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逆転転移のカタルシス  作者: ビンセンピッピ
第三章 崩壊の異世界
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3-7 『オーガの角』


 アースカトロジーは大志を追いかけ、飛び上がる。

 大志は咄嗟に空間の穴へ逃げ、ティーコの隣に逃げ込んだ。

 この場所にいれば、アースカトロジーが攻めてくることはない。


「土の千冠相手に、土は使わない!」


 アースカトロジーは上空から、ティーコへと急降下する。

 ティーコの千冠により、アースカトロジーの能力は無力化できる。だが、アースカトロジー本体が落ちてきたら、それは防ぎきれない。


「今までの戦いは、無意味だったってことか」


 大志は落ちてきたアースカトロジーに拳を突き上げると、アースカトロジーは上空で足場をつくり、大志の拳から逃げる。その威力を目の当たりにした後では、素直に殴らせてはくれないようだ。


「それでは、鉄壁だな。太刀打ちできない」


 アースカトロジーがそう言うと、周りの木々の間から、複数のアースカトロジーが姿を現す。

 どれも偽物だ。しかし、どれが本物かわからない。さっきまでいたのが本体とも限らない。こうやって体力を消耗させるのが、狙いなのだろう。


「どれが本物か、わかるか?」


 ティーコに耳打ちすると、ティーコは首を横に振った。

 ティーコでもわからないとなると、本物を見分ける術は大志にない。そんなものがあるのかも、不明である。せめて、ティーコの範囲を広げられればいいのだが。


「その千冠ってのは、どうやれば強化できるんだ?」


 能力だったら、勃起すれば能力の強化につながる。そういったものが、あるはずだ。

 しかし、ティーコは口を閉ざす。

 この反応は、ないのだ。ティーコの能力は、これで限界ということである。


「強化できないとなると、どうするか。さすがに全てを相手にするのは、つらいな」


 大志がアースカトロジーと睨み合いをしていると、ティーコが大志の服を引っ張った。

 何か思いついたのかと見てみると、そこには顔を真っ赤にしたティーコがいる。ティーコの背は、レーメルよりも低い。レーメルに匿ってもらったというから、きっとレーメルよりも年下だ。つまり、大志と同じか、それ以下である。



「……ある。けど……」


 と言ったものの、ティーコは目を伏せてしまう。そこまで絶望的な方法なのだろうか。

 大志はティーコにまっすぐと目を向け、じっと言葉を待った。


「は……は……」


 ティーコは言葉を捻り出そうと頑張る。しかし、その肩は震えていた。


「怖いのなら、いいぞ。苦しめてまで、頑張ってほしくない」


 すると、ティーコは顔をあげ大志に目を向ける。

 その目は、潤んでいた。泣くほど怖いことをさせようとしていたのである。


「ティーコが嫌なら、しなくていい。ここは俺が何とかする」


 大志がそう言うと、ティーコは首を横に振って、袖で涙をぬぐった。


「緊縛様は、ハーフエルフである私を受け入れる?」


「えっと、受け入れるも何も……こう言うとあれだが、俺はエルフとか人間とかよくわからないんだ。魔物との戦いも知らないくらいだ。……だからまあ、俺はみんなが笑って生きられれば、それでいいと思ってる」


 それでも、ティーコの表情には恐れの色がある。

 ティーコは今まで、人でもなくエルフでもない、いわば人種とは呼ばれない立ち位置にいた。

 だからこそ覆面で顔を隠し、本当の自分を隠し、ただひたすらに隠れていたのである。しかし、それでティーコが笑えるはずはない。


「なんで……笑うなんて……」


「かつて俺は、たくさんの命を奪った。無力で無能だった俺は、ほんの少しの命しか救えなかった。……それからも俺は何の努力もせず、自分の罪を忘れようとしていたんだ。もう、誰も傷つけない。傷つけさせない」


 大志の拳に力が入り、胸が苦しくなった。呼吸も乱れ、あの時の伊織の姿が脳裏をよぎる。

 あの八人はもっと苦しかったはずだ。大志さえいなければ、感じることはなかった苦しみである。


「これは俺の……自己満足でしかない罪滅ぼしだ。今の俺も、無力で無能でしかないが、それでも苦しんでいる人がいるのなら、助けたい。ティーコが苦しんでいるのなら、俺はティーコを助ける」


 言い終わる頃には、ティーコはまた涙を流していた。

 人にもエルフにも嫌われるティーコには、今まで居場所がなかった。だから、大志がつくる。ティーコが笑える場所を、つくるのだ。


「……くる、しい。もう、苦しまなくて、いい……」


「そうだ。ティーコは、人でもあり、エルフでもあるんだ。(けな)されていい理由なんてどこにもないんだ」



「助けてくれる……。なっ、なら、助けたい……」


 ティーコは呟き、スカートをたくし上げる。

 白くて細い足に白い下着。黒い服に包まれた中は、どこもかしこも白かった。


「な、何をしてるんだ……?」


 困惑の声を出すと、ティーコは目を固くとじる。


「こっ、興奮……千冠の、強化……」


「興奮すると、千冠が強化されるってことか?」


 ティーコは固く目を閉じたまま、首を縦に振った。

 しかし、ティーコはスカートをたくし上げて興奮するのだろうか。

 大志がその下着を凝視していると、ティーコはうっすらと目を開ける。


「さわって……」


 その言葉に、大志は後ろに倒れそうになった。

 なんとか手で支えて横転は免れたが、目の前に突きつけられた現実は変わらない。


「さわって!」


 ティーコは顔を真っ赤にして、潤んだ眼で訴えてくる。

 だが、そんなことをすれば、逆に大志が訴えられてしまう。


「俺たち、まだ会ったばかりだぞ?」


「緊縛様になら、いい。そのかわり、助けて……」


 いくらいいと言っても、理恩が許してくれない。

 しかし、ここで手を(こまね)いていては何も始まらない。手袋の制限時間が切れてしまうかもしれない。


「愛してる。だから、許してくれ」


 大志は理恩にそう告げ、手袋を外した。

 そして素手で、ティーコの太ももを撫でる。


「んんぅッ……」


 ティーコは声の漏れないように口を閉じていたが、我慢できなかったようだ。

 大志は内側へと手を滑り込ませ、ティーコの表情の変化をたしかめる。

 ぷるぷると閉じられたまぶたを震わせて、今にも開いてしまいそうだ。


「落ち着いて。深呼吸しよう。吸ってー、吐いて―」


 大志の言葉にあわせ、ティーコは深呼吸をする。すると落ち着いたのか、さっきよりも肩の力が抜けたような気がした。

 なので、目前にあった白い太ももを舐めあげる。


「ひゃァっ!」


「大丈夫だ。俺に、すべてを委ねて」


 大志は指を滑らせ、ティーコの腹部を撫でた。腹の横を滑らせ、脇まで手を伸ばす。そしてそこから胸の輪郭を添うように腹部へと滑らせた。

 もう片方の手は、下着の上部に潜り込ませ、左右に動かす。


「あっ……んっ、ぅ……」


 よくわからないが、感じてくれているのだろうか。

 不安になりつつも、大志は手を動かすしかなかった。


「ほぉら、もっと感じて」


 目をつぶるティーコの耳元で囁き、下着を半分だけおろす。


「そっ、んなぁ……んぁ……」


 下半身を攻める手を、丘へと滑らせた。

 そして上半身は、わずかなふくらみの上を滑らせる。だが、絶対に先端には触れない。知り合ったばかりの男に触れられれば、ティーコがきっと悲しむからだ。


「かわいいよ……もっと感じて……」


 耳元で囁き、そのまま耳を舐める。そして、尖った尖端を唇で挟んだ。

 すると、ティーコの漏らす鼻息が目立ち始める。


「いいよ。かわいいよ。もっと、大胆になっていいんだよ」


 ティーコは震える手で、大志とは反対の胸を触った。

 そして激しく先端をこねくり回す。


「あァッ、あ、んぁ、はっ……な、なにか、がァッ」


 ティーコの呼吸は乱れ、一心不乱に自分を攻め続けた。

 しかしそこで大志は手を止め、ティーコの手を服から引き抜く。

 ティーコの顔は真っ赤に染まり、その目は虚ろにどこかを見ていた。発情した目である。



「これだけ興奮すれば、大丈夫か?」


 けれど、ティーコからの返事はなかった。

 大志の手から逃れようと、必死に身体を動かす。可哀想だと思うが、気持ちよくなってしまっては困るのだ。


「ティーコ、そのまま我慢してくれ」


 すると、ティーコの身体から力が抜ける。

 大志が手を放しても、ティーコが暴れることはなかった。


「いい子だ。ずっと我慢だぞ」


 周りを見ると、大志たちを囲んでいた木はなくなり、大きな広場ができている。

 そしてその先に、大志たちを見て震えるアースカトロジーの姿があった。

 ティーコの千冠がどの程度まで広げられたのかわからないが、アースカトロジーの先に太い道が続いているということは、だいぶ先まで範囲が広がったと考えていいだろう。


「我慢、します……」


 ティーコは下着をあげ、服を正した。

 ティーコの頭を撫で、大志はアースカトロジーに足を進める。


『ちょっと! 手袋忘れてるよ!』


「もうこいつに、そんなのはいらない」


 大志はアースカトロジーの腹を殴った。しかし相手はオーガ。大志の拳が敵うはずがない。

 大志は拳を抱えて、身体を丸める。


『こっちも痛いの、忘れてるの!?』


「そういえば、そうだったな。だが、もう少し我慢してくれ」


 諦めずに立ち上がり、もう一発殴ってみたが、やはり頑丈な肌に拳がダメになってしまいそうだ。

 そんな大志に呆れたのか、アースカトロジーはため息を漏らして、その場に座りこむ。


「あの破壊力は、手袋に秘密があったのか」


 すでにアースカトロジーからは戦意を感じられない。

 能力を失ってしまえば、アースカトロジーもただのオーガなのだ。


「これで、降参してくれたか?」


「ああ……最期は、粉々に砕いてくれ」


 そう言って、アースカトロジーは大の字で寝そべる。

 その顔は、満足そうであり、けれどもどこか悲しそうであった。



「そんなことはしない。俺は、誰も傷つけたくない」


 大志は、寝そべるアースカトロジーの横に座る。

 情報を見てみたが、アースカトロジーは人を恨んでなどいなかった。主派だったのである。しかし、長が新しくなった途端に人への憎悪や嫌悪が生まれ、長派になった。


「おかしなやつだ。戦う気すら、なくなってしまった」


 アースカトロジーは、頭に生えていた角を掴むと、取り外す。


「それ取れるのかッ!」


「この角が、能力と言語を与えてくれた。残りの四天王にも角がある」


 アースカトロジーから角を受け取り、情報を見た。

 この角をつけると、土を操る能力と人種が用いる言語を習得できる。そして、この角をつけた者を操る能力まで付与されている。アースカトロジーは、何者かに操られていたということだ。


 チオのような能力を持ったものが、主犯ということである。


「この角は、誰からもらったんだ?」


「長だ。名前も姿も思い出せない。なぜ、従っていたんだ……」


 操られていることに、自覚はない。

 オーガにそんな能力を持ったものがいるとしたら、危険だ。角さえつければ、オーガを操れる。大勢で襲われれば、抗える人は少ないはずだ。


「わかった。もう、敵じゃない。それがわかっただけで、十分だ」


 大志は空間の穴を開き、カマラにいるアイスーンへ繋げる。

 しかし、そこにいたのはアイスーンであり、アイスーンではなかった。



「なぜ、こんなことに……」


 アイスーンは自らの胸に手を当て、ため息を吐く。


「僕は男なんだ……」


「そうだな。だから、そろそろ気づいてくれ」


 アイスーンのすぐ前に開いたのだが、目をつぶっていたためアイスーンは気づきもしなかった。

 そのため、アイスーンは大志の突然の言葉に、目を丸くする。


「い、いつから、そこに……」


「ちょっと前からだ。それより、話があるんだ」







「オーガが人と?」


 オーガが人との共存を望んでいるなんて、怯えていた人たちからしたら簡単に信じられる話ではない。

 しかし、初めは驚きはしたものの、アイスーンはすぐに頷いた。


「そうか。君が言うなら、本当なのだろう。しかし、一朝一夕で解決するような話ではない。かつて戦った相手だからね。僕たちが許しても、他の民が納得してくれないだろう」


「戦ったって言っても、昔だろ?」


 それがいつあったのかは知らないが、今も戦っているわけではない。

 アースカトロジーをアイスーンに見せ、肩を叩く。


「人を襲う心配もない。だから、大丈夫だ」


「君にはそれがわかるけど、他の民にはわからないんだ。それが恐怖となり、さらに君の望みは遠くなるだろう。それにもしかしたら、君まで疑われてしまうかもしれない」


 アイスーンは空間の穴を通して、アースカトロジーに触れた。

 アースカトロジーはそれに対して何もせず、ただアイスーンの手が離れるのを待つ。


「これが誘拐犯かな?」


「いや、こいつは操られていただけだ。まだ詩真は取り返してない」


「操られていた……って、まさかまたチオの仕業かい?」


 やはり操ると聞くと、チオのことを思い出してしまうようだ。

 アイスーンは眠っていただけだったが、それでもチオのしていたことは聞いて知っている。


「いや、チオとは違うと思うんだ。ところで、これを見てくれ」


 大志は角を取り出し、アイスーンに手渡した。


「こいつをどう思う?」


「すごく……異質だね……。これはどこで手に入れたんだい?」


「詩真を攫ったオーガたちは、この角をつけてるらしい。俺の能力で調べたら、どうやらこれをつけた者に、人並みの言語と土を操る能力を与えるっぽいんだ。そして、それをつけると、何者かに操られる」


 アイスーンは頭につける部分を触っているが、角に変化はない。

 何者かの能力によって作られた角なのか、それとも何かの角に能力を付与させただけなのか。


「能力と引き換えに、精を持っていかれるというわけだね」


「まあ、能力をたくさん持ってると便利だよな。アースカトロジーの元々の能力は何なんだ?」



 アースカトロジーに目を向けるが、返事はなかった。

 そこまで言いづらい能力なのか。それとも言うほどの能力じゃないと、謙遜しているのか。

 するとそこに、ティーコがやってきて、大志の服を引っ張る。


「どうした?」


「あの……『能力』って、人特有の力……」


「人特有?」


 ティーコが頷くので、アイスーンに顔を向けると、アイスーンも頷いた。


「君の場合、知らないのも無理はない。『能力』とは人に与えられた奇跡のような力のことなんだよ。人種の中でも、人にのみ与えられたもので、人は生まれながらに『能力』を持っている」


「じゃあ、オーガやエルフやゴブリンも、能力がないってことか?」


「突然変異で、人以外にも能力持ちが生まれることはあるらしい。でも、ごくわずかだ」


 それではまるで、人だけが特別扱いされているようである。

 同じ人種の中でも、エルフやゴブリンにないものが、人だけにはあるなんて、あまりにも理不尽だ。


「理由はわかってるのか?」


「いいや。でも、人は古くから特別な存在だったんだ。それはまた、時間があるときにゆっくり話そう」


 そこでアイスーンの視線は、大志からティーコに移る。

 ティーコはアイスーンに内緒で空間の穴を通り、サヴァージングへと侵入していた。


「ところで、ティーコはなぜそこにいるのかな?」


「ティーコは俺の危機に駆けつけてくれたんだ。ティーコがいなかったら、死ぬところだったんだ」


「そんなに厳しい相手なのかい!? 増援に向かいたいところだが、僕はここを離れられない。君が危険だというのに、残念だよ」


 アイスーンだけではない。海太とイズリとバンガゲイルはディルドルーシーに行っているし、レーメルはルミセンの護衛、ヘテたちは行方不明。それに、ポーラに来てもらうわけにもいかない。ポーラの能力はメリットと共にデメリットが大きい。お互いに能力を封じられれば、不利なのは大志だ。


「それは仕方ない。もしも危険だと思ったら、逃げるから大丈夫だ」


 そのためには目を塞がれないように、注意をしなければいけない。

 角はアイスーンに預かってもらい、アースカトロジーは主派の集落へと向かわせる。


「……よし。行くか」


 落としていた手袋をはめ、大志と理恩とティーコは先へと進んだ。



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