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逆転転移のカタルシス  作者: ビンセンピッピ
第三章 崩壊の異世界
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3-31 『約束の日』


「ポーラ……じゃないのか?」


 大志たちの前に姿を見せたポーラには、黒い影が纏わりついていた。

 ポーラから放たれる殺気は、大志に向けられている。そんなものを向けられて気を緩めるほど、大志は愚かではない。


「欠陥品どもが……」


 ポーラは影を伸ばし、大志と理恩を捕らえた。

 不意の能力に、大志も理恩も逃げられなかった。ポーラは、こんな能力をもっていなかった。油断していたのかもしれない。


 大志は、影に触れて情報を得る。

 するとわかったのは、影が能力ではなかったということだ。今まで知り得てきた、千冠でも魔法でもない。


「王の力。……王って、何だよ」


「ほぉ、それを知っている欠陥品がいるとはな。久々に目覚めたが、なかなか面白いではないか」


 影は理恩を放り投げると、大志をポーラの目前まで移動させる。

 大志は影に拘束され、身動きすらままならない。放り投げられた理恩がどうなったかすら、わからない状況だ。


「お前は何なんだ。ポーラは、どうなったんだ?」


「知っているわけではないのか。欠陥品は、所詮欠陥品。いいだろう、教えてやる。欠陥品などとは違い、すべてを統べる力を備えた存在。それが、王だ。王を創りだしたことは、神の最初で最大の失態だ」


 ポーラが広げた手を握りしめると、影が大志を強く締めつける。

 海太とアイス―ンが影を斬ろうとするが、すり抜けるだけで切断することはできなかった。


「どうなってるってん!?」


 しかし驚くのもつかの間。

 ポーラに睨まれた海太とアイス―ンは、まるで突風が吹いたかのように飛ばされる。それなのに大志だけは、しっかりと影に掴まれたままだ。


「欠陥品は、王に食われるだけだ。おとなしく、その命を差し出せ」


「ぐぁぁあアアぁァッ!!」


 押しつぶされる。

 影が大志を押しつぶそうとしているのだ。

 ポーラを前に、大志でさえなす術がない。このままでは、わけもわからず殺されてしまう。


「欠陥品のくせに、素質だけは十分にあるようだな。……これなら、一人で十分そうだ」


 大志を影が呑みこみ、大志の姿は隠れてしまった。

 そしてポーラが大きな口を開けると、大志を包んだ影が吸い込まれていく。




「――何をしているッ!!」


 その時、声が響き、ポーラは地面を転がった。

 まだ完全に吸い込まれていなかった影から、大志が地面へと落ちる。


「情けないぞ、タイシ! こんなやつに、引けを取るとはな」


 そこにいたのは、イパンスールと、ルミセンを抱えたアルインセストだった。

 二人が来なければ、大志は呑まれていただろう。どうなるかはわからないが、それはきっと死よりも恐ろしいことだ。

 大志は立ち上がり、理恩と一体になる。また理恩を奪われるわけにはいかない。


「あいつが、誰だかわかるのか?」


「知らん。……だが、あいつは強い。ポーラから名器を取り出したら、こうなってしまった」


 ルミセンを確認すると、申し訳なさそうな顔をした。


「詳しくは、能力で探れってことか。……なあ、ルミセン。今度こそ、俺を頼ってくれ。頼りないかもしれないけど、俺はルミセンを助けたい」


「タイシ様……」


「たとえ未来が閉ざされてようと、運命がルミセンの明日を拒んだとしても、俺が連れていってやる。過去は変えられないが、未来は自由につくっていくものだ。決められた未来なんて、あるはずがない。だから俺と一緒につくるんだ。ルミセンが望んだ明日を。みんなで笑いあえる未来を」


 大志が手を差し出すと、ルミセンは迷いながらも怯えながらも、手を重ねた。

 震えるルミセンの手をしっかりと握り、引き寄せる。そして抱きしめた。温もり、怯え、悲しみ、ルミセンのすべてが腕の中に収まっている。


「タイシ様……ルミは……」


「わかってる。全部わかってる。……だから今は、力を貸してくれ。ルミセンのすべてを、俺に委ねてくれ。俺と、性を交えてくれ」


「性を交える?」







 そこは、黒い空間だった。

 理恩と、そして詩真とも訪れた場所である。そこに今、大志とルミセンがいるのだ。


「手短に話すと、ルミセンの力を一時的に俺の体内へ取り入れるってわけだ。そのためには、互いのすべてを受け入れなければならない。だから、俺を受け入れてくれ、ルミセン」


 理恩と一体になっていても、体液の交換は大志とルミセンの間だけでいいようだ。

 ここでの時間が、現実でも過ぎているのかはわからない。だからこそ、早く済ませなければならない。


「ルミは、何をすればいいの?」


「俺とキスをしてくれ。それだけだ」


 すると、ルミセンの顔は真っ赤になる。

 詩真とは仕方なくしてしまったけれど、やはり好きあっている者同士以外でキスをするのは、失礼だ。ルミセンとのキスも仕方ないと思えば、そこで迷いは断ち切れる。

 しかしそう簡単に割り切れるほど、大志の頭は単純ではない。ルミセンの紅潮した顔を見ると、これからすることへの罪の意識が増幅した。


「能力のために仕方ないんだ。でも、どんな形であっても、それがいいことだとは言えない。責任をとれるかと聞かれれば、答えはノーだ」


「……別に、いいの。ルミは、タイシ様に恩があるの。ううん、ルミだけじゃない。タイシ様の周りにいる人は、みんなタイシ様に恩を感じてる。タイシ様は、ルミたちにとって希望の象徴。英雄なの」


 ルミセンは目を閉じ、大志に身を委ねる。

 それでも大志の中にある罪悪感が消えることはなかった。今までは理恩と詩真で、前の世界からの知り合いだった。しかし今は、この世界で出会ったルミセンの唇を奪わなければならない。たとえ恩があるとしても、多少のもの。それなのに、半ば無理やり唇を奪ってもいいのだろうか。


「本当に、いいのか? 後悔はしないか?」


「タイシ様は、臆病なの。それはルミと一緒。……でもタイシ様には、ルミとは違って、世界を救う能力がある。きっと、タイシ様の能力は、世界を救うための能力なの。……ルミが言うのもおかしいけど、この世界を救って。そのためにルミが必要なら、いくらでも力を貸すの。だから……だから、ルミを救って……タイシ様っ!」


 ルミセンは目を閉じたまま、大志の頭へと手をまわした。そして強引に、ルミセンは大志の唇を奪う。そこに、どんな意思があるのかはわからない。もちろん能力を使えば、得られることだ。しかしそんなことはせず、ただただルミセンの腰を抱く。ルミセンが逃げたくなったらいつでも逃げられるように、固定はしない。優しく、ふんわりと、抱き寄せた。


「んっ、ん、ぅ……んぁ……ぁっ、んんぅ……」


 ルミセンの舌の動きは、熱く情熱的で、大志の口内を淫らに犯す。

 口から溢れた唾液が押し当てられたルミセンの胸へと落ち、それでもなおルミセンは大志の口内を犯した。

 ルミセンは弱気な大志のために頑張っている。そんな姿を見せられては、大志も頑張らないわけにはいかない。大志は舌を絡め合わせ、ルミセンの中へと侵入させた。


「んぁっ、んっ……たっ、たい……し、さまぁ……んんっ……んはぁっ、あァッ……んッ、んッ……」


 こうなったら逃げてはいられない。とことんルミセンの中を蹂躙する。

 熱い吐息を漏らし、貪るようにして互いを求めた。その姿は、とても美しいとは言えない。けれど、それで正しいのかもしれない。この能力に美しい愛などなく、あるのは他人の力にすがる醜さと、意地汚さだけだ。

 しかし、この能力でルミセンが救えるのなら、その醜さも受け入れられる。


 大志の中へと、ルミセンのすべてが流れこんでくる。

 ルミセンのしてきた一つ一つのことは、とても許されるようなことではなかった。しかし、それがあったからこそ今のルミセンがいる。

 ルミセンのしてきた罪は、オーガを倒したことで解決した。ルミセンの罪は、過去のものなのだ。







「……ルミセン、絶対に救うからな」


 大志の胸に、熱を感じる。それがルミセンであることは、わかった。

 ルミセンと一体になったので、今の大志の中には理恩とルミセンがいる。


「タイシ! 気をつけろ!」


 イパンスールの声と共に、大志の立っていた地面が崩れ、隙間から影が大志を囲むようにして伸びた。四方八方が塞がれ、逃げ道などどこにもない。


「憎いほどの、素質だ。それでいて、なぜこんなにも弱い」


 影は揺れ、大志を呑みこもうとする。しかし簡単に呑まれるほど、じっとはしていられない。

 空間の穴を開き、そこへと逃げた。そして出たのは、ポーラの上空。影を使うのなら、上空へ逃げてしまえば、簡単に捕まることはない。


「だから弱いのだ」


 ポーラは手を上空へとあげる。すると、影に掴まれたわけでもないのに、大志の身体は何かに捕らえられた。感覚はあっても、直接触れることはできない。


「タイシ!」


 イパンスールがポーラに襲い掛かると、ポーラは血相を変えて、その動きを止めようとする。しかしいくら影を出しても、イパンスールはそれをすり抜けて進んだ。

 そしてポーラを殴りつける。


「っぐぅ! 王の力が、効かない……。あまりにも、不完全すぎる」


 直後、イパンスールの追撃がポーラを襲った。

 それも一発ではない。二発、三発、四発と。そこだけ見れば、ただの虐待にしか見えない。心を多少痛めながらも、イパンスールを応援する。


「大志を離せ! 大志を離すまで、殴るのをやめないッ!!」


「ぐほぉ、おぅっ、くっ、くそ……王位をもった程度で……」


 すると大志は自由になり、落下した。

 大志は自力で着地し、静かになったポーラへと近づく。


「王位ってのは、お前の言ってる王と関係があるのか?」


「欠陥品が知ったところで、何の意味もない。欠陥品どもとは、次元の違う話だ」


 ポーラが吐き捨てると、イパンスールの蹴りが腹部へとめり込んだ。

 蹴られたポーラは地面を転がり、何度もえずく。突然の行動に、大志でも驚いたほどだ。


「いいから話せ。お前にこれ以上暴れられたら、こっちが困るんだ」


「……王座に座る資格を、王位という。王とは、王位をもつ者のことだ。十二の王座を、王は取り合うのだ」


「イパンスールにも、その王位があるのか?」


 するとポーラは首を縦に振る。

 今まで聞いたこともない話だ。名器と王にも、何か関係があると考えていいだろう。


「そんなことは、初耳だ。そもそも王座に座ることで、何があるというんだ?」


「王座に座ったものには、神と同等の地位が与えられる。自分の好きなように世界を変革できるのだ。……だが、誰が王座に座っているかは知らん。純血の王は、ここにいる。他は欠陥品どもが、偶然にも王位を手にしてしまっただけだ。そこの欠陥品のようにな」


 ポーラがイパンスールを指差した。

 しかしイパンスールには、そんな情報はなかった。つまり後天性の王位だったということだ。


「王の力が効かないということは、王位をもったということだ。……完全に目覚めた王の力には、歯向かえないだろうがな」


「それで、お前の目的は何だ? ポーラは、生きてるのか?」


 大志の問いかけに、ポーラは口元に笑みを浮かべる。

 ポーラがポーラでないことは、わかりきったことだ。ポーラの中にあった名器。それがポーラの身体に、王の人格を植えつけているのだろう。


「安心しろ。この身体には生きていてもらわねば困る。この身体が、王の身体となるのだからな。不完全だが、残りのかけらを集めればいいだけだ。かけらを集め、完全に復活したら、王座を破壊する。邪魔をするなら、食ってやるだけだ」


「王座を破壊して、どうするんだ?」


「どうもしない。純血の王を差し置いて、欠陥品どもが王座についているのが気に食わないだけだ。王座は一つで十分。唯一無二の絶大なる王の王座があれば、他はいらないのだ」


 ポーラは、その身にまとう影を一層強めると、影が空を覆いつくした。

 光など入る隙間もなく、イズリの呪いで作った光源がなければ、今頃どうなっていたかわからない。


「まずは、ここにいる欠陥品どもを食らってやる!」


「――そうはさせないッ!!」


 その声と共に、一人の男が駆けてくる。

 左右対称に白いラインの入った、黒髪のオールバック。見間違えるはずもない。ルミセンの使用人であるペドだ。カマラで待機のはずだったが、能力を使って来たのだろう。


 すると、空を包んでいた影がペドへと集まった。まるでペド一人を襲うかのように、ポーラの作り出した影がペドを包み込む。


「くっ、くそっ! こんな能力に……」


 ポーラはそう漏らし、ペドをさらに包んだ。

 ペドはすでに動けなくなっており、これ以上、影で包む必要はない。しかし、ポーラは悔しそうに、何重にも包んでいく。気になるのは、ポーラが『能力』といったことだ。

 ペドには、扉と扉を繋げる能力がある。しかし、それ以外にはない。その事実は、ルミセンの記憶とも一致している。それだというのに、ポーラは能力と断言した。


「……もしかしてっ!」


 大志は走る。ポーラの真正面から、ポーラにしっかりと見えるように。

 しかし大志の行く手を阻むものは現れず、大志の拳はポーラを殴りつけた。

 倒れたポーラは、それでも大志ではなく、ペドに力を使っている。そこで、大志は確信した。


 ペドが、レーメルに回復力を渡す代わりにもらったものは、能力だ。関心を自分へと向けさせる能力。それを使っている。だからポーラは、ペドにしか王の力を使えないのだ。


「お前が王座を壊したいのはわかった。だが、俺たちを巻き込むな!」


「……起こされたのだ。まだ眠っているつもりだった。それなのに、欠陥品に起こされたのだ。なら、自力で集めるしかないだろ。恨むなら、目覚めさせたやつを恨むんだな!」


 すると、大志の胸に痛みが走る。

 その痛みは大志のものではない。ルミセンの罪の意識が、苦しめているのだ。

 大志は痛みを感じながら、拳を握りしめる。


「お前を目覚めさせたのは、悪かった。……お前が完全に目覚められるように、かけらを集めてやるから、人を呑むのだけはやめてくれ」


「……わかっているのか? かけらを集めたら、勝ち目はないぞ」


「ああ、なんとなくな。だが、頼む。今は目をつむってくれ。俺たちは、お前が王座に座ることを邪魔したりしない。むしろ、協力したい。だから、お願いだ。まだ、もう少し……眠っていてくれ」


 ポーラを、強く抱きしめた。

 相手は不死身。たとえイパンスールが王位をもっていたとしても、長引けばジリ貧になるだけだ。

 かけらを取り戻したい王と、人々を助けたい大志。互いに傷つけあう必要なんて、どこにもないのだ。


「……面白い。素質はあっても、王位のない欠陥品か。賭けてみるのも、一興だな。……それに、王座についても、他に生きるものがいなければ虚しいだけだ」


「安心して眠ってくれ」


 王が話のわかる相手でよかった。もしも提案を断られていたら、大志には他に策がなかった。

 かけらとは、きっと名器のことだ。集めたら世界のすべてを手に入れるという噂も、集めた者の身体を乗っ取った王が手に入れるということだろう。今回は、身体の中に名器を入れていたばかりに、ポーラの身体が乗っ取られてしまったのだ。


 ポーラを包んでいた影は、ペドを包んでいた影と共に消失する。

 そして大志の左腕も、消失していた。


「……お兄ちゃん?」


 その声は、正真正銘ポーラのものである。

 目も元通りで、吐息も透明なものになっていた。


「よかった。ちゃんと生きてたのか」


 大志の周りには、ぞろぞろと仲間が集まってくる。

 理恩とルミセンは、ポーラの能力により、大志から分離していた。

 大志は疲労のたまった身体を倒し、赤く染まった空を見上げる。もう少しで、今日が終わるのだ。


「……ルミセン、ごめんな。あんなことしたのに、意味がなかったな」


「何事もないなら、それに越したことはないの。……これで、ルミは助かるの?」


「きっとな。王も眠りについたし、オーガだって暴れてない。このまま、逃げ切ればいいんだ。絶対に、明日はくる」


 今回の戦いでは、奇跡的にも犠牲者はゼロだ。複合体になったのは犠牲だったが、元に戻したのでノーカウントである。

 王に呑まれた者はおらず、殺された者もいない。大志たちの完全勝利だ。


「未来のことなんて、後にならなきゃわからない。これが、未来を諦めなかった結果だ」


 大志が笑ってみせると、複数の笑顔が大志へと向けられた。

 しかし、大志の心境は晴れやかなものではない。解決しなければならない問題が、増えただけである。けれど、それを表に出すわけにもいかない。







 重いまぶたを開ければ、すぐ目の前にルミセンがいた。

 ルミセンは温かく、それでいて柔らかかった。大志はその感触に頬を緩めながら、ルミセンを起こす。

 お互いに眠さで目をこすりながら、地上を目指した。そこはカマラの城で、地下からは地上の様子がわからない。


「ルミ、まだ生きてるの?」


「ああ、生きてるだろ。ほら、あったかい」


 ルミセンの頬に、自らの頬をあてる。

 するとルミセンは、大志の温もりをしっかりと感じ、まっすぐと伸びた道の先に目を向けた。

 そしてその道の先へと、二人は進む。地上へ出るための坂を、互いに支えあい、手を取りあって歩いていくのだ。


「ルミね、タイシ様とキスしたこと、後悔してないの」


「そうか。そう言ってくれると、俺も気が楽になるよ」


 さほど急ではない坂のはずなのに、一歩一歩がとても重く感じられる。

 ルミセンを、運命から切り離した危険な場所へと連れ出そうとしているのだ。その責任を考えれば、一歩が重く感じられるのも無理はない。

 ルミセンが生きたいと望んだ。そして大志は、それに応えただけだ。


「ルミね、タイシ様を……」


 しかし、それに続く言葉は出てこなかった。

 ルミセンは小さく首を左右に振り、目の前にある扉を見る。道の先にあった両開きの大きな扉。そこが、城の出入り口なのだ。

 大志がノブを握ると、もう片方をルミセンが握る。


 そして互いにタイミングを合わせるでもなく、自然と同時に扉を開けていた。

 隙間から光が入ってきて、扉を開ければ開けるほど、二人を照らす光は多くなる。

 眩しさに目を細めながらも、二人は扉をあけ放った。その先には、青い空と、容赦なく地面を照りつける太陽。そこはすでに、朝を迎えたあとである。


「……約束は守ったぜ。誕生日おめでとう、ルミセン」


 するとルミセンは涙を流し、朝の温もりを全身で感じながら、深呼吸をした。

 そして大志へと身体を向けるルミセンは、笑顔をつくる。作り笑いや、苦笑いではなく、本当に嬉しくてできてしまう笑顔だ。その笑顔は太陽のように温かく、それでいて、太陽の光よりもまぶしく輝いている。


「あり、がとう……ルミを、救ってくれて。タイシ様はやっぱり……ルミの英雄なの」


「そんな大層なもんじゃないさ。……でもまあ、それもいいかもな」


 冗談半分でそう言うと、大志の唇を柔らかなものが触れた。

 ほんの一瞬だったけれど、そのことで、ルミセンの頬は赤く染まってしまう。


「タイシ様には、これからもルミを守ってほしいの」


「……守るくらいなら、お安い御用だ」



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