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休日の朝、突然に

 学校に行く平凡な日々はすぐに過ぎ去っていき、リンダがアルトが帰ってくると言っていた休日がやってきた。

 今週は二連休。ミリエルは目覚めの良い気分で屋敷の自分の部屋のベッドから身を起こし、部屋の窓を開けた。

 うららかな日差しの降り注ぐ天気の良い朝だ。部屋の窓からは家の外に広がる草原の風景がよく見える。幸せの風を感じていると中の声が話しかけてきた。


『今日奴が来るのだな』

「うん、アルトさんが帰ってくるって言ってたね」


 その話はリンダだけでなく、昨日両親からも聞いた。

 だからと言って改まって何かをするということは無かったが。

 少なくとも昨日の席では特に何かをするという話は出なかった。


「あんたもアルトさんに興味があるの?」

『ふむ、クレイブほどの勇者では無いとは言え、一応奴の認めた男ではあるわけだからな。興味が無いといえば嘘になるな』

「ふーん、そうなの」


 もしかしてアルトさんって思ったより人気者なのだろうか。リンダも中の人も気にするなんて。

 ミリエルにとっては物心が付いた頃からいるのが普通で特に意識したことは無かったが、人からこうも気にされていると何となく考えてしまう。

 父の弟子をしていた青年アルト。一応好青年とは言えるかもしれないが、自分とは年が離れていたこともあって父の知り合いの一人としか意識したことは無かった。

 今後もその関係が変わることはないと思う。特に目新しいことは思いつかない。

 そう結論付け、無駄なことを考えるのはそれ以上止めておいた。

 それよりもリンダのことを彼にどう伝えるかを考えなければならない。約束したのだから果たさなければならないだろう。約束を破るのはいけないことだと少女は真面目に考える。


<学校の友達のリンダちゃんがアルトさんのことを気にしてたよー>


 と、いつもみたいに話のネタの一つとして振ればいいかと気楽に構えていたが、いざとなると緊張してしまう。

 リンダが変に大げさに言うからだ。アルトさんなんて特に有名人でも何でもない魔王を倒したわけでもない普通の人なのに。

 ミリエルは気を取り直して別の事を考えようと思ったが、その時間は与えられなかった。

 部屋のドアが開いてソフィーが顔を出した。


「ミリエル、もう起きていたのね。今日は出かけるところがあるから朝ごはんを食べたらこの服を着て準備しなさい」


 部屋に入ってきてソフィーはテーブルの上にさっき着なさいと言った服が入っているのだろう箱を置いた。

 ミリエルはその箱を見下ろしてから視線を上げて母の顔を見て訊ねた。


「今日、どこか行くの?」

「王城キングパレスに行くのよ。あなたももう10才になるんだから、きちんと挨拶をしておいた方がいいと思ってね」

「え……」


 ミリエルは一瞬ぽかんと口を開け、


「ええーーーーーー」


 事態を飲み込んで大きな声を上げてしまった。

 王城キングパレス。そこは王様のいるこの国の中心だ。


「でも、今日アルトさんが帰ってくるんじゃ……」

「だからそこで会うのよ。王様も一緒にね」

「んーーー」


 自分がそこに行って何をして何を為すのか。

 ただ驚きしかない、晴天の霹靂のミリエルだった。

 


 ともかく朝食を済ませる。無言になって食べているとソフィーが苦笑したように言ってきた。


「そう急がなくていいわよ。迎えの馬車が来るまでまだ時間があるから」

「迎えの馬車……」


 どこから迎えが来るかなど考えるまでも無かった。ミリエルとて王城に行ったことが無いわけでは無い。ただ最近は行ってなかっただけで。

 父の話では幼い頃に王様と面会したこともあるらしいが、その頃の記憶は今のミリエルにはぼんやりとしか残っていなかった。


「ごちそうさま」


 朝食を済ませ、速足で部屋に戻ってきてからミリエルは母がテーブルの上に置いていった箱を開けた。

 その中にはとても豪奢な空色の余所行きのドレスが入っていた。自分には似合わないんじゃないか。そう思っていると少女の中からの声が訊いてきた。


『王城でパーティーでもするのか? アルトとやらも帰ってくるらしいし、今日は何か目出度いことのある日なのか?』

「別に祝日とかじゃないんだけど。あんた本当は孫にも衣装だって言いたいんでしょ?」

『別にそうは言わんが。あの親の用意した物だから悪い物ではあるまい。早く着て見せてはどうだ?』

「うーん……」


 ミリエルは渋ったが、親からこれを着ろと言われたのだ。とにかく着るしかなかった。さっと今着ている寝間着を脱いでしまう。


『お前も最初に会った頃に比べると随分と思い切った性格になったよな』

「どうでもいいでしょ、そんなこと。こんなのわたしに似合うのかしら」


 ミリエルが気にするのは今目の前に迫った問題だけだった。

 疑問に思いつつ、ミリエルは余所行きのドレスに袖を通していった。着終わってから部屋の鏡の前で確認してみる。

 空色のドレスは優雅だが派手すぎず気品のあるようには見えた。少女には着慣れない落ち着きのなさは見えたが。

 とりあえず今この場所にいる訊ける人に相談してみる。


「どこか変じゃない?」

『似合ってると思うぞ』

「似合ってるとかじゃなくて」

『可愛いんじゃないか。俺には女のセンスは分からんが、良いセンスをしていると思うぞ。さすがソフィー。クレイブが妻に選んだだけはあるな』

「そうね」

『心配なことがあるなら親に見てもらえばいいじゃないか』

「それほどでもないよ」


 何か嫌味なことでも言ってくれれば良い気晴らしになっただろうに。興を削がれてしまった気分だ。

 気の利かない中の人だと思うミリエルだった。

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