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王城に向かう

 出かける準備を済ませ、ミリエルは両親と一緒に屋敷の玄関から外に出た。

 目を細める。陽光に反射する馬車の黄金の飾りが眩しかった。

 玄関先ではそれはもう立派な馬車が待っていた。御者を務める身なりの良い青年が両親と挨拶している。

 大人同士の会話には構わず、ミリエルは子供らしく馬車に目を向ける。

 さすが王城にある馬車だ。王都を走っている一般向けの乗り合い馬車とは格や気品が違うと芸術に興味や関心のない少女の目から見てもそう思う。


『これに乗っていくのだな』

「うん」


 中からの声に短く答える。簡単な挨拶を終えて両親はすぐにやってきた。


「この馬車に乗るのも久しぶりね」

「そうだな。お前と一緒に王城に行ったのはもう半年前になるものな」

「ミリエルも乗ったことがあるのよ。覚えてる?」

「覚えてない」

「あの頃はまだこんなに小さかったもんな」

「そうね。あの頃はわたしも若かったわ」

「母さんは今でも若いだろ」

「フフフ、ありがと」


 軽く会話を交わし合う両親に続いてミリエルは馬車に乗る。座席がふかふかで内装にも凝った意匠が見られた。

 準備ができて出発する。馬車の車輪が回り始める。

 揺れる馬車の座席で両親と向かい合って座り、王城へ着くまでの間ミリエルはぎゅっと拳を握ってうつむいていた。

 向かいでは父と母が楽しそうにこれからのことについて喋っている。

 大人の会話に子供が口を挟むことはあまり無い。

 ミリエルが黙っていると中の人が話しかけてきた。


『この国の王様とはどんな奴なんだ? クレイブより強いのか?』


 両親が王様に会ったらどうするとか話していたから気になったのだろう。ミリエルは自分の知っている範囲で答えることにした。

 両親に聞こえないように小声で。足元からは馬車の車輪の音が鳴っているし、両親はお互いの会話をしているから、ちょっとやそっとでは聞かれないだろうと思いつつ。


「知らない。王様がパパより強かったらパパの代わりに王様が勇者になってたと思うけど」

『それもそうか。クレイブを見込んだあたり見る目はあるのだろうがな……』


 中の人はそれ以上訊いてこなかった。あまり王様に興味が無いのか、ミリエルが知らないと答えたから訊いても仕方がないと思ったのかもしれない。

 馬車の窓から外を見る。いつも王都にある学校へ行く時に通っている道だが、見ている視点が違うと景色も違って見えた。

 ついこの前、猿でも使える魔法の練習をした公園の前を通り過ぎていく。

 ジーロ君は元気にしているだろうか。ふと思い出す。

 あんなに優しそうなテイマーさんと一緒なのだからきっと元気にしているのだろうと思った。今では良い思い出だ。

 ミリエルは聞かれていないと思っていたのだが、両親の会話が途切れた時に父が訊いてきた。


「なんだ、ミリエル。お前は王様のことを覚えてないのか? この前家にも来ただろう?」

「え……?」


 考えてみるが両親を訊ねて家に来る人はいろいろいるし、この前だってテイマーさんが来た。

 どの人が王様なのだろう。王冠を被って大勢の家来を従えてきた偉そうな人はいなかったように思う。

 ミリエルが考えていると、今度は母が言ってきた。


「大人にとってはついこの前でも子供にとっては随分前に感じるものね。忘れても仕方ないかも。会えば思い出すと思うわ」

「うん」

「ミリエル、王様に会いたいのか?」

「別に」


 つい本音が口をついて出てしまった。両親が苦笑している。気づいたミリエルが慌てて取り繕うとしてももう遅かった。


「とにかく一度挨拶はしておかないとね」

「ミリエルももう10才になったんだもんな」

「うん」


 馬車の窓から外を見る。静かな草原の向こうに王都の壁が見えてきていた。

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