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ミリエルと不思議な声


 過ごしやすい温暖な気候に恵まれた豊かな王国ファンタジール。

 今は平和なこの国もほんの数十年前までは戦乱やモンスターの脅威があったそうだ。大人達にとっては過ぎた災厄。子供達にとっては歴史の授業で習っている生まれる前の出来事だ。

 魔王が滅んで平和になった現代では賢い王の統治の元、人々は安心した暮らしを送っていた。

 町を離れれば弱いモンスターと出会うこともあるが、兵士がきちんと見回って国を守っているので不用意に外に出ていかなければ危険は無かった。

 各地で困った問題が起こればギルドに依頼が貼り出され、冒険者が解決に向かっている。社会は上手く回っている。


 人々の繁栄で賑わう王都。その王都にある上流の貴族だけが通うことを許された名門の学園の教室で今、10歳の綺麗で可愛らしい少女が黒板の問題を前にして悩んでいた。

 髪の長い綺麗な少女だ。彼女ミリエルは決して馬鹿な子では無かった。ただこの学園が名門であるが故に授業の内容が難しいのだ。入学した時から薄々とそう感じていた。

 今回当てられた問題はさらに難しいように感じられた。だが、もう一押しがあれば解けそうなのだ。だから諦めたくは無かった。

 考えるミリエルをベテランで鳴らした教師のマチルダさんが厳しい目をして急かしてくる。


「どうしました、ミリエルさん。この問題は解けませんか? 無理なら無理と言ってくれて構わないのですよ」

「いえ、大丈夫です。もう少しで解けそうなんです」


 その声に周囲が息を吐く音が聞こえた。呆れられているのだろうか。無理もない。ともあれミリエルは問題と向き合うことを優先する。

 もう少しで解けそうだ。そう答えたのは事実だった。

 だが、そのもう少しが掴めない。だから、悩んでいるのだ。どうしようもなくミリエルは天に願った。


『誰か、ヒントを。ほんのちょっとで良いからヒントをくれないかなあ、神様ー』


 そう10歳の少女が心の内から願った時だった。不意にどこからともなく声がした。


『ヒントが欲しいのか。小娘よ』

「え……? 誰?」


 周囲を見回しても厳しい目をした先生と注目している生徒達しかいない。声は再び聞こえてきた。


『ヒントが欲しいのならばくれてやってもよいぞ』

「…………」


 誰も喋ってはいない。一種の魔術によるものだろうか。

 誰にも気づかれないように黒板の方を向いてミリエルは考えた。ヒントは欲しい。だが、この奇妙な声の言うことを聞いていいものだろうか。

 奇妙な声は急かしては来なかった。急かしてくるのは先生の視線と教室の空気だ。ミリエルの機転は早かった。素早く決断して思考で答えた。


『うん、ヒント教えて』

『よかろう、この問題のヒントは……だ。もっと教えてやろうか?』

『いえ、結構です。もう分かりました』


 それだけ聞ければ十分だった。

 ミリエルは素早くチョークを走らせた。先生が驚きに目を見開き、教室の生徒達からも感嘆の声が上がっていった。

 答えを書き終わり、ミリエルは自信を胸にみんなの方を振り向いた。

 わずかな静寂の後で、先生が気を取り直すかのように咳払いしてから言った。


「この問題を解けるとは。さすがは聖少女と謡われたミリエルさんですね。では、授業を続けますよ」


 緊張から解き放たれ、ミリエルは自分の席に戻る。

 聖少女と呼ばれるのは勘弁して欲しかった。別に自慢することではないが、ミリエルの親は魔王を倒した勇者らしい。

 らしいと言うのはミリエル自身が魔王が倒された現場を見たわけではないからだ。娘の目から見て、親は普通の優しい親にしか見えなかった。

 ともあれ父は天から光の力を授かって魔王を倒した勇者らしいのだ。その功績を称えられて王様から地位と名誉を授かったらしい。そんな凄いことを成し遂げた親から生まれた子供だからミリエルの誕生には王家も期待したらしい。

 全てが今のミリエルにとってはどうでもいい物心付く前の出来事だった。

 彼女は教科書を開きながら考える。あの声は何だったのだろうかと。

 気になったが、今は授業に集中する時だった。また分からない問題を出されたら困る。

 ミリエルはすぐに気持ちを切り替えていった。

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