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逆転転移のカタルシス  作者: ビンセンピッピ
第一章 始まりの異世界
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1-6 『脱出は最良の選択だった』


「鍵を見つけたってんよ!」


 レーメルに睨まれていると、海太が目覚めた。しかし海太の目は、光り輝いている。まるで中に電球でも入っているんじゃないかというくらいに明るい。

 海太自身はそれに気づかないようで、唖然とする一同の顔を見回す。


「どうしたってん? 見つけたってんよ!」


「あ、ああ……それより、その目は何があったんだ?」


「目がどうしたってん?」


 指摘しても、海太は目の異変に気づかない。

 さすがに変だ。目が光っていたら、眩しいだろう。まさか盲目になったわけでもないはずだ。


「それよりも鍵だってん!」


 目の中にあった光源が、外へと飛び出る。そして二つの光源は一つに合わさり、形を生成し始めた。細長い棒状の先に、凹凸がある。


「これだってん! これが鍵だってんよ!」


 海太の光から作り出されたそれは、実体がある。海太の手から離しても、それが消えることはない。鍵だというそれを手に取り、その鍵の情報を得た。

 カマラ牢獄の鍵。海太の勃起した能力により複製された。


「勃起した能力……?」


「なるほど。ここで勃起したのかみゃん」


 レーメルは感心したように頷く。しかし、大志たちにとっては意味がわからない。つい海太の股間に目がいってしまうが、これも絶頂と同じで、この世界での意味は違うはずだ。


「勃起って何だ?」


 女に聞くような質問ではないと思いながらも、レーメルへと疑問を投げかけた。

 しかしレーメルは目を伏せるだけで、答えようとはしない。さすがに下品だっただろうか。


「勃起とは、一時的に能力が強化されることです」


 レーメルの返答を待っていると、代わりにイズリが答えた。

 能力の強化。つまり海太の投影が強化され、その能力で鍵が作られたわけである。強化されたことにより、投影ではなく複製ができるようになったのだ。


「これは、それのせいだってんな」


 格子の隙間から手を出し、鍵穴に鍵を挿そうとする。しかし手がうまく回らない。手を出しただけで、動かせなくなった。


「私に頼んでよ!」


 格子の向こう側に理恩が現れ、頬を膨らませる。

 空間移動で一人だけ格子の外に出たということだ。理恩も勃起して能力が強化されれば、能力者以外も移動できないだろうか。


 しかし今は脱出の鍵が手の内にある。これを使わないのはもったいない。

 すると輝いていた鍵は、だんだんと光を失う。


「まずいみゃん! 勃起が治まりかけてるみゃん!」


「治まるとどうなるんだ?」


「その鍵は勃起してるからあるものみゃん! 勃起が治まれば、なくなるみゃん!」


 せっかく誰にも見つからずに手に入れた鍵だ。これを失うわけにはいかない。

 理恩は鍵を穴へ差し込み、回す。すると扉が開いた。そして解錠すると同時に、鍵も姿を消す。







 外に出ると、町の修復作業が進んでいた。ギルドは関係なく、そこにいる誰もが作業を手伝っている。そしてその中に、アイスーンの姿もあった。

 アイスーンは大志の姿を発見すると、大きく手を振る。


「姿が見えないと思っていたが、やっと見つけたよ」


「何か用か?」


 手を握られ、少しどきりとしてしまう。けれど、動揺はしていても情報はしっかりと盗んだ。大志たちが捕らえられたことに、アイスーンは関与していない。


 アイスーンに引かれ、被害の大きかった町の入口へと連れて行かれる。

 町の復興は早く、壊れていた家や道がすでに直りかけていた。どうやら修復に特化した能力を持った人物がいたらしい。


「一人ひとりが君に感謝を言いたいと言っていてね。手間だろうけれど、いいだろうか?」


「……少しなら、いいか」


 逃げたのが気づかれる前に、物流ギルドの男と合流してカマラを脱出したかった。ここにいれば、いつまた捕らえられるかわからない。

 だが、少しくらいならいいだろう。それに、物流ギルドの男と合流できるかもしれない。


 住民たちはとても親しげがあり、優しかった。中には食物を分け与えてくれる人もいる。ヤバイモの干物や、ユリアーズという体力を回復させるものがあった。


「いろいろもらって、ありがたいな」


「そうね。よくわからないけれど、ありがたいわ」


 詩真だけは、オーガが大志に従っていたことを知らない。だが、今さら話す必要もないだろう。


「アイスーンは、偉いのか?」


 アイスーンは他の誰とも違うオーラを放っている。しかしそれは、恐怖や憎悪を感じさせるものではない。アイスーンといると、まるで母に抱かれる子供のような安心感があった。


「僕はカマラで戦闘ギルドの長をやってるだけだよ。偉くなんてないさ」


 軽く笑われ、アイスーンにまた手を引かれる。

 早くサヴァージングに行きたい大志にとっては、思いがけないタイムロスだ。




「どうかしたみゃん?」


 アイスーンに連れられるまま歩いていると、レーメルにそう聞かれてしまった。どうやらアイスーンに手を引かれてから、ずっとレーメルを見てしまっていたようである。大志はそんなつもりではなかったので、不思議だ。

 頭を振り、前へと視線を戻す。そしてしばらくすると、今度はイズリに同じ質問をされてしまった。


「何でもない。気にするな」


「何か気になることがあるのなら、言ってください。逆にこちらが気になりますので」


 アイスーンに引かれるまま、町と森の間に立てられた壁を伝い、別のアクトコロテンの門へと辿りつく。そこでは、物流ギルドの男が荷車を構えて待っていた。


「君たちはサヴァージングに行きたいようだね。この先が、そのサヴァージングだ」


「なんでそれを知ってるんだ?」


 するとアイスーンは、握っている手を上げる。アイスーンの能力により、大志とアイスーンの意識が同一のものとなっているのだ。

 レーメルとイズリへ無意識に顔を向けていたのは、そのせいである。


「君の考えは丸わかりだよ」


 アイスーンはにこっと微笑む。

 その仕草に、大志は不覚にもどきりとしてしまった。すると、アイスーンまで頬を赤く染める。


「なんか変態的な能力だよな、それ」


「君の能力ほどじゃないよ」




 大志たちはカマラを救ったとして、物流ギルドの荷車に隠れていたことを、今回だけは目をつぶってくれるという。

 早速、荷車に乗り込もうとすると、それを物流ギルドの男に止められた。そして男は大志の胸ぐらを掴み、地面へと叩きつける。


「君たちは仲間じゃないのか!?」


 アイスーンは地面に横たわる大志を心配しながら、物流ギルドの男を一瞥する。

 たしかにカマラまで荷車を引いてくれていた男だ。しかし、今は明らかな敵意を向けている。


「フェインポスを持ち込んだ罪人を、見逃すわけねえだろ!」


 周りにある建物の影から、刀を持った男たちが出てくる。

 アイスーンもこの状況を理解できていないようで、起き上がった大志と背を合わせた。

 レーメルと海太も、詩真と理恩を守るように態勢を整える。


「フェインポスは危険な薬物だ。しかし君は、それを知らないようだね」


 こんな状況でも、アイスーンの声には焦りの色が見えない。さすがは戦闘ギルドの長だ。レーメル同様、戦いには自信があるのかもしれない。


「知るかよ。まだわからないことばかりだ」


 この状況からどう切り抜けるか。考えた時には、すでに動いていた。

 アイスーンとレーメルも、動き出す。レーメルの能力により、刀を持つ男たちはレーメルを気にしてしまうようだ。そのおかげか、男たちの持つ刀も怖くない。


「ここは僕に任せて、君たちはアクトコロテンを進むんだ!」


 アイスーンは次から次へと流れてくるように襲いくる男を、舞うように倒していく。しかしそれでも多勢に無勢。このままでは押し切られてしまう。


「いや、でも……」


「僕は大丈夫だよ。だから、進んで!」


 アイスーンは倒れている男から刀を奪い、アクトコロテンへの道を切り開いた。

 ここで逃げれば、逃走を手助けしたとしてアイスーンは罪に問われる。だが、逃げなければ、アイスーンの想いがムダになる。


「君は悪いことなどしていない。なら、胸を張るんだ!」







「いったい何なのー!」


 理恩の叫び。しかし、それはここにいる誰もが思っていることだ。

 薬物を持ち込んだ罪で捕らえられていたらしいが、そんなものは知らない。他の誰かと勘違いしているのだ。


 アクトコロテンの白い道はどこまでも続いている。サヴァージングまでは、まだまだ時間がかかるようだ。カマラまで荷車に乗っているだけだったせいか、走るのがつらいと感じる。


「理恩はいいよな。空間移動があるもんな」


「一人で先に行くのは、さすがに嫌だよ……」


 アイスーンの恩恵でカマラを出ることはできたが、サヴァージングにつけばきっとまた捕まる。今度は身に憶えのない罪ではなく、戦闘ギルドがアクトコロテンを使ったという罪でだ。アイスーンは大丈夫と言っていたが、カマラを出ればアイスーンの言葉は何の権力もない。


「てめえら、逃がさないぜ!」


 物流ギルドの男だ。さすがにアイスーンだけでは、防ぎきることはできなかったようだ。

 男の能力は脚力増強。走ることに特化した能力で、物流ギルドのための能力といってもいい。運ばれている時は便利だったが、追いかけられると恐怖そのものだ。

 レーメルが足を止め、大志たちに背を向ける。


「行くみゃん! ここは引き止めるみゃん!」


「そんなのできるかよ!」


 大志は引き返って、レーメルを抱えて再び走り出す。

 レーメルはギルド長であって、ギルドメンバーを守る責務があるが、ギルド長である前に女だ。それを一人置いて逃げられるわけがない。


「あんなのに引けは取らないみゃん!」


「それはわかる」


 レーメルは強い。実力を見なくても、大志にはわかる。

 だからといって、残してはいけない。これがレーメルの能力のせいなのかはわからないが、それでもこの気持ちがある限り、レーメル一人だけにつらい思いをさせたくない。


「なら、なんで任せてくれないみゃん!?」


「そんなの……わかるかよ。レーメルを抱えたいと思ったからだ」


 しかしこのままでは追いつかれてしまう。相手の動きを止める能力は、イズリの呪いにあるが、この状況では使い物にならない。

 もうダメなのか。そう思ったときだ。アクトコロテンの横にある森から複数の足音が聞こえ、木々の隙間からオーガが顔を覗かせる。今まで通りに森で暮らせと言ったのに、なぜアクトコロテンにいるのか。

 しかし、好都合だ。


「オーガ! 足止めをしろ!」


 すると返事はなかったが、複数のオーガが壁となった。さすがの男も、オーガを前にして静かになる。まさに九死に一生を得たというやつだ。

 オーガたちに礼を言い、再びサヴァージングに向けて走り出す。


「さっ、さっきのは何なのよ!」


「あ、詩真には言ってなかったな。なんかよく知らないが、オーガを従える力があるっぽい」


 その後も詩真は何か言っていたが、すべて無視した。走りながら喋るのはつらいのである。

 海太や理恩もまだ信じていないのか、時折、うしろを気にする。しかしそんなことせずとも、大丈夫だ。




 やがて、豪華な装飾のついた人力車が見えた。町を繋ぐアクトコロテンなのに、今まで誰ともすれ違わないのが不思議に思っていたところである。しかしそれにしても、ゆっくりだ。


「おい、大丈夫か?」


 覗き込む。するとそこには、やけに渋い顔をしたおっさんがいた。

 そして、そこには一人の幼い女の子が乗っていた。白い髪にふわっとしたスカート。そして手には、どこかで見たぬいぐるみ。


「タイシ様!」


 その幼女は、なぜか大志の名を呼び、飛びついてくる。


「何なのかしら、その子は?」


「何って言われてもな……。まあ、察してくれ」


「どう察せっていうのよ!」


 幼女の名はラフード・ルミセン。町で助けた時よりも、だいぶ幼くなっている。どういう原理かは知らないが、この世界ではそれがありえてしまうのだろう。

 怒りの声を上げる詩真とは反対に、人力車を引いていた男は笑った。


「友達ですかな?」


「タイシ様は、ルミの命を救ってくれたの!」


 ルミセンに誘われ、人力車に乗せられる。そして座ったのを確認すると、人力車は動き始めた。ゆっくりと、ゆっくりと。

 大志とルミセン以外は乗せてもらえず、人力車の隣を歩いている。


「ねえねえ、タイシ様!」


 まるで旧友にあったかのように喜ぶルミセンは、大志の腕に抱きついた。

 好意を寄せる相手を邪険にしたくないが、さすがに歩行者からの視線が痛いので、離れてもらう。


「タイシ様は、大きいのと小さいのなら、どっちが好きなの?」


「大きいのが好きだな。何がとは言わないが」


 理恩が睨んでいると、見なくてもわかる。けれど、理恩について話をしているわけではない。だから、睨まれる筋合いはないはずだ。

 そして再びルミセンの姿を確認すると、そこには幼い姿はなく、大人の女が座っている。


「こんなのが好きなの?」


 声でわかる。隣の大人はルミセンだ。顔にもどこかあどけなさが残っている。しかし、いくらなんでも大きくなりすぎだ。かぐや姫もびっくりするほどである。

 うろたえる大志に、人力車を引く男はクスッと笑った。


「その反応は正しいですよ」


「な、何が起こったんだ?」


「これがルミの能力なの」


 ルミセンの手が、大志の手を包む。

 すると、当然ながらルミセンの情報が流れてきた。

 自分の姿を好きな年齢に変化できる。ただし、いくら幼い時の身体でい続けようと、寿命はきてしまう。また、大人になっても貧乳なら、いくら望んでも胸は膨らまない。


「その能力で、大人の身体になったってことか」


 つまり、町であった時よりも幼く見えるのは、実際に幼い姿になっているということだ。悪い商売に使えそうな能力だが、こんな純粋無垢な子がするわけない。


「何も言ってないのに、わかったの?」


「俺の能力は、触れたものの情報を得るというやつだ」


 そう言うと、ルミセンは目を輝かせる。

 どうやら今まで会ってきた人の反応から察するに、大志の能力はとても珍しいもののようだ。


「すごいの! さすがタイシ様なの!」


 ルミセンが抱きついてくる。大人になったルミセンの胸は、なかなかの大きさだった。それが大志に押しつけられる。柔らかく、最高だ。能力の効力で、服も大きくなる。しかし、ないものが生まれるわけはない。つまりルミセンの胸を包むものは、布一枚だけだ。

 ルミセンの背に手を回し、強く抱く。


「あぁっ、んっ、タイシ様……」


「ルミセン! ルミセンっ!」


 ここまでの幸福感を得たのはいつぶりだろう。

 詩真も大志に対しては寛容というよりか、何でもしてくれていた。だが、ルミセンは詩真とは違った何かがある。ルミセンには、大志を丸ごと包み込んでくれるような包容力があった。


「何をやってるの?」


 虚空から現れた理恩の手が、大志の頬をつねる。

 理恩にないものを堪能していたところだ。邪魔をされれば、大志だって怒る。

 しかし見れば、理恩の他にも詩真や海太まで冷たい目を向けていた。イズリは興味なさそうにしており、レーメルは頭を抱えている。


「わかったって……」


 仕方なく、ルミセンの身体を離す。ルミセンは不満そうな顔をするが、仕方のないことだ。ルミセンもいいが、イズリと比べれば大きさでは劣ってしまう。

 するとルミセンは、元の幼女の身体に戻ってしまった。


「ところで、タイシ様は戦闘ギルドの人なの?」


「まあ、一応な」


「なら、なんでアクトコロテンの中にいるの?」


 あまりに気分が高まりすぎて、うっかり忘れていた。ここは戦闘ギルドの立ち入りが禁止されている。そこで会ってしまった。もう、言い逃れはできない。

 大志はあまりに動揺してしまって、人力車から転げ落ちてしまう。そして打ち所が悪かったのか、気を失った。



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