少年の肩を持って無理矢理振り向かせた。フーが近くまで来ると、ミナはにこりと笑った。
「フーちゃん、こんにちは」
少年の頭上からにこやかな声が聞こえてくるが、これは外向きのトーンだと彼だけ知っていた。それに鳥肌が立つが、少年はそれ以上に肩にめり込む彼女の手に恐怖を覚えていた。強張る少年の顔を覗き込むフーにミナが言った。
「この子が前に話していたフーちゃんと同い年の子よ。ほら、自己紹介」
「……レイ、です」
ぼそりと呟き、レイと言った少年はミナに促されるままにぺこりと頭を下げる。レイが顔を上げると、フーは瞳を輝かせていた。
「あなたがレー君だったんだ!」
その元気な声にレイは一歩たじろぎ、また一方でフーの後を追ってきたケンは大きくため息を吐いた。
「お前、誰だかわからずに追いかけ回してたのかよ……」
「だって、知らない子とは仲良くしたいじゃん」
引き続き、第5天「大人」をご覧ください。