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聖少女ミリエルと中の魔王  作者: けろよん


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ニーニャの言葉

 待ち合わせをしていたメンバーや約束をしていないのに来た暇な人達も出揃って、いよいよモンスターの出る洞窟の中へと踏み込む時がやってきた。

 アルトのパーティーの人達は今は冒険から帰ってきて王都の町で休暇中らしくて、本当に暇をしているようだった。そう好奇心からこの場所に来たテナーに聞いた。

 集まった一同を見渡して、アルトは冒険に出る前に最後に確認するように訊ねてきた。


「じゃあ、行こうか。準備は出来ているかい? ミリエルちゃん」

「はい」

「そちらの彼女も」

「は……はい、もちろんですわ」


 ミリエルに続いて話しかけられて、リンダは頬を紅潮させて答えた。

 ソプラが不機嫌そうにボソッと呟く。


「これだから勇者という奴は。あのような子供にまで良い顔をしよってからに」

「彼は誰にでも優しいだけよ。アルト君にその気はないみたいよ」

「なおさら許せぬ! 好かれておいて聖人気取りとは!」

「…………」


 ソプラとテナーのヒソヒソ話を背後に聞き流し、ミリエルは洞窟の入口へ目を向ける。見た感じは山のふもとの横に普通に穴が開いているだけで、その洞窟が浅いのか深いのか特別な物で出来ているのかはよく分からない。危険なモンスターの獰猛な声なんかも聞こえない。

 少女の様子を伺うような緊張の眼差しを見て、アルトは優しい兄のように話しかけてきた。


「ミリエルちゃんは洞窟に入るのは初めてかい?」

「はい。ああいえ、入口までならあるんですけど。他の洞窟の」


 父と一緒にこことは別の場所にある洞窟の入口までは行ったことがあった。だが、危険だからと奥までは行かせてもらえなかった。

 あの時は危険への緊張や不安よりも行きたい欲望や好奇心と戦って、ミリエルはそわそわしながら父の帰りを待ったものだった。

 結局はミリエルは経験の豊富な父の言う事に従った。逆らって怒られてもう連れて行かないと言われても困ってしまうし。

 今は行ってもいいと許可されていた。アルトは優しく笑って言った。


「大丈夫だよ。ここにそんなに強いモンスターはいないし、頼りになる仲間もついてきてるしね」

「はい」

『しっかりしろよ。アルトに弱そうだって舐められてるだろ』

「もう分かってるって。ああ、分かってます」


 ミリエルが中の人に言ったことを慌てて周りに向けて言い直すと周囲に温かい笑いが広がった。テナーが進んで言う。


「大丈夫よ。お姉さんが回復魔法を使えるから。頼りにして」

「はい、頼りにしてます」

「わしの攻撃魔法も頼りにしていいぞ!」

「はい、頼りに……」

「もう、ソプラさんはあんまり派手なのを撃たないでよ」

「アハハ、洞窟は崩さないようにお願いします」


 前にやらかしたことがあるようだ。テナーとアルトからやんわりと注意されて、お爺さんはプイッとむくれてしまった。




 いよいよ洞窟に踏み込む。その前にアルトは再度確認するように訊ねてきた。

 念には念を押すと言うよりは、初心者への気配りをしているようだった。

 一応父とはそこそこ狩りに出かけているのでそこまで初心者だと思われても困るのだが、ここは素直に経験者の言う事を聞いておいた。

 チュートリアルを受ける気分で耳を澄ませる。


「ミリエルちゃん、今日の依頼の内容を覚えているかい?」

「はい、コボルトを退治するんですよね」


 コボルトは犬の頭をした獣人のモンスターだ。魔王を倒した勇者の娘で狩りに興味のあるミリエルはこれぐらいのことは知っていた。

 そのコボルトがこの洞窟に住み着いたから退治してくれと依頼を受けていた。

 あまり強くないモンスターだと聞いているが、ミリエルにとっては戦ったことが無いモンスターなので少し緊張してしまった。

 立ち止まっていると、今まで話しかけてこなかった戦士のヴァスがアルトに近づいて話しかけてきた。


「コボルトとは随分と弱い獲物じゃないか。そんな奴を倒して修行になるのか?」

「だから君は誘ってないんだけど……」


 アルトは困ったように笑ってから表情を引き締めて、自分のパーティーのメンバーに向かって言った。


「この戦いではミリエルちゃんの力を見たいと思う。だからみんなには手を出さずに見守っていてくれると嬉しい」

「分かったわ。ミリエルちゃんはソフィー様の娘だものね。バッチリとこの目で見ておくわ」

「勇者クレイブの娘か……とは言えアルトが気にするほどの者なのか?」

「いつでも攻撃魔法の準備をしておくぞ。かっこいい物が見たければいつでも言うがよい」

「よろしくお願いします」


 大人達から注目されてミリエルは乾いた笑いを浮かべてしまう。大人達に囲まれているこの状況。この空気はミリエルにとっては苦手な物だった。

 困っていると、リンダが袖を引いて囁きかけてきた。


「アルト様に良いところを見せましょうね、ミリエルさん」

「うん」


 少し気分が和らいだ。ここまで迷惑を掛けられ続けていても、同い年で同じ学校に通っている同じ境遇の少女がいることは心強かった。

 続いて反対側の横から声を掛けられた。


「お嬢様のことをよろしく頼むぜ、ミリエル様」

「あ……あ……あ……」


 声を掛けてきたのはここに来るまで決して近づいてこなかったニーニャだった。

 彼女の猫のような瞳をすぐ間近で見て、息遣いまで感じられて、ミリエルの意識はすぐに天辺まで舞い上がってしまった。


「うん! お姉ちゃんに任せておいて、ニーニャちゃん!」

「あ……ああ。(お姉ちゃん?)」


 興奮してミリエルは鼻息を鳴らす。ニーニャは不思議そうに首を捻って頭を引っ込めた。

 その仕草もまた可愛かった。

 今までずっと話をしたいと思っていたニーニャから頼りにされてミリエルはやる気が出た。


「よし、行こう!」

「乗り気だね」


 ミリエルの態度をアルトは優しく流す。

 そして、ミリエルはみんなとともに普通に黒い口を開ける洞窟の中へと踏み込んで行った。

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