評価されない小説家
雨の日だった
僕に背を向けえんぴつを握るきみ
小刻みにゆれる背中と雨音がかさなり
きみからはどこか異国の音楽が聞こえた
えんぴつはまるで指揮棒のようで
文字は意味のある音を奏でる
きみは世界を指揮していた
きみの紡ぎだす僕の大好きな世界を
そして、きみは指揮棒をなげすて
えんぴつはもとのえんぴつに
雨音がきみの音をかき消し
物語はもとの紙切れの束に隠れる
きみはひとり濡れていた
いろんな味の涙と雨で
雨の日だった
私のなかではそれはいつも雨で
雨音に混じるあなたの胸の鼓動が
私のえんぴつをさらに早く走らせる
あなたは私に私以上をみつけて
私には聞こえないなにかをきいて
紡がれていく私の物語には
あなた以外の読者がいない
そして、私は全てに気づかされ
書いていたものはただの恥になる
夢への距離はいつもかわらず
大きな円をえがいていただけと知る
評価されず、みてももらえず、
膨大な作品と涙に私はただ埋もれていた
いいでしょう? もういいでしょう?
あきらめていいでしょう?
かなわない夢は誰の夢
みてもらえない詩は誰のもの
いいでしょう? もういいでしょう?
夢こがれ日々をついやし
もらえたのは無評価と無反応
そう、これが私の小説だから
もうあきらめていいでしょう?
ぽろり言葉は唇をつたって落ちて
落ちてたまったそれらを僕は踏みつけ
きみの口からこぼれそうになる悲鳴を
ふさいで全部のみこませて
ふるえるきみを抱きしめながら
捨てられたえんぴつを無理やりその右手に
ふるえる手がもう書けないといって
きみのひとりだけの読者をはねつけるけど
なんどでも僕は言う、
物語は指揮者なしでは終われない
きみだけがその指揮者だと信じてる、と
誰も読んでくれないからってなんだ
ランクインできないからってなんだ
小説はきみの分身
詩はきみのこころ
そしてきみにはいつも僕がいる
僕というきみがいる
いいよ、もういいよ
もう充分書くのを楽しんだ
そう思えるその日まで
きみは指揮をとらなくちゃいけない
ここを去っちゃいけない
まだきみの中の僕が続きを読みたがっていたら
評価されない小説家も
きみの夢の小説家の仲間だから
かきながら思い出した
昔はただ自分の物語を読み返すが好きだった
自分の中の読者の存在を忘れていた
たとえ評価ぜろでもいいんだ
この詩は小説家になりたくてなれない自分を励ますものだから
同じような読者がいたら、この詩で励まされたらいいな