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元外道勇者の魔王討伐は本命ではありません

連作の四話目です。


また変わるとか、統一感なくてすみません。


シリアス、シリアス、シリアス、まじめかっ!



こんなのでも良いってかたはどうぞー。

魔王との決戦は魔王城で、行わずに近くの平原で行う事となった。


何故なら魔王城ってのは千年以上の歴史を持つ、この世界にとっても重要な遺物だからだ。


前回一年近く居城にしており女神から聞いて知りえた事なので、現在の魔王である目の前の偉丈夫も知らない事だろう。


いや、知っていたとしてももはやそのような事は関係ないのかも知れない。


それほど目の前の男、魔族の王は狂っているのだ。


そんな狂った世界最強存在と俺たち勇者パーティが正面からぶつかり合えば、確実に魔王城は崩壊するだろう。


だから城へと乗り込まずにこの場へと誘いだした。


誘い出しの文句は、魔王への書状に認めた。


―――――真実を知る者から怒れる偉大なる王へ


こう書かれた書状を受け取った魔王はこうしてやってきたのだ。


お互いに供は少数。


俺の供は剣聖レオン、魔法騎士アンジェ、魔導士ユーリ、聖女アナスタシア。


魔王の供は娘である魔族の姫、セレスティアただ一人。


ここまでの魔王軍との戦いで、魔王軍の主だった幹部は皆撃破しており、後は雑兵と蔑むほどではないが俺たち解放軍の敵ではない者たちばかりだ。


もうこれ以上お互いに無駄な命を散らす必要はない。


だから少数同士の決戦で片を付けようとしたのだ。


「お前が勇者か」


「そうだ、私が勇者だ。あなたが魔王か?」


前回と同じセリフのやり取り。


ただし今度は騙し討ちなど狙っていないので剣を鞘に納めるような事はしない。


いや、まだ剣を抜いていない、といった方が正しい。


魔王討伐は決定事項であり、討伐する事でこの世界が救われるのは既定路線だ。


ただ、戦いの前に話しておく事があったからだ。


「我が魔王だ。真実を、との事であったが、全て承知で戦いを挑むのか?」


「ええ、真実を知ってもなお、いな、知っているからこそあなたに挑むのだ、魔王」


「そうか」


「父上、私も共に」


「ならん。我が娘よ、お前はこの戦いを見て、そして他の者に伝えねばならぬ」


「し、しかし!」


「お前は我の後継者だ。その任、軽くないぞ」


本当に狂っているのか?


そう思いたくなる魔王とセレスティアのやり取り。


俺ですらそうなのだから、レオンたちも少し困惑気味だ、聞いてたのとちょっと違うと。


だが魔王が次に発したセリフと、噴出した瘴気の量に、考えを改めた。


「さあ、始めようか勇者とその仲間たちよ! 我はお前たちが魔族と呼ぶ者の王なり! その言葉の重みを感じ取り、果てるがいい!」


そうして始まった魔王戦は数時間にも及ぶ、まさに大決戦と呼ぶに相応しい死闘だった。





魔王が繰り出す魔法の数々は天を割き、唸る拳は大地を割った。


アンジェの防御魔法がなければすぐに俺たちは死んでいただろう。


アナスタシアの神聖魔法がなければ魔王の瘴気に侵され死んでいただろう。


レオンの剣がなければ魔王の拳を封じる事が出来なかっただろう。


ユーリの攻撃魔法がなければ魔王に隙は生まれなかっただろう。


そうやって長い時間我慢に我慢を重ねた結果、一瞬の隙を突いて繰り出した俺の聖剣の一撃が魔王へ致命傷、心臓への一突きへと繋がった。


「見事だ、勇者とその仲間たちよ」


魔王、いや、偉大なる王は最後まで偉大だった。




数時間にも及ぶ戦いの余波で当たりは最早荒野と呼ぶのも烏滸がましいほどに荒れていた。


そんな場所に存在しているのは俺たち勇者パーティと倒れた魔王へと涙ながらにしがみ付くセレスティアだけだ。


「父上! しっかりしてください、父上!」


「我が娘セレスティアよ。不甲斐ない父ですまなかった」


「そんな、父上。父上は立派な、立派な偉大なる王で、これからもそうです」


「もう時間がないのだ、ティアよ。我に残された時間はどうせあと少しであった」


「そんな!」


「勇者よ」


「はい」


「ティアを、我が娘を頼む。この世界の序でも構わぬ」


「私は、こやつになど!」


「偉大なる王からの依頼、しかと受けたまりました。この世界が序に頼まれます」


「ふっ、面白い、おと、こ、だ、な」


「ち、父上? ちちうえええええ!」


魔王の最後はあっけなく、そして一人の父親としてのものだった。


彼の娘であるセレスティアの慟哭だけが響く荒野に立ち尽くす俺たち。


これほどの悲しみを見せる少女に誰が声を掛けれようか。


ただ時間だけが流れていった。





「ねえ、女神。見ているんでしょう?」


外道勇者だった前回もセレスティアは号泣だったな、とそういう意味での感傷に浸りながらもそんな彼女へ酷い仕打ちをした俺に掛ける言葉がなかった。


だから彼女が泣き疲れるまで、話を聞く余地が生まれるまで待ってからこの光景を見ているはずの女神へと問いかけた。


そして全ての音が止む、いや、時間が止まったこの場に女神は現れた。


神々しい、そんな言葉がぴったりの女性であり、全てを知る者の登場だ。


「此度の貴方はしっかりと勇者だったわ。願いは叶ったかしら?」


「ええ、まだ道半ばですが」


俺たちのやり取りに困惑するレオンたち。


セレスティアは茫然と登場した女神を見つめている。


「そう。じゃあ今回の願いはまだないのかしら? 今回だったら受け付けるわよ?」


「えっと、その件につきましてはお忘れいただくと大変うれしくあるのですが」


「ふふ、言葉遣いが変よ、勇者。いえ、赤城勇志さん」


「ちょ、ちょっと待ってもらえないか?」


「どうかしましたか、レオン?」


「このお方が女神様である事は疑わないのだが」


「まあ、この雰囲気ですからね、疑う方がおかしいかと」


「あら、そんなに神々しいかしら?」


「め、女神様って、こんな方だったのねー」


「ちょっと予想外、と言うと失礼になるのかな?」


「・・・ユウジに任せる」


「いや、そういう事ではなく、あ、いや神々しいのはそうなのですが。それは別として女神様とユウジは会った事があるのか?」


「「「「あっ」」」」


ああ、なるほど。


レオンたちの困惑の理由はそこか、序にセレスティアも。


確かに俺は女神と会った事がある。


ただし、この世界ではなかった事になった一年後、というややこしい時間軸でだ。


俺が前回を記憶しているのだから女神だって前回を覚えていて当然、というか女神なんだから時間の概念なんてブレイクスルーだろうな。


「そうですね。皆には真実、この世界の真実を知ってもらいたいから、その為にも私の事も知ってもらいましょう」


「あら、良いの?」


「はい、やはり隠し事はしたくありません、これ以上は」


「そう、分かったわ。でも、それだったら口調を正したら?」


「ああ、そうですね。いや・・・そうだなぁ、やっぱ変だよな」


「おい、ユウジ?」


「まあ、あれだ、レオン。本当は俺、ややこしいだろうけど、言葉遣いからしてこっちが俺なんだ」


さて、それでは俺がどういう存在なのか、知ってもらいましょうか。


如何に外道で、外道らしい事をしてきたかを。




それから俺の語りは続く。


まず俺がこの世界でしか召喚されていない事、二度目の勇者召喚というのはこの世界で一度召喚された後に、召喚時点に時間を巻き戻して現れた事からだ。


そして一度目の召喚の時の外道っぷりをしっかりと語った。


俺が如何にして魔王軍を、魔王を討ち破ったのか。


俺が色々な人に何をしたのか。


俺がアンジェに何をしたのか。


俺がレオンに何をしたのか。


俺がユーリに何をしたのか。


俺がセレスティアに何をしたのか。


唯一酷い事をしなかったのはアナスタシアだけだったが、どういう目で見て、どういう事をしたいと考えていたのか。


「そうやって俺はこの世界の人々から失格を言い渡され、殺された。まあ、当然の結果だからその事を一切恨んでいないな、不思議なぐらいすっきり死ねた」


ここまで黙って、いや、途中で顔を顰めたり、俺を睨んでからすぐに悲しそうな表情に変えたり、彼らは百面相で大変そうだった。


「ただ、あれだ。死の間際にさ、アンジェとリリアンヌ姫だけが俺の死を悲しんでくれたんだ。ああ、その場にいなかったレオンとユーリとアナスタシアはどうしようもない事だよな」


「ユウジ様」


「アンジェ、俺はすっげぇそれで救われたんだ。俺の外道っぷりの一番の被害者である君が、最後まで俺の為に泣いて、俺を生きさせようと懸命だった事が」


「救われたって、そんな」


「うん、本当に救われた気分だった。それでさ、気付いたんだ。アンジェを愛していた事に。そしてあんな事をせずに、君と真剣に向き合えばよかったと。ああ、アンジェだけじゃない、この世界の人たち全てに、だ」


「ユウジ、だから君はあの時」


「そう。だからレオンと真剣に勝負して勝ちたい、そんな感じかな」


俺は一旦語るのを止めて、みんなの顔を順番に眺めていった。


それぞれ思い悩む表情をしている。


なんでそんなに悩むことがあるんだろうか?


俺のような外道、みんなを騙して勇者らしく振舞っていた若造には怒りこそ覚えど、それ以外に思う事はないはずだ。


なのに何でそんな顔をするんだ?


「えっと、まあ、そういう事だから。後の説明はお願いしていいっすか、女神?」


「えー、ちゃんと君がしないといけないのではないかな? それにまだ、君と話がしたいみたいよ」


「え?」


俺と話しを?


不思議に思ってみんなの顔を見ると、全員揃って苦笑された。


「確かに一週目? と言えばよいのか分からないが、酷い仕打ちは受けたんだろうな」


「すっげぇしたよ、したした。なんであそこまで出来たんだろう。根本が外道だからかな?」


「いや、ちがうなユウジ。君の根本はやっぱり勇者だよ。僕はそう思う。今の君を見た、今の僕の感想だ」


「・・・レオン」


「男はどうせそんな物」


「えっと、それって確かにそうだけど、同じ男でもレオンは違うと思うぞ」


「レオン様は王子だし、元だけど。だから別枠」


「別枠って」


「でも、私はユウジが好き。ただ、それだけでいい。前とか今とか関係ない。私が知ってるのは目の前のユウジだけ」


「・・・ユーリ」


「勇者様は勇者様だと、私も思うなー」


「いやぁ、アナスタシアは前回も被害被っていないからそう思うだけじゃ?」


「でも、私がそう思うのだから、そうなのよー。私の感はすごく当たるのよー、聖女だけに」


「いや、感って」


「もう、男らしくないなぁ。じゃあ、こうしよう。私アナスタシアが聖女として認定します。汝ユウジ・アカギを勇者として認めます。これでどうかなー?」


「・・・アナスタシア」


「私は流石に複雑じゃ。何せ今のお主をほとんど知らぬ。かと言って、なかった事になった出来事をとやかく言うつもりも。あと父上の事はなんと言えばよいのか」


「まあ、セレスティア姫はそうだよなぁ。あ、一応王様の言っていた時間がない、は説明出来るけど?」


「おお、それを聞かせてくれ。それで判断しよう」


「判断って、まあ、いいか。あの人は瘴気に侵され過ぎてたんだ。あそこまで行くと誰もどうにも出来ない。それこそ女神様にも」


「うん、無理ね。手を出したら余計にまずかったわ。ごめんね、何もしてあげられなくって」


「そ、そのようなお言葉を。こちらこそ申し訳ないです」


「セレスティアって口調を作ってるんだな、俺と一緒か」


「放っておいてよ! ごほん、後継者である姫として当然じゃ」


「まあ、知ってたけど」


「むきー! ああ、うん。そうか、そうならば仕方あるまいな。よう止めてくれた、勇者よ。父に代わりこの世界を救ってくれた事感謝の言葉を贈る。最後まで人として逝けたからな」


「・・・セレスティア」


「えっと、その女神様。ちょっと宜しいでしょうか?」


「何かしら?」


「なぜ私だけ覚えているのでしょうか?」


「「え?」」


「いえ、厳密に言えば先ほど思い出したのですが、やり直し? になるのかな、その時の事を思い出したのですが」


「あれぇ? うーん、時間軸、というよりもあの三年間はなかった事になったんだから記憶が抹消され、あ!」


「あって、理由が分かりましたか? なんとなく女神のうっかりな予感が」


「誰がうっかりよ! えっと、あの時時間軸を戻す起点が赤城勇志さんだったのよね。だから記憶や経験はそのままだったんだけど」


「まあ、そういう仕組みにしないとそうなりませんよね」


「あなたが死んだ直後に戻したから、その時に一番近くにいたアンジェリカさんに多少影響が出ても可笑しくはないかなぁ、とか思ったりして」


「そうですか、納得出来ました。ありがとうございます、女神様」


「いえいえー」


「ユウジ様、あなたをお慕い申しております」


「・・・アンジェ」


「前も今、変わらずに。いえ、もっと好きになりました」


「ま、前も?」


「確かに酷かった。本当に酷かった。でも、仕方ないとも思ってた。だって無理やりこの世界に連れてきたのは私たちだし。ああいう事されても文句は言えないもの」


「それでも、やりすぎだったはずだ」


「でも、好きになったの、あなたの事が。だって三年も一緒にいたのよ、どういう形にせよ。それに、その、こ、子供が出来たって分かってからは優しかったし、寝所限定だけど」


「あー」


「だからね、大好きなのユウジ様の事が! 今の方がずっと好きだけどね!」


ああ、本当に涙腺が緩くなったなぁ、俺。


あれだけの事をして、それを無かった事にして、そんな外道な俺をみんなは許してくれて、愛してくれて。


嬉しい、そう思うのは当然じゃないか、ちくしょう!





「あ、そう考えるとリリアンヌ姫も覚えてるのか。ああ、また増えるのか。魔王さんにお願いされてるから、ご、五人ですって?」


ど、どういう事なのでしょう、アンジェさん?


そう思った俺の思考は正常だったと思いますよ。





さて、この世界の真実を語る前に俺の話が長くなってしまったからここからは俺の計画を交えて話して行こう。


重要な所でダイジェストするのが俺クオリティって事とでここは一つ。


この世界の真実とは、なぜ魔物や魔族が存在しているのか、なぜ魔王は戦争を始めたのか、だったりする。


そして俺の計画というのは、その真実を世界中の人々に知らせる事、そしてその真実がこの世界のこれからのスタンダードであり続ける事。


その為にはここにいる皆に知っていて貰いたかった。


そこには俺がどういう存在だったか、も含まれている。


だって本当の意味で俺が信用出来ないと頼れないし、俺を信用して貰えないし。


まあ、計画実行して完了する為にはこの六人だけでは無理だから、解放軍にも協力を要請するのだけどな。


と、いう事で、俺こと勇者アカギの最後のお仕事行ってみましょうか!





解放軍に合流した俺たちは魔王討伐成功を伝え、歓喜に沸く彼らにこの世界の真実を伝えて協力要請するという混乱の渦に叩き落した。


まあ、協力要請は全員、解放軍五千人全員の了承を得て最後の作戦決行と相成りました。


そこからの俺たちの行動だが、ゆっくりと、本当にゆっくりと進んでいった。


解放した国々、侵略を間逃れていた国々、全ての国を回り、魔王討伐の報告を直にしていった。


国を巡る度に解放軍から人が抜けていく。


彼らは元々立ち寄った国々出身の者たちで、戦争終結で家に帰った、という事だけではなく、最後の作戦の為にも母国に残ったのだ。


そうやって巡り続けて半年が過ぎた頃、全ての始まりの国であるファーラン王国へと凱旋したのだった。


その時、解放軍に残っていたのは数十名だけであった。





ファーラン王国の王都へ辿り着いた俺たちは、歓迎する王都民の熱烈な歓迎を受け、王城へと歩みを進める。


ここまでの旅路で目にしてきた、聞いてきた彼らの感謝と喜びの表情と声。


それらを体験する事に、本当にやって良かったと思えた。


だけどまだ終わっていない。


勇者としての仕事は、まだ終わっていないんだ。


まだ俺は世界を救っていないのだから。





王城へ辿り着いた俺たちはそのままファーラン王へ謁見、感謝の言葉を頂いた。


褒美は何が欲しいか聞かれたが、特に褒美は必要なく、ただ民に向けて、世界中の人々に対して改めて報告がしたい、その機会を与えて欲しいと願い出た。


一瞬王は訝しむ表情を作ったが、俺の傍にいる四人の女性、アンジェ、ユーリ、アナスタシア、そして魔族である事を隠したセレスティアを見て納得した。


四人も女を得たなら十分、そんな判断だったんだろう。


違わないのだが、やっぱりこの王も外道だ。


謁見の後、俺たちは王城の人員の力も借りて世界中へ向けた俺こと勇者アカギの報告演説の準備に取り掛かった。


どうやってファーラン王国での演説を世界中に届けるか、なのだが、そこはほれ、魔法のある世界なのだから魔導士の方々に頑張ってもらうのだ。


王城勤めの魔導士、宮廷魔導士たちを主導とした遠隔の音声映像転写魔法を駆使し、各国、各村、各都市を中継してしまおうというものだ。


この世界の本気ってのはすごいものがある。


一致団結、そりゃ世界を救った勇者様のお願いなのだからみんながんばってくれたから実現したのが、その効果たるや絶大だった。


もちろん中核となるのは解放軍の精鋭たちだけどな。


一年間の戦争経験で飛躍的にレベルアップした彼らの実力が如何なく発揮され、演説を行うのが三日後と決まった。


・・・こんな事できるなら魔王軍との初戦からやってれば、というのは野暮ってもんだよな、今更だし。


さておき、そんな感じで世界中の人々、厳密に言えば演説を開催する人たち、それを中継する人たちはこの三日間大忙しだ。


それに関して総責任者、魔法なのだから魔導士ユーリがなるのは当たり前で、すっげぇ拗ねられた。


その分二人っきりの時間をしばらく増やすという事で同意しかけたところでアンジェがインターセプトして、彼女も大忙しメンバーに組み込まれた。


魔法に関われないメンバーが何をしていたかと言えば、レオンは対外交渉、特に王侯貴族からの汚染介入の防波堤になってもらった。


あ、レオンの嫁候補、というか数日後には結婚予定の妹姫さんも手伝ってくれてるらしいよ、俺も忙しくて見てないけど。


アナスタシアとセレスティアだが演説には関係ないのだが、別件で忙しくして貰っている。


アナスタシアは女神教関連の事で色々と動いてもらい、それに付け加えてある事を手伝ってもらった。


そのある事にセレスティアは率先して協力してもらった。


そのある事というのが、今目の前にいるリリアンヌ姫の事だ。





「おかえりなさい、アカギさん」


「只今帰還しました、リリアンヌ様。ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ありません」


「いえ、大業を成しえた勇者様ですから、幾らでも待ちます。本当にありがとうございました。この御恩は一生をもって返させて頂きますね」


えっと、一生をもってとか、アンジェが言った通り、覚えてるのかなぁ、リリアンヌ姫は。


なんて一瞬考えてしまうほどのインパクトある発言だった。


だって侍女さんとか女騎士さんとかが目を見開いてるもん、何て事を言っちゃいますか姫様!って感じで。


この席に同席してるアナスタシアとセレスティアも同上以下同文。


「それはありがたいお言葉です。それでしたら私からもリリアンヌ様に贈り物をさせて頂きますね」


「まぁ、贈り物ですか?」


「ええ。ああ、失礼致しました。連れを紹介します。こちらが女神教のアナスタシア様。こちらが偉大なる王の姫セレスティア様です」


という事でリリアンヌ姫に会う時間を無理やり作ってもらい、二人を連れてやって来た。


二人の紹介、と言ってもセレスティアに関してはぼかしながらだけど済ませ、本題に入った。


「リリアンヌ様に掛けられた魔術を解除致します」


「「「え?」」」


「その魔術は確かに一時期は必要だったかも知れませんが、もはや必要のな」


「か、解除出来るのですか!?」


「ええ、可能です。その為にアナスタシア様とセレスティア様をお連れしました」


「まぁ、聖女様が解除してくださると? でも、国中、いえ、ほとんどの国の魔導士でも無理で、たしか女神教の司祭様でも出来なかったとお聞きしておりますが」


「それにに付きましてはこのセレスティア様が主導で行い、アナスタシア様が補助という形になります」


「その、とてもうれしいのですが、なぜ今になって」


「それに付きましては解除させて頂いてからご説明致します」


この発言には流石に侍女さんと女騎士さんから待ったが掛かった。


デスヨネー。


でも、最初に理由を説明する訳にはいかないのだ。


聞いたら絶対解除どころではなくなるし。


「分かりました。勇者様、いえ、アカギさんのおっしゃる通りに致しますね」


「「姫様!?」」


「だってアカギさんですもの。私はこの方を信じています。いえ、この方なら騙されても構いません、そう思っています」


ちょ、ちょっと信頼が重すぎますよ、リリアンヌ様。


し、知らなかったなぁ、リリアンヌ様ってば、実は重い女だったんだな。


実在するとは思わなかったよ、俺。


まあ、主であるリリアンヌ様がそこまで言うのだからしぶしぶながら従うって感じで侍女さんたちは引き下がった。


でも、姫様に何かあったら即座に斬る、とばかりに女騎士さんは剣の柄に、侍女さんはケーキ用のナイフにそれぞれ視線が向いてます。


ぶっちゃけ、二人に襲われても一切怪我などしないけど、室内で女性から殺意に近い感情を向けられたらちょっと怖い。


さておき、それではサクッと解除してもらいましょう。


セレスティアさん、アナスタシアさん、やってしまいなさい。


俺の合図を受けた二人は早速取り掛かった。


まずはアナスタシアがこの部屋に結界、神聖魔法の一つであるサンクチュアリと呼ばれる一定量域内の瘴気を完全に打ち消してしまう究極魔法を。


準備が整った所でセレスティアが解除の魔法を使用して、魔術は無事解除されました。


さて、リリアンヌ様に施されていた魔術の正体なのだが、これは禁呪に相当する大魔法を無理やり固定化した大変危険なものである。


魔力を変化させる、という事象だけであれば通常の魔法のプロセスと全く同じもの。


ただし変化先が栄養という部分が大変よろしくなかったのだ。


何故かと言えば、これようは欠損部位などを修復するリザレクションと呼ばれる神聖魔法と同じ効果を、魔導士の回復魔法で無理やり再現する過程で生まれた魔法だからだ。


この魔法を偶然生み出したのはセレスティアの母親、魔王の奥さんだったりする。


実はセレスティアママさんなのだが、俺が召喚した時点ではすでに故人、ちゅーか三年ほど前に死亡してるんだよな。


その方が開発した、いや、再現できないかと実験している時に出来た魔法らしい、セレスティア曰く。


この話は前回の時にピロ―トーク替わりに散々聞かされていたものだから知ってはいたのだが、当時はリリアンヌ様に興味がない、と思い込んでいたから解除しなかったんだよな。


まあ、解除しようとしたら魔力が栄養じゃなく、瘴気に代わるっていうカースが発生するからしなかったろうけど。


そして興味ある事が分かった、というか解除しようと決意してからも色々調べてはみたものの、この魔法は血統魔法と呼ばれる分野の魔法なので、開発者の血筋しか発動と解除ができないと分かったのだ。


あ、蛇足で言うと、神聖魔法も血統魔法の一種らしいよ。


血筋、要は血を媒介にした魔力紋が一緒でないと使えない、ではなくて信仰心を媒介にした魔力紋が神聖魔法の発動システム、という訳なのだ。


と、いう事でサクッと解除終了したのだが、これ見ただけじゃよく分からないので、リリアンヌ様に外部魔力を大量に送り込んで自分で確かめて貰うしかない。


まあ、ここでも誰が送るかで揉めに揉めたのだが、リリアンヌ様からのご指名で俺がする事になった。


手を繋ぎながらの作業なので、まるで恋人同士がするような甘い雰囲気が漂うから睨まれたよ、侍女さんたちから、だけでなく、アナスタシアとセレスティアからも。


リリアンヌ様は照れた表情だったけど、次第に流れてくる魔力が滞りなく体内を巡り、そして反対の手から俺へと流れるのが分かると涙を流した。


成功したと分かったんだな。


「あ、ありがとうございます、アカギさん。本当に、本当に何とお礼を言って良いのか。私、あなたに一生を懸けてお返しします、絶対」


ええ、本当に良かったです、リリアンヌ様。


俺の願いが一つ叶ったよ、これで。


でも、やっぱり重いよリリアンヌ様。





さて、この後事情説明をしたのだが、予想通りにリリアンヌ様が倒れた。


そりゃあ色々ショックだろうなぁ、お察しします。


散々侍女さんたちから責められた、嘘を吐くな、なぜ言うんだ、と。


でもさ、嘘でもないし、知ってもらわないといけない事だから、真実は。


真実というのは優しいだけじゃなく、悲しみも同時に与えてくれる劇薬。


それを分かっていても必要なものなんだ、この世界を救うには。


だから俺は伝えたのだ。


例えそれで俺が恨まれ嫌われようとも。


何故なら俺は勇者で、勇者の仕事は世界を救う事だから。


自ら望んだ願いだから。





そして演説の日を迎え、俺たちは最後の任務に取り掛かった。


勇者としての、解放軍としての最後の任務。


これなくして解放軍は解散出来ない。


だから胸を張って挑もう。


前を向いて進もう。


その先に新たなる動乱が待っていようとも。


仲間と共に、歩めばその先に希望はある。


そう信じて。

お読みくださってありがとうございました。


まだ終了じゃないけど、続きは後日で!

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