迷宮都市コーマ 2
辻魔導車が街道を走り始めてから一時間ほど経ち、那智ら三人が乗った辻魔導車は都市圏の中心、つまり迷宮都市コーマに面する沿岸に近付いていた。
この辺りになると魔導車や魔導船、道を歩く人々の姿も増えてくる。
人が密集すると魔物が襲ってくるという事情から行き交う魔導車や魔導船の密度は低いものの、その間隔は正確に一定の距離を保ち始め、出来る限りの運航計画を詰め込んでいることが窺えた。
右手には河の流れを押しのけるようにして聳え立つ迷宮都市コーマ。
実際、コーマは河を押し退けて建設されていた。コーマは幾度も埋め立てを繰り返されている。中州を拡大すれば、河の流れが変わる。埋め立て工事をする度に、河流を両側に移動させる工事が平行して行われた。よってコーマ周辺の河の流れは楕円形に膨らんでいる。
「さて、お客さん方コーマは初めてってことですから、こいつを聞いとかなきゃならねェですね。陸路と水路、どっちで行きますかィ?」
緩やかなカーブを描く沿岸を走りながら運転手が尋ねる。
「水路?」
那智が聞き返すと我が意を得たりとばかりに破顔する。
「そう、水路でさァ! さてはお嬢さん、こいつが陸の上しか走れねェとお思いでしたね? それが違うんですなァ。こいつは水陸両用! 目的地まで乗り換えなしでひとっ走りでさァ! ま、辻魔導車ですからね!」
「さすがです」
「いやァ、それほどでもありますとも! で、どうしやす? 橋を渡りやすか? それとも河を直接行きますか?」
「どちらがお勧めですか?」
「んー……悩みますねェ! どっちもそりゃあ凄いんですよ。橋を渡ったところの城門も、コーマに入る水路もね。どっちかが混んでんなら選びようがあるんですが……」
言いながら、運転手は助手席と運転席の間に備え付けられている通信機をいじる。紫檀の木で出来た赤褐色の表面には画面が起ち上げられ、そこにコーマ周辺の地図が浮かんでいる。銀色の文字で運行情報や混雑の具合などが表示されているようだった。
「んんん……どっちも同じくらいですねェ」
「運転手さんはどちらがお好きですか?」
「あっしですかィ? あっしは――水路ですかねェ。いやね、最初にここに来た時、水路でコーマに入ったんですよ。その時のこたァ今でも覚えてまして……。凄かったですねェ。それまでも驚きっぱなしだったんですが……」
「では水路でお願いします」
「おッ、嬉しいですねェ! 任せといてくだせェ!」
辻魔導車は河沿いの街道を逸れ、内陸部へと入っていく。
ふと思いついたようにそういえば、と那智が言った。
「少しお聞きしたいことがあるのです」
「なんですかィ?」
「わたし達、実はこの国の人間ではないのです」
「へッ? そうなんですかィ!? そりゃあ気付かなかった! いやァ、随分と言葉がお上手で」
「魔道具を使って翻訳しているのです」
「魔道具……翻訳の。そりゃァすげェや! まるっきりこっちの人間そのものでさァ! ――それで、お聞きになりたいことってェのは?」
「異国の旅人として旅券をいただいたのですが、これでコーマに入ることが出来るのかと思いまして……」
那智は困ったように言う。
「旅の途中、不測の事態に巻き込まれてしまいまして、旅券を紛失してしまったのです。最寄の街で発行してもらったのですが、どうもきちんとしたところでもう一度許可をいただかなくてはならないようで……コーマでそのようにしていただくことは出来ますか?」
「ああ、大丈夫でさァ。入ったところに検問所がありましてね、そこで色々やってくれます。迷宮都市ですからねェ、異国の商人さんなんかもよくいらっしゃいますんで。こちらにゃあご商売で?」
「色々なものを見て回っているのです」
「ほほう、旅ですかィ! そりゃあ豪勢なことでございやすねェ。しかしこのコーマを選ぶたァお目が高い。コーマはね、カラトスの黒き乙女って呼ばれてるんでさァ。ほら、水が澄んでますからねェ、空を映した水面にきれーな黒の城壁が浮かんでるように見えるでしょう。コーマの都市圏は河を挟んでますからね、水も豊富で水路も多い。都市ん中にも水路を引き込んであるんで、船であちこち移動出来るんでさァ」
「きっと綺麗な場所がたくさんあるのでしょうね」
「へへへ……あっしも女房を口説く時にゃあ色々周ったもんです。まァちっと足を運べばすぐにいい場所が見つかりますからねェ。若い時分にゃ他の迷宮都市に行かせてもらったりもしましたけど、やっぱりコーマが一番でさァ! そう、色んなとこに好いた女といい雰囲気になれるような……」
運転手の声が唐突に萎れ、ぎょろりと出っ張った目が力なく彼方を見つめる。
「ええ、あっしも若い頃は結構やるもんだったんですよ。そいでそれを女房から聞いた娘がね、いい場所があったら教えてくれってねェ……」
「恋人との逢い引きですか?」
運転手は締め上げられたような声を上げて胸を押さえた。
「お嬢さん、いい一撃です……」
「巣立ちの時が来たのですね」
「ははは……いやァ、もう五年も前に結婚して家を出たんですがね。当時のあの衝撃は忘れやせん。でもま、生まれたばっかりの孫娘の顔を見た途端万事解決でさァ」
「お孫さんがいらっしゃるのですか」
「まだ一人目なんですがねェ。息子は――ああ、娘の他にもう一人息子がいるんですがね、冒険者なんてやってるもんだからしばらくは結婚しないでしょうねェ、あいつは。ま、それはともかく、そりゃもう可愛らしいんでさァ。一生懸命こっちに向かって手を伸ばしながら小っちゃい足で歩いてくる時なんてもうね、こんなに愛らしいもんがおれの血筋から生まれてくるなんて奇跡かなんかじゃないかと……」
一旦内陸部に向かった道はすぐにカーブを描いて河岸へと戻り、やがて波止場のような場所に出た。
地面には空に浮かぶ雲のような白い石が敷き詰められ、船着き場では数えきれない程の船が発着している。
それらを通り過ぎて辻魔導車が向かった先にあったのは、まるで防波堤のように河中に突き出した道だった。道は徐々に傾斜し、そのまま水中へと続いている。
運転手は躊躇わずに道に乗り入れそのまま河へと突き進む。ざぶんと水に入る音がして、車体が緩やかに揺すられた。
「思ったより揺れやせんでしょう? そういう仕組みに出来てるんでさァ」
辻魔導車は青空を映す水面を走って行く。車体に水の抵抗はほとんど感じない。水陸両用と言うだけあって、水上走行用の状態があるのだ。魔導車に組み込まれた魔術によって車体は傾くとこも、浸水することもなく滑らかに水面を走行していた。
河を進み始めてしばらく、コーマはなかなか近付いてこない。水面に聳える城壁はずっと視界に収まっているのに辿り着かないのだ。
城壁がどんどん大きく高くなり、魔導車の窓から全貌を窺えなくなってもまだ着かない。
あまりに巨大過ぎるのだ。遮るもののない河岸からは近いように見えても、実際のところその巨大な都市の外郭は岸から遠く離れた場所に存在する。
紫檀のボードを確認しながらハンドルを握る運転手に導かれ、辻魔導車は行き交う船の間を縫うようにして進み、やがて水面に映る青空に銀灰色の輝きが混じり始める。
漆黒の城壁は、もう表面に走る銀灰色の模様が確認出来る程近い。河岸で見ている時には漣のようだった魔力光の波は、実際に近くで見てみると津波のようだった。恐ろしい速さで城壁を走る銀灰色の巨大な波。その波は重なり合い複雑な波紋を描きながら漆黒の壁面を駆け抜けていく。
辻魔導車が向かう先には壁面をくり抜いたトンネル――いや、門だ。幅百メートル、高さ五十メートルを超える巨大な水門だ。優美な彫刻を施された入口には銀灰色の魔力光が仄かに輝き、両脇には美しい造りの物見櫓が築かれている。
辻魔導車はゆっくりと門の中を進む。
壁も、天井も、水面も、全てが透明な漆黒と銀砂の光に満ちていた。漆黒の大理石に銀灰色が輝き、澄んだ水面がそれを映し出す。まるで星空に浮かんでいるようだった。
「……綺麗でしょう」
星空の中を行き交うたくさんの船。銀灰色の輝き以外に灯りはなく、陽光は魔力光に阻まれて差し込まない。
やがて水面の色が星空から青空へと変わる。
「お客さんらは初めてってことですから、在留許可も貰いに行かなくちゃなりませんね。ほら、あそこが検問所でさァ」
水門を抜けた先は水に浮かぶ巨大な建物の中だった。水面に浮かぶ柵によって水路が仕切られ、宙に浮かぶ銀色の文字が案内を出している。床も壁も銀灰色の模様が走る漆黒の大理石。城壁と一繋がりになっている、まるで空港のような建物だった。
辻魔導車は端から二番目の水路に入る。少し行くと船着き場のような場所があった。大理石の床に長椅子やローテーブルが置かれ、ガラス張りの天井から陽光が降り注いでいる。そのすぐ傍にある受付には黒地に藤色で縁取りした制服を着た職員が座っていた。
おそらく許可が下りるのを待っているのだろう。数十人が本を開いたり世間話をしたり、ネットワーク・ボードを起ち上げたりして椅子に座っている。どの者も清潔でよく整えられた服装だ。褐色の肌、雪のように白い肌、赤銅色の肌――多様な人種的特徴を持った者達が混在している。
「ここは第三検問所でさァ。異国の方なんで、ここで許可を貰うことになります。そんで一応コーマにゃ着きましたが、ここからはどうしやすかィ? 入ってからも広いですからねェ」
「ここで待っていて貰えるだろうか。都市の案内も頼みたい」
「お待ちしてやす!」
船着き場にはそのまま魔導車で乗りこめるようになっている場所があった。辻魔導車は水中から続く傾斜を上り、駐車場に停車する。鼻歌混じりにエンジンを切った運転手が先に降りてドアを開けた。
魔導車を降りると静かな水の音が耳につく。幾本もの水路が流れる広い空間だったが、空調は効いているらしく寒さは感じられない。
沙伊を先頭に受付に向かうと職員の男が顔を上げる。受付の奥では他にも幾人かの職員が作業をしているのが窺えた。四十絡みの職員の男は、深々とフードを被った彼らの姿にも眉一つ動かすことなく笑顔を作る。体格が良く、手もがっしりとしている。武器を握り馴れた手だった。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「この都市に滞在する許可をいただきたい」
「旅券の提出をお願いいたします」
沙伊は懐から三人分の旅券を取り出し受付に乗せた。職員はそれを手に取り確認する。
「! ……失礼ですが、フードを脱いでいただいてもよろしいでしょうか?」
「――ああ」
沙伊がわずかにフードを上げる。
「……!」
人間離れして整った容貌が露わになり、抜き身の刀のような気配が濃密に空間を埋め尽くす。職員の男を射竦める瞳の色は恐ろしい程深い漆黒。
「……いえ、失礼いたしました。少々旅券に問題がございまして……別室にご案内いたします。大変恐縮ですが、ご足労願えますでしょうか?」
「ああ。手間をかけさせる」
一礼した職員が二言三言同僚に告げた後、沙伊達の前に立って歩き出す。連れて行かれたのは受付の脇にある個室だった。中には長椅子が二脚とローテーブルが置かれている。部屋の隅に観葉植物はあるものの、殺風景な印象を受ける部屋だ。
「お持ちの旅券はウルクラート帝国臣民が持つものなのです。コスタスという執政官の名で非常時であると書かれておりますが……」
「不測の事態が起きてな。急遽近くの街で発行してもらった」
職員が注目したのはその旅券に記されている「貴種である少女」という内容である。昨夜ある通達が検問所にあった。送ってきたのは冒険者ギルドコーマ支部。
《異国の貴種の少女が訪れた場合、速やかに保護すること》
旅券を持って訪れた者達の人数は三人。そして先程その内の一人にフードを上げさせた際感じた圧倒的な威圧感。ほぼ間違いなく彼は貴種であると職員は確信していた。
「皆様のお顔を確認させていただいてもよろしいでしょうか」
職員は慎重に尋ねる。その顔には隠し切れない緊張が滲んでいた。
「構わない」
三人はフードを完全に取り去り、よく似た沙伊と紅、そして那智の顔が露わになる。
室内が一気に彼らの放つ気配に塗り替えられる。
職員は小さく喉を鳴らした。まるで聳え立つ山脈と向き合っているような気分だった。
明らかに異国人である二人の男のよく似た顔を順番に見やり、その隣に視線を滑らせ、そして彼の動きは止まった。吸い寄せられたように目がその少女から放れない。夜空を溶かしたような漆黒の髪が、鮮やかな色彩に輝く瞳が、長い睫が目許に落とす儚げな影が、全てを呑み込んで消し去ってしまう。
「……確かに、記載されているお嬢様のでございますね」
職員はゆっくりと少女から視線を引き剥がし、彼らが提出した旅券に目を落とした。前に座る異国の貴人達に悟られないように息を吐く。
現れた異国の少女の容貌は、確かに通達にあった映像と同じだった。
「少し確認をさせていただきたいのですが、ナチ様はタオスの街の冒険者ギルドにてお作りになったアウロラ・カードをお持ちでございますか?」
「はい」
那智が手を動かすと、何処からともなく朝日の色に輝くカードが現れる。カードを差し出し、職員に見せる。そして手に持たれたカードの模様が複雑に変化した。透明な画面が立ち上がるが、そこに書かれている内容はわからない。本人以外見ることが出来ないようになっているのだ。
少女が幾つか操作すると銀色の文字が現れて職員の目にも内容が映るようになる。
「……確かに」
そして、那智のアウロラ・カードを確認したのはこの職員だけではなかった。
遮断されていた魔力が解放され、位置情報が発信された。その魔力反応はコーマから遥か遠く、ウルクラート帝国冒険者ギルド総本部にて確認されることとなる。
「失礼いたします」
先程職員が声をかけた同僚が部屋に入ってくる。一瞬室内の空気に呑まれかけた彼は、しかしすぐに持ち直して言伝が書かれた通信機の画面を見せる。
《コーマ支部から通達があった。異国の貴種、ナチの存在を確認。ただちに保護し、そこで待機せよと。だがどうにも様子がおかしい、情報が混乱している気配がある。通達では男の貴種について触れられていない。そしてその後すぐ、再びコーマ支部から通達があった。先程の指令は一旦保留とする、ナチとその一向と思しき者達を引き留めておくこと》
ウルクラート帝国の冒険者ギルドは統一された命令系統を持つ。
上から順に、
『総本部』 帝国内の全ての冒険者ギルドの頂点に立つウルクラート帝国総本部である。
『本部』 一つの州に一つ置かれる。コザーニ方面本部はカルタルメリア州本部に所属している。
『方面本部』 一つの県に一つ置かれる。コーマ支部はコザーニ方面本部に所属している。
『支部』 迷宮都市に置かれた支部。一つの郡に一つ置かれる。一つの郡には一つの迷宮都市が存在する。コーマ支部はコーマ郡内の所轄所を管理する。
『所轄所』 管轄の地域の派出所を取り纏める。
『派出所』 タオスの街にあったのが派出所。これは地方の都市とその周辺の農村を管理する。
《どうやら昨夜の通達、相当上の方から来てるらしいな。今、所長がギルドに確認を取っている。それまで相手を頼む》
彼の推測通り、昨夜の指令は総本部より下されたものであった。
異国の貴種の少女がたった一人で放浪しているという大事。アイダシュは当初サフィルスに任せて内々に収めるつもりだったものの、日が沈んでも那智は発見されなかった。
当然である。サフィルスが探していたのは街道沿い。那智はその頃街道から大きく外れた荒野を疾走しており、沙伊達と合流した後は更に街道から離れた森の中に連れて行かれた。
杳として行方が知れないまま日が沈むに至って、アイダシュは冒険者ギルドを動かすことを決断する。
「予想される那智の移動範囲」に存在する全ての冒険者ギルドに通達を出したのである。それが昨夜コーマ支部より検問所に下された命令の正体だ。
そして今回、指令が混乱した理由もそこにある。
報告とは、基本的に命令系統に従ってまず下から順に上げられていく。タオスの街の派出所のギルド員、彼の報告もまず所轄所に上げられ、そこから支部、方面本部、本部、そして総本部の皇帝に届いた。検問所の職員が先程行った報告も同じく、まずコーマ支部に送られ、そこからコザーニ方面本部、カルタルメリア州本部、総本部へと上げられていく。当然時間がかかるのだ。
那智のアウロラ・カードの魔力反応を確認した総本部は、すぐに位置を割り出しコーマにいることを突き止めた。だがその位置情報の精度はあまりよくはない。アウロラ・カードの魔力反応を頼りに探索した場合、一キロ程の誤差が生じる。
総本部は那智がコーマの何処にいるかまではわからなかった。よってコーマ支部に速やかに見付けだし一刻も早く保護するよう緊急命令を出したのである。その時、検問所から上げられた報告はまだ総本部に届いていなかった。
緊急命令はほとんど止められることなくコーマ支部へと届いた。総本部からの緊急命令を受け取った支部は速やかにそれを果たそうとし、しかし検問所に通達した後でその命令と検問所から上げられた報告の微妙な食い違いに気付く。
その結果が続けざまに検問所に出された指令という訳である。
「…………」
並んで飾り気のない長椅子に座っている三人の貴種。ただ寛いでいるだけのように見えるのに、直視するのが困難だった。圧倒的に強大な存在に相対した時の感覚。
これが貴種だ、と職員は改めて思う。冒険者ギルドに所属し迷宮で戦っていると、稀に貴種と呼ばれる者達と出会うことがある。
職員もまた迷宮内で見かけたことがあった。声をかけられた訳でもない、視線を向けられることもなかったが、今でも忘れられない経験である。
――魔を討つ戦鬼。
あれはまさしくそういうものだった。
そして今、目の前に座る者達も。
「御三方のご関係は?」
「兄弟だ。私は沙伊と言う。これは弟の紅、それが妹の那智」
ここで開け放たれた個室の扉――沙伊達が通った方ではなく受付に繋がる扉だ――から、丁寧に一礼した男が入室してくる。検問所の所長である。彼は一通りの挨拶を丁重に済ませてから切り出した。
「コーマにいらっしゃったご用件を窺ってもよろしいでしょうか?」
「まず冒険者ギルドに向かおうと思っている」
「それはお目が高い。ここコーマは数ある冒険者ギルドの中でもなかなかの強者揃いでございます」
所長は部下に冒険者ギルドに連絡するよう指示を出す。
そして貴種達への応対を続けてしばらく、待ちかねた知らせがやってくる。
「失礼いたします」
部下が通信機の画面を見せてくる。
《異国の貴種三名、通過を許可する》
所長は胸の奥に溜まった息を安堵と共に吐き出した。
一先ず、ここで決死の戦いを繰り広げる必要はないらしい。
ああ、まったく、敵か味方かわからない、ギルドがその存在を把握してすらいない貴種と相対することになろうとは!
寿命が十年は縮んだに違いない。
職員一同は速やかに滞在許可証を発行し、異国の貴種達を検問所から送り出す。
「――では、これで三か月間の滞在が許可されます。期間の延長をされる場合は冒険者ギルドで申請することが可能です。このコーマで良い時を過ごされますように」