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逆転転移のカタルシス  作者: ビンセンピッピ
第二章 戦慄の世界
51/139

2-25 『重なる二人の身体』


「じゃあ、誰が伊織を……ッ!」


「13人目が本当にいるのかもしれないわね」


 13人目が、伊織を殺した。だとすれば、小路がいる時から、その13人目は身を潜めていたことになる。

 そこまでして、殺す理由があった。しかし、伊織と湊はここに来るまで知り合いですらなかった。そんな二人に関係している誰かがいる。


「大志、怖いよぉ……」


 震える理恩の肩を抱いた。

 13人目は、きっとまだ潜んでいると考えていいだろう。


「俺がいる。だから、安心しろ」


「見せつけてくれるってんなー」


 煽ってくる海太を無視し、モニターに目を向けた。

 ここにいれば、ひとまず安心である。見張りが寝なければ、の話だが。


「四時間ごとに見張りを交代する。その間に仮眠してくれ」


 最初の見張りは、大志と海太だ。

 そして理恩と詩真は眠りにつく。だが、四時間で起こされるのは、きっと苦痛のはずだ。理恩が寝ていたいと言ったら、理恩の分も頑張るか、と心に思う大志であった。







「二条さんと寝たいってんよぉ」


「頼んでみろよ。きっと断られるだろうがな」


 夜も更け、眠さのあまり考えていることを抑えていられなくなった。

 海太もさっきから桃華の話ばかりしている。


「桃幸になりたいってんよぉ。二条さんにお世話してもらいたいってんよぉ」


「子供じゃないんだから、お世話はしてもらうなよ」


 桃幸になれば、シャワーにしろトイレにせよ、桃華が手伝ってくれるが、海太はそれを望んでいるということだろうか。桃華に好意があるのかと思っていたが、ただあやされたいだけなのか。


「二条さんの水着可愛かったってんなぁ」


「そうだな。だから、桃華の話はやめろよ」


 モニターに変化はない。

 いつ攻めてくるかわからないので、気を緩められない。


「二条さんは、天使だってんよぉ」


「桃華は人間だぞ」


 眠さで目を細める海太を殴る。ここで眠られたら、困るのは大志だけではない。


「いってぇ。そろそろ寝たいってんよぉ」


「なら、詩真に頼んでみろ」


 海太は重たい腰をあげ、詩真に手を伸ばした。

 しかしその手は、ふと止まる。そしてその手はゆっくりと詩真の膨らみに触れた。


「ふぁあ、柔らかいってん……」


「起こせよ」




「あんな起こされ方したら、うずいちゃうわ」


「だからって、襲うなよ」


 海太に胸を揉まれ、それで目を覚ました。

 おかげで詩真は欲情している。そして当の海太は、ぐっすり眠ってしまった。

 大志は、理恩を起こすことができず見張り継続だ。


「私と、いいことしましょうよ」


「そんなことできるか。見張りをするので精いっぱいだ」


「じゃあ、私が悪いことしてあげるわ」


 伸びてくる詩真の手を、叩き落す。

 もしも理恩にもこんなことをしたと考えると、交代しなくてよかった。


「少しは抑えろ。嫌われるぞ」


「……仕方ないわね」


 そう言って、詩真は服を脱ぐ。

 それで治まるのなら仕方ないかと、大志は服を脱いでいく詩真を見守った。


「そんなに気になるかしら?」


「まあ、よくもそんな簡単に脱ぐよなって思っただけだ。俺だったら無理だ」


「脱ぐと気分がいいのよ。あぁッ、見られてる……見られてるわ……ッ」


 詩真は自分の胸を揉んで、喘ぎだした。

 何が詩真をそこまで高ぶらせるのか。自然と大志は手を伸ばしていた。


「あぁんッ! そうっ、そうよッ!」


 大志の手は、柔らかなものに触れている。

 こんなところを理恩に見られていたら、申し開きすることもできない。


「やっぱり柔らかいな」


「んふふ……ここは、硬いわよ」


 詩真の手が、大志の股間を撫でた。


「触るな。妙な気を起こしたら、どうするんだ」


「私は構わないわよ」


 変態と一緒にいると、変態になってしまいそうである。

 詩真の胸を揉んでしまっているのも、それの影響だ。胸から手を離し、大志は壁に背を預ける。


「こっちは構うんだ。俺には理恩がいる。理恩を悲しませることだけはしたくない」


「それなら、胸を触ったのはまずかったわね」



 大志は妙な気配を感じ取り、その方向へ顔を向ける。

 するとそこには、身体を横にしたまま目を開けている理恩がいた。


「お、起きてたのか。いつから……?」


「揉んでるあたりかな。大志は、大きいのがいいの?」


 理恩は身体を起こし、大志へと歩み寄る。


「な、何言ってるんだよ。理恩がいいに決まってるだろ」


「なら、どうして揉んでたの?」


「あれは詩真に揉まされたんだ。だから、俺の意志じゃない」


 近寄ってきた理恩を抱き寄せ、頭を優しく撫でた。

 今は理恩を守ることだけ考えていたい。それ以外のことに時間を割く暇はない。


「ほ、本当に?」


「俺が理恩に嘘ついたことなんてなかっただろ。だから、信じてくれ」


「うん。大志が言うなら、そうなんだね。疑ってごめんね」


 なんとか誤魔化せた。

 そして理恩が満足するまで、頭を撫でる。こんなことで機嫌がとれるなら、いくらでもやれる。


「理恩が笑ってくれれば、俺はそれでいい。理恩が一番だから」


「うん。じゃあ、大志は眠っていいよ」


 理恩の微笑みに、素直に頷くことはできない。


「俺も起きてるよ。詩真に理恩が襲われないか心配だからな」


「あら、よくわかったわね」


「する気だったのかよッ!」


 やはり起きていて正解だった。

 たとえ詩真にだとしても、理恩が襲われるのは嫌なのだ。



「と、ところで、なんで脱いでるの?」


 理恩が、やっと詩真の裸について訊ねる。

 しかしそこに理由なんてものはないはずだ。ただ脱ぎたくて脱いだのだから。


「脱ぐと、興奮するわ。脱いでみたら、どうかしら?」


「こ、ここで……?」


 理恩は頬を染め、大志の顔をうかがう。その目には、迷いの色があった。

 そして自分の服を握るものだから、大志は理恩を止める。


「脱ぐなよ。絶対に脱ぐなよ」


「ほら、大志も脱げって言ってるわよ」


「たっ、大志がそう言うなら……」


 理恩には大志の声が聞こえていないのか、大志の手を払って脱ごうとする。

 理恩まで変態の瘴気にやられてしまったのか、正常な判断ができないようだ。


「脱ぐなって言ってるんだ。理恩はそのままでいてくれ」


「……それは、脱いでも魅力がないから?」


「なんでそうなるッ! 俺にとっては、理恩の全てが魅力的だ。だから、その魅力を独り占めしたいんだ。わかってくれ」


 たとえ嘘でも、理恩の変態化だけは阻止しなければならない。本能がそう叫んでいる。

 すると理恩は静かになった。なんとか治まったようである。


「わかった。私の全ては、大志のモノなんだね」


「妙な言い方をするなよ」


 それでは、大志が何か悪いことをしているようだ。

 大志はため息を漏らし、モニターに目を向ける。まだ異変はない。


「じゃあ、私は誰のモノなのかしら?」


 詩真が、そんなどうでもいいことを聞いてきた。だが、大志が知るはずもない。

 海太と言えば、そこで話は終わる。けれど、海太には桃華がいる。


「……みんなのモノでいいんじゃないか」


「み、みんな、の……え、えひぇひぇ……い、いいわね」


 詩真は何を思ったのか、自分のをいじり始めた。

 大志は手で理恩に目隠しをする。理恩に影響を与えてしまったら、大変だからだ。







「いい朝だってんなー」


 朝が来て、海太が目を覚ます。

 しかし、外は曇っていた。とてもいい朝とは言えない。


 この部屋には、13人目がこなかった。四人とも無事に、朝を迎えることができたのだ。


「こっちは、大変な夜だったぞ」


 詩真に服を着せたり、詩真から無駄な知識を聞かされたり、散々だった。顔を真っ赤にして聞く理恩が可愛かっただけで、それ以外に大志にメリットがなかった。


「何があったってん?」


「まあ、いろいろだ。二人とも、緊張していたのかもな」


 理恩と詩真は、ぐっすりと眠ってしまっている。中途半端に寝たのが、悪かったのだろうか。

 理恩の髪を撫でると、もごもごと口を動かした。


「ふ、二人に何したってん……?」


 ただ眠っているだけだ。まさか、薬でも盛ったと思われているのか。

 しかしそんなものを持っているはずがない。この部屋に怪しいものがないことは、昨夜に確かめた。


「何もしてないぞ。ただ眠くなっただけだろ」


「つ、疲れるようなことを、二人にさせたってん?」


 海太は何を必死になっているのだろうか。

 それに見張りをさせていたのは、海太も知っている。今さら聞くようなことではない。


 大志は頭をかき、息を吐いた。


「まあ、疲れただろうな。でも、詩真は裸で騒いでたし、楽しかったんじゃないか?」


「な……寝ている間に何があったってん……」


 海太は膝から崩れ落ちる。

 そんなにガッカリするほどのことは何もなかった。ただ、詩真の変態に磨きがかかっただけである。


 そのせいで、大志はかっちり徹夜してしまった。眠くないと言えば嘘になるが、ここで寝ると生活リズムが崩れてしまう。

 できるだけ、理恩と合わせたい。


「それより、もう朝だ。朝食をとろう」


 理恩の肩を揺すり、詩真の尻を叩いた。


「あぁん、もっとぉ……」


 詩真が尻をあげ、振る。しかし、理恩が目を覚ましたので、代わりに海太にやらせた。

 それにしても、他の部屋も無事だったのならいいのだが、大丈夫だろうか。


「眠いよぉ」


「仕方ないな。今回だけだぞ」


 瞼をこする理恩を、お姫様抱っこする。

 見張りをしてもらっていたのだ。眠いのは仕方がない。


「ほら、詩真もさっさと起きろ。ここで一人にさせるわけにいかないんだ」


「わかったわよ。起きればいいんでしょ」


「脱ぐなよ」







「二条さーん。おはようだってん!」


「ふんっ、おはよう」


 その日も、桃華は一人だった。桃幸の自立は、うまくいっているようだ。しかし、反比例するように桃華の怒りはたまる。

 海太は桃華に返事を貰えて、嬉しそうだ。


「そっちの部屋も安全だったようだな。さすがに二人いるところは襲わないか」


「どういうこと? まだ誰か殺されるっていうの?」


「憶測なんだが、まだあると思ったんだ。でも、こんな静かな朝を迎えたんだから、きっと何事もなかったんだろ」


 それなら、安心だ。だが、まだ気を緩められない。

 13人目はどこかで大志たちを見ているはずだ。


「おーい、今日も君を見れて、僕は幸せだよ」


 階段に向かって歩いていると、剛がうしろから走ってくる。

 剛も無事だ。安堵して、胸をなでおろす。


「俺も、剛を見れてよかったよ」


「ところで、理恩はどうしたのかな?」


「寝てるだけだ。気にするな」


 理恩は寝息を立てている。それが大志の心を落ち着かせた。


「ずるいなぁ。僕も、君に抱いてもらいたいな」


「気持ち悪いことを言うな」


 大志は理恩の足を使って、剛を蹴る。

 すると、剛は床に尻をついた。


「ははっ、できれば君に蹴られたかったな」


 しかし、誰も反応せず、足を進める。

 まさか剛にそんな願望があったなんて驚きだ。これからは、近づかないようにしよう。



「ん……何か臭わないか?」


 階段をおりていると、何かの臭いが漂ってきた。

 嗅いでいたいとは思わない臭いである。


「この臭いって……」


 桃華が走り出した。それを追って、大志たちも足を速める。

 そして桃華は二階でとまり、教室の扉を見て、その身を震わせた。


「どうした……なッ!」


 そこにあったのは、恐れていたモノである。

 静かな朝だった。とても、静かな朝だった。だから、安心していた。


「これは……ひどいね」


 桑菜と愛の身体が重なり合い、それを支えるように一本の鉄パイプが中心を貫いている。

 二人の下には血の染みができていた。臭いの正体は、この血だったのである。


「なんで二人が死んでいるのよォォッ!」


 桃華のかなぎり声に、返事をする者はいない。


「桑菜は伊織を殺したんでしょ! それが、なんで殺されてるのよ!」


「それは……実は違うんだ。伊織を殺したのは、たぶん桑菜じゃなかった」


 時間的に桑菜には犯行が難しかったことを伝えると、桃華は頭を抱えた。

 そして何より、ここでこうやって殺されているのを見ると、本当に桑菜ではなかったとわかる。


「なら、誰なのよッ!」


「……やっぱり13人目がいるんだよ。君の言っていたとおりね」


 剛は重なり合う遺体を調べ、そう言った。

 大志は理恩を抱えているので、調べることができない。


「その鉄パイプか。そんなのは、見たことがない」


 桑菜と愛を貫く鉄パイプは、長い。二人を貫いても、まだ余分があるほどである。そんなものは、今まで見たことがない。つまり、小路の部屋に置かれていたものということだ。


「そうだね。どうやったかはわからないけれど、二人をここに呼びだし、そして二人まとめて貫いた。そう考えるのが妥当だね」


「考えるのは簡単だが、なぜ二人は呼び出しに応じたんだ? ただでさえ愛は、湊を失って悲しんでいるはずなのに」



 剛は二人を支える鉄パイプを抜き取り、愛の上に重なる桑菜を横に移動させる。

 すると、桑菜によって隠されていた愛の身体には、刺し傷があった。鉄パイプが刺さっていたもの以外に、胸に数か所の刺した痕がある。


「この傷は、どういうことだろうね。鉄パイプで刺す前に、別のもので刺されていたということかな?」


「そうだろうな。それを隠すために、桑菜の身体を重ねたのか」


 つまり、犯人は最初に愛を何かで刺し、殺した。そこに桑菜が現れ、見つかったため桑菜も殺した。ということだろうか。

 しかし、それなら桑菜も逃げようとしたはずだ。この場所以外に血がないのはおかしい。桑菜は、確実にここで殺されている。


「部屋に移そうか。ここに置いておくわけにはいかないからね」


 剛が愛を抱え、海太が桑菜を抱えた。

 やはり、無理やりにでも同じ部屋で寝るべきだったんだ。後悔が、大志を焦らせる。犯人を早く見つけなければいけない。







「愛は、湊と一緒に寝かせるか」


 愛の部屋には、すでに湊の遺体がある。

 愛も湊も、この部屋で共に夜を明かしていた。もう、二人が夜を明かすことはない。でも、だからこそ、一緒にいさせてあげたい。


「そうだね。それがいいね」


 剛は、湊の隣に寄り添えるように愛を寝かせる。

 きっと湊も、それを望んでくれるはずだ。


 そして桑菜も部屋で寝かし、桃幸を連れて食堂に集まる。



「……あいつは」


 桃華が、声を絞り出した。

 そして涙を流し、テーブルを今までにないほど強く叩く。


「翔よ! きっと、あいつの仕業よ!」


「……翔か。たしかに見ないな」


 部屋をノックしても、反応しない。もしかしたら、すでに部屋にはいないのかもしれない。そしていないとしたら、他のどこかに潜伏していると考えられる。


「だが、ここで何を言っても、翔が姿を現すわけじゃない。だから、これからは一緒にすごさないか?」



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